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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
聖剣ぶらり旅
184/315

14

 村に戻ったリリーたちは村長の家に魚籠を持ち込んだ。

 十もの籠がどれも赤いカエルで埋め尽くされていたので、村長は目を発射せんばかりの勢いで剥き出していた。


「ば、ばかな……! 赤がこんなに……!? 投網かなにか使ったんじゃろう!?」


 村長は信じられない様子で床にしゃがみこんで籠に手を突っ込む。

 カエルを一匹取り出し、赤いルビーを鑑定するかのようにいろんな角度から調べはじめた。


「跡がどこにもない……? 道具を使えば身体に跡が残るはずなのに……!? ということは、本当にこの量を手で捕まえたというのか……!? おぬしら一体何者じゃ!?」


 驚いた顔が貼り付いたように変わらない村長を、リリーたちはいたずらっ子のような笑顔で見おろしていた。


「ふふ、ただの見習い冒険者です!」


「おどろくのはまだ、はやいよぉ~」


「フフン……アタシ、言ったわよね? 二百万用意してなさいって」


 リリーとミントの言葉を受け、真ん中に仁王立ちになったイヴは挑発的に鼻で笑った。


「拝む準備を」


「え、あ、あの……お願いいたします……」


 続いたクロとシロの言葉に、何を言わんとしているのか気づいた村長は心臓を急襲されたように「ハウッ!?」と呻いた。


「ま……まさか……まさかまさかまさか……おぬしら、まさかっ……!?」


「「「「「じゃあーーーんっ!!」」」」」


  ハモりつつイヴは王族の証明を突き付けるような仰々しさで、背中に隠していたまばゆいカエルを見せつけた。


 それから村は大騒ぎになった。

 村長宅で絶叫を聞きつけた村人がやって来てひっくり返った村長を発見、何事かというところに金色のカエルを見せつけられ、誰もが村長のように絶叫とともに腰を抜かした。それをひたすら繰り返し、村人がどんどん増えていく。


 屋台もほったらかしにして村じゅうの人たちが村長宅に集結し、リリーたちを取り囲んだ。

 皆は口々に黄金のカエルを手にした者としてリリーたちを賞賛し、もみくちゃにして、最後は胴上げまでされた。


 黄金のカエルはひとまずキレイな水槽に移され、神棚のようなところで祭り上げられた。


「ううむ……この黄金のカエルがあれば、この村にもっと人が呼べる……! さっそく新しい名物としての宣伝プランを立てなくては……!!」


 シワの刻まれた顔を年甲斐もなく紅潮させる村長の声は若者のように弾んでいた。

 水槽の中であっても精製された金塊のような、艶のある光を放つ黄金のカエルは見ているだけでもご利益がありそうで、それだけで観光名所たりうる豪華絢爛オーラを放っている。


「なんでもいいけど、そろそろ報酬ちょうだいよ」


 イヴから手を出して催促された村長は、そのあたりにいた村人に魚籠の中のカエルを数えるよう命じた。赤よりも金のほうが気になってしょうがない村長は勘定には参加せず、ずっと水槽の前から離れなかった。


 リリーたちの釣果は、赤いカエルが全部で百匹で百万、金色のカエルが一匹で百万、報酬はしめて二百万だった。

 たった一日足らずのカエル漁でこんなに稼ぎ出した者は冒険者ではもちろん、この村の歴史上でも初めてらしい。


「うむ、約束しよう……! そなたらを伝説のカエルウーマンとして長きに渡ってこの村で語り継ぐことを……!」


 感極まった村長から、一方的に嬉しくない約束をされた。


「わかった、わかったから、さっさと報酬!」


 イヴが二度急かしてようやく村長は水槽の前から離れ、部屋の隅にある宝箱をガサゴソやりだした。

 その背中を見ていたリリーは、ついに報酬がもらえるのか、と思ったが、それでもまだ夢の中にいるような信じられない気持ちでもあった。


 カエルを捕まえる大変さも予想外だったけど……まさか二百万も稼げるなんて……!

 私の冒険史上でも間違いなく最高額……いや、ひとつの仕事で二百万なんて、本職の冒険者以上だ。

 ついに私もプロの冒険者の仲間入りかぁ……!


 しかも二百万あれば船が使えるから、ツヴィートークに戻るのは観光同然になる。

 この村からは船は出てないみたいだから報酬をもらったらいったんズェントークまで戻ろう。

 それで武器屋のお姉さんにきちんと代金を払って、残ったお金で船に乗るんだ。

 鞘の代金を払ってもお金はたっぷり残るから……一等客室もイケるかも……!?


