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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
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38

 ……手段を選ばなければ、ホンモノとニセモノを見分けるのは簡単だ。


 みんなで、せーので戦うんだ。怖い言い方をすると……殺し合いをする、ということだ。

 そうなったらさすがにドッペルゲンガーたちは正体を表し、お互い協力しあうだろう。


 16人が協力しあうはずだから、残された4人がホンモノの仲間ってことになる。


 そうなったら次は5対16の戦いになるんだけど、ドッペルゲンガーたちの戦闘能力が私たちと同じなのであれば、私たちは勝てないだろう。

 だって、相手は4倍いるんだから。


 でも、それが狙いでもある。

 負けたらズェントークの聖堂に行くので、ドッペルゲンガーたちから逃れることができる。


 こうやって考えると、わりといいアイデアのような気もするけど、正直やりたくない。


 たとえば私が殺し合いに加勢するとしたら、仲間ソックリの相手を攻撃できないだろう。

 いくらソックリさんとはいえ、みんなが痛がる姿を見るのはトラウマものだ。


 しかも斬った相手が、もしホンモノだったりしたら……私はショックで寝込んでしまうかもしれない。


 それと、不安もある。


 もしドッペルゲンガーを倒した場合、聖堂に行っちゃうなんてことはないよね?

 女神様であるミルヴァちゃんが、あまりにソックリだからって間違って、ドッペルゲンガーまで聖堂送りにしちゃったら……ズェントークの街は大変なことになっちゃう。


 シロちゃんやクロちゃんなら、ドッペルゲンガーが聖堂送りになるかどうか知ってそうな気もするけど、尋ねるわけにはいかない。

 だって答えは得られるかもしれないけど、ドッペルゲンガーにも作戦がバレちゃう。


 私の狙いを知ったドッペルゲンガーたちは、何をしてくるかわからない。

 敵の目的はまだわからないけど、ジャマされちゃう可能性だってあるんだ。


 あ、そういえば……全然気にしてなかったけど、ドッペルゲンガーの目的って一体なんなんだろう?


 普通、モンスターってのは人間を殺そうとしてくる。

 カンガルードラゴンの時のドッペルゲンガーは私たちに襲いかかってきたけど、みんなになりすましている今は襲いかかってこない。

 むしろ、仲間みたいに振る舞っている。


 もしかして……みんなになりすまして、何かするつもりなのかな?

 ホンモノをここに捕まえておいて、ニセモノは街に繰り出して、評判をガタ落ちにするようなイタズラをして回るとか……?


 だ……だとすると、ヤバい! なんとしても阻止しなきゃ!


 ……あれ? でも、それが目的なんだったら、ドッペルゲンガー同士が示し合わせれば、ホンモノを捕まえるなんて簡単なことじゃないか。

 今すぐにでも押さえつけて、縛り上げちゃえばいい。なんたって16人もいるんだから、抵抗されても問題ないだろう。


 この、ひとけのない場所なら……少々手荒なことをしたって誰にもバレることはない。

 助けを呼んだところで、来てくれる人なんていないはず。


 そうやってホンモノを縛り上げたあとは、この広場にあるログハウスにでも閉じ込めておけば、すり変わりが成立する……!


 ……うぅ~ん、身の毛もよだつような悪行だけど……この推理はなんか違うような気がするなぁ。


 仮に私がドッペルゲンガーなんだったら、クルミちゃんはもっと目立たない所に隠しておいて、ホンモノとは会わせないようにするだろう。


 私はクルミちゃんに会えたことでドッペルゲンガーであることを確信できたんだ。

 わざわざそんな情報を与える意味はどこにもなくて、さっさと襲いかかっちゃったほうがいいよね。


 うぅん……ますますわからなくなってきた。

 ドッペルゲンガーの目的って、いったい何なんだろう……?