 リリーは夏休みにしたセレブ旅行を思い出し、甘美な思い出が蘇ってきてとろけた顔になっていた。そこに村長が戻ってくる。


「ホラ、約束の報酬じゃ、ちゃんと二百万あるから数えてみるがよい」


 差し出されたお盆の上には分厚い紙の束がふたつ置かれていた。

 紙束をひとつ取ったイヴはいぶかしげな顔で紙面をねめつける。


「……なによこれ?」


 長方形の紙には「10,000ケロ」と書かれていた。数字の横にはこの村のマスコットのカエルが肖像画みたいに描かれている。


「約束通りの報酬に決まっとろうが」


「ちょっと、こんな紙切れで誤魔化してんじゃないわよ!」


 イヴは首を締めんばかりの勢いで村長の胸ぐらを掴む。慌ててリリーたちは止めに入った。


「ちょ、お……落ち着け! 依頼書にも書いておっただろう、報酬は地域貨幣で支払うと!」


「ち……地域貨幣ぇ!?」


 地域貨幣というのは町や村などの集落で発行している限定的な通貨のことだ。

 王都に届出して認可を得られれば発行でき、いくつかのルールを持って運用される。ただ指定された地域でしか使うことができず、ゴールドへの両替は法律で禁止されている。


 リリーは慌てて依頼書を取り出した。

 確かによく見てみると隅っこのほうに『報酬はゴールドではなく、地域貨幣による支払いとなります』と米粒のような字で書かれていた。


 あまりのことに二の句が告げないリリーとイヴ。苦笑するシロ、意味がわからず瞳をパチクリさせるミント、変わらない様子でゆっくり瞬きを繰り返すクロ。


 イヴの手から離れた村長は着物の襟を正すと、床に落ちた紙束、いや札束を拾ってリリーたちに再び差し出した。


「では……遠慮なく受け取るがよい、そなたらは我が村の英雄だ……!」


 村の名誉となった少女たちは、わあっ、と村人たちの歓声と拍手に包まれた。



 報酬を受け取ったリリーたちは足早に村長の家を離れ、繁華街に繰り出していた。


 手はじめにこの村で一番高級そうな宿屋に入り、一番高級な家族用のスイートルームをひとりひと部屋づつ借りた。宿の風呂で泥を洗い流したあと、汚れた服をベルガールに洗濯してもらった。ベルガールに気前よくチップを払ったら、一ヶ月分の給料だと大喜びされた。

 宿の近くにあったエステにも行って一番高いコースを頼んだ。イヴ以外はエステは初体験だったが、ツルツルの肌がさらにツルツル、トゥルントゥルンになった。


 そのあと一番高級そうなレストランに入り、高いメニューの順に片っ端から注文した。

 肉がいっぱい出てきたが、何の肉は聞かずに手あたり次第に食らいついた。

 食後はウエディングケーキみたいなのにカエルの形のエクレアが乗ったカエルディングケーキを食べた。


 レストランを出たあと屋台でも食べ歩きをし、射的や輪投げをして遊んだ。釣ったカエルをもらえるというカエル釣りもあったが、やらなかった。


 そして土産物屋巡りをし、これでもかと買い物をした。


 まずはカエル帽子を色違いで人数分買った。腹這いになったカエルのぬいぐるみが付いている特徴的なヤツだ。

 ちょうど寝袋もあったのでこれからの旅に役立つかとこれも人数分買った。中に入るとカエル人間みたいになるカエルの着ぐるみ寝袋だ。

 そしてカエルのイラストがプリントされた大きなバスタオルも買った。


 リリーはナイフがだいぶ切れ味が悪くなっていたのでカエルナイフを買った。刺すと「ゲコ」っと音がするやつだ。ちょうどサイフも傷んできていたのでカエルのがま口も買った。


 イヴはおやつ用にカエルチョコレートと、武器の手入れ用のガマの油を買った。


 ミントはカエルの顔の形をしたウエストポーチと、グッタリしたカエルを背負っているようなリュックサックを買った。


 シロは薬用のガマの油と、料理用のガマの油、そしてカエルの文鎮を買った。


 クロは両手杖に付けるためのカエルの根付けと、調合用にカエルの干物を買った。


 最初はみんな選んで買っていたのだが、最後は適当にカゴに放り込み、手当たりしだいに買い漁った。


 買い物を終えて宿に帰ったリリーたちはそれぞれの部屋に戻ったが、結局リリーの部屋に集まって同じベッドで就寝した。


 次の日、残ったケロを全額宿に支払ったリリーたちは従業員たちに見送られて宿を出た。村でもすっかり有名人になっており、道行く村人たちから次々と声をかけられた。


 村の出口である大通り沿いのアーチに着いたところで、イヴが溜息まじりに口を開いた。


「……ねぇ、なんかアタシたち、この村を満喫したみたいな格好になってない?」


 確かに今のリリーたちは頭の上から足元までカエルづくしだった。

 カエル帽子、カエルリュック、カエルポーチ、カエル根付、カエル靴下、カエルサンダル、そして武器までカエル一色だ。


「まぁ、実際楽しかったから、いいんじゃない?」


 リリーは手にしたカエルのペロペロキャンディを舐めながら答える。

 昨晩イヴから「依頼書はちゃんと目を通せ」とこってり絞られたのも忘れたかのような気楽さだ。


「ミントもたのしかったー! またこようよー!」


「はい、また来たいですね」


 遊園地帰りの母子のように微笑みあうミントとシロ。


 実のところ高額の報酬をケロで貰ったときに、何度か訪ねて使い切るという案も出たのだが、ケロには有効期限が三日と書かれていたので一気に使ってしまったのだ。


「次はカエル釣りをやりたい」


 夏休みの日記みたいな感想を述べるクロ。


「ちょ、もうカエル取りはいいでしょ!」


 こりごりといった様子でイヴが突っ込むと、皆がどっと笑った。


 大通りにはちょうど通りすがった妙齢のお姉さん冒険者たちがいて、笑い合うリリーたちに気付いた。


「わぁ、見てあの子たち、カエルだらけよ!」


「カエルの使者みたいでかわいい!」


「この村ってカエルが名物って聞いたけど、そんなにいい所なのかな?」


「時間に余裕があるわけじゃないけど……ちょっとだけ寄ってみない?」


「うーん、通り過ぎるつもりだったけど、あの子たちを見てたら急に行きたくなっちゃったね」


「賛成! 入ろう入ろう!」


「ふふ、あの子たちみたいにいっぱい楽しめるといいね!」


 と、予定変更してはしゃぎながら村へと入っていった。


 リリーはあのお姉さんたちが自分たち以上に楽しめることを祈りつつ、キッカラの村に別れを告げた。

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