「……ねーねーリリーちゃん、リリーちゃんってばー!」


 大声で呼びかけられて、長考していたリリーは我に返る。


 まわりにはミントたちがいて、5方向からリリーの服の裾を引っ張っていた。

 青いシャツはひっぱりだこ状態で、テントみたいに伸び広がっている。


「いっぱいよんだのにー! なんでおへんじしてくれなかったのー?」


 ミントたちは示し合わせた様子もないのに、揃ってフグの子供のように頬を膨らませていた。


「……あ、ゴメン、ちょっとボーッとしちゃってた……ところでなぁに、ミントちゃん?」


 ドッペルゲンガー対策を考えていたとも言えず、リリーはとっさに誤魔化す。

 ミント軍団は特に気にするようでもなく、疲れた上目遣いを向けてきた。


「ミント、おなかすいちゃったー」


 正面のミントが嘆息しながら言うと、それを皮切りとして一斉に空腹コールをはじめるミントたち。

 エサを求める雛に囲まれた親鳥のように、戸惑うリリー。


 育ちざかりも五倍となると、圧倒されてしまうほどのパワーがあった。


「……わ、わかったわかった。とりあえずゴハンにしよっか」


 両手をフル活用して、五つの小さな頭を撫でてなだめる。

 新人の保母さんにでもなったような気分だった。


 しかし、教育ママのようなヒステリックな異論が割り込んでくる。イヴたちだ。


「ゴハンですってぇ!? モンスターがいるってのに、ゴハンなんて食べてる場合じゃないでしょ!」


 お姫さまクインテットは揃って目を吊り上げている。

 口々に反対の意を唱えているが、声量があるのでいちどに抗議されるとかなりの騒音だった。


「そうよ、アタシがホンモノなんだから、ゴハンの前に全員ブッ倒しましょう! そうすれば、食いぶちが四人も減るわ!」


「いいわねソレ、言い出しっぺのアンタから順番にブッ倒してあげる! アタシになり変わろうとしたことを、地獄で集まって後悔するがいいわ!」


「それはアタシの台詞よ! リリー、アンタならわかるわよね!? アタシがホンモノだってことが!」


「ちょっと、リリーに気安く話しかけんじゃないわよ! 離れなさいっ、このモンスターどもっ!」


 怒鳴りながら詰め寄ってくるイヴ独特のプレッシャーは、どれも本物としか思えなかった。

 これは五倍どころではないと、リリーはひたすらたじろぐ。


「わああっ!? まっ、まぁまぁ! 落ち着いて! 落ちついてイヴちゃんっ! ……こ、ここは……私に任せてくれないかな?」


 取り繕うために咄嗟に口に出したことだったが、口に出したことでハッキリと認識できた。

 リリーは目が覚めたように瞠目する。


 ……そ、そうだ、そうだった。

 ここは、私がしっかりしなきゃいけないんだ……!


 みんなは自分にソックリのモンスターに囲まれて、かなり心細いはず。

 それに、自分じゃないヤツに自分のように振る舞われるのはいい気分がしないだろう。


 思い詰めるあまり自分がホンモノだと証明しようとして、とんでもないことをやりはじめるかもしれない。

 例えば、さっきのイヴちゃんみたいにケンカを売るとか……。


 ドッペルゲンガーの意図がわからない以上、軽はずみな行動は避けなきゃいけない。

 だって、もしかしたらそれが敵の狙いかもしれないんだから。


 となると……この場をなんとかできるのは、ニセモノがいない私だけだ。


 それに、倒したらどうなるかわからない以上、戦いは避けなくちゃいけない。

 ニセモノにバレないようにホンモノを見つけ出して、こっそりここから逃げ出す……それが最善の方法かもしれない。


 うん、そうだ! それしか方法はないっ……!

 そしてニセモノを見破れるのは、私だけ……!


 ……みんなを助けられるのは、私だけなんだ……!


 決意を固めたリリーの表情が、朝の洗顔を終えたようにシャキッと引き締まる。

 力強い視線をイヴに向けると、あれほどうるさかったのがピタリと押し黙った。


「私がきっと、みんなを見つけてみせる! だから慌てないで、全部私にまかせて! ……いいよね?」


 リリーは仲間たちを見渡しながら、短い言葉で信を問う。

 多くを語らないのはドッペルゲンガーを気にしてのことだ。それは仲間にも伝わったらしい。


 ミントグループも、シログループも、クログループも、揃って了承してくれた。

 イヴグループは少し不服そうだったが、渋々承知してくれた。


 ここで意見が別れるんじゃないかとリリーは思ったのだが、各グループの意思は統一されていた。

 ドッペルゲンガーは思考までも模写するというのは、どうやら本当なのかもしれない。


「よし……じゃあ、ゴハンだ。みんなで手分けして、ゴハンを作ろう! ……21人分!」


 リリーは拳を突き上げる。


 こうなったら、ドッペルゲンガーの目的がわかるまで……そして、ホンモノのみんなに会えるまで……徹底的に付き合ってやる。と誓いを新たにしていた。

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