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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
空から来た少女
155/315

33

 ちびっこコンビがやってのけたのは「気そらし作戦」だった。

 背後をじっと見つめてなにかあるようなフリをして、最後に大声で何もない所を指さし、注意をそらす。

 石柱が迫ってきていることも忘れて背後を見たグレムリンはまんまと引っかかり強烈な一撃を見舞われることとなった。


 意図を察したリリーはギリギリまで待って一気に伏せた。

 早めに伏せてしまうとグレムリンに石柱の存在を思い出させてしまうと考えたからだ。


「や……やった! やったぁーっ!!」


 リリーは一緒に押し倒したイヴと共に寝そべりながら、壊れたオモチャのように宙を舞うグレムリンを見送った。

 腰のあたりから背骨がポッキリと折れ、かろうじて薄皮一枚で繋がっているような痛々しい状態だ。


 ミントとミルヴァは作戦成功とばかりにはじける笑顔でハイタッチをする。


「ミントちゃんミルヴァちゃん! ナイス!」


「フン、アタシがトドメをさしてやりたかったけど……まあいいわ」


 リリーとイヴは起き上がりハイタッチにまざった。


 漆黒のローブを旗のように風に揺らしていたクロがそっと手をあげ、リリーの肩にチョイチョイと触れた。


「おっ、クロちゃん? クロちゃんもナーイス!」


 リリーが手を差し出すとクロは掌をぴったりと合わせてきた。ハイタッチというよりは拝んでいるみたいな厳かな感じになる。

 しばしそうしたあと、クロはトロッコの後方を指さしながら口を動かした。


「ん、なに? クロちゃん?」


 何かつぶやいているようだが走行音がうるさくて聞きとれない。

 リリーは指さす方向を目で追い、息を呑んだ。


 身体がちぎれかけたままのファイヤーグレムリンが四つ足で追いかけてきたのだ。


「ボギュァァァァァァァァァーーーーーーーー!!」


 蒸気機関のような雄叫び、長い手足をワサワサとせわしなく動かし蜘蛛のような走行。

 衝突の衝撃で三日月のようにひしゃげた顔が、どんどん迫ってくる。


 悪夢のような光景だった。

 あまりの不気味さに一同はわあっと悲鳴をあげる。


「どうしよっ、どうしよう!? イヴちゃんっ!?」


「あ、慌てんじゃないわよ! アンタなんとかしなさいよっ!!」


 パニック気味に揉み合うリリーとイヴ。


「な、なんじゃアイツ!? 面妖な!?」


「こ、こわ~い!」


「あわわわわ……」


 震えながらもミントとミルヴァをしっかりと抱き寄せかばうシロ。


「……」


 番犬とニラメッコをするかのようにグレムリンを見つめるクロ。


「「「「「うわあっ!?!?」」」」」


 恐怖のあまり錯乱するリリーたちの間をグレムリンが突っ切って行く。

 はじき飛ばされ落ちそうになったが鎖で繋がれていたおかげでなんとか踏みとどまれた。


 過ぎ去った跡は隕石が転がったような炎の筋が残る。


「あちちちち!?」


 衣服にも引火し、リリーたちはさらに錯乱する。

 特にちびっこ達をかばって伏せていたシロは翼ごと背中が燃え上がった。


「し、シロちゃんっ!? み、みんな、シロちゃんの火を消して!!」


 リリーは自分についた火よりも先にシロの身体を叩いて鎮火する。

 イヴとクロも加勢し、なんとか消し終えた。


「よし、この調子で叩き合って消すわよ!」


「うん! ……って痛い痛い痛い痛い!? イヴちゃん!」


「ガマンなさい!!」


 イヴの張り手は強烈だった。炎より痛かったのでリリーは逃げたが追い回されてバシバシとやられた。

 身体中に手形のアザを残しながらなんとかリリーの身体の火は消えた。


 クロはというと、トロッコの床に背中をこすりつけて鎮火していた。


「……あ、それいいわね、アタシもそうしましょう」


「そんなぁ、叩きたかったのにぃ!」


 リリーの不平を無視し、仲良しの猫のようにトロッコをゴロンゴロンと転がるイヴとクロ。火はあっさり消えた。

 仲間たちとのひと騒ぎはちょうどいい心の清涼剤となった。取り乱していたリリーたちは落ち着きを取り戻す。


 トロッコは通路を出て広い空間に出た。先ほどの熔岩の川と同じような所だったが下はマグマではなく湖になっていた。

 岩でできた一本橋の上を疾走するトロッコ。眼下の水は冷たそうで、リリーはつい飛び込みたい衝動にかられる。


 しかしまわりにはインプがうじゃうじゃいてなにやら作業をしていた。

 水にドバドバと土を放りこんでいるところだった。自分たちが苦手な湖を埋め立てようとしているのだろう。下はオアシスなどではなくインプ地獄であった。


 前門の虎であるグレムリンはというと橋の終わり、再びトンネルになっているところで待ち構えていた。次の体当たりで終わりだといわんばかりに土蹴りをして気合を入れている。


「よし、私が盾でなんとか……」


 リリーは炎の悪魔と相対する覚悟を決め前に出ようとしたが、イヴに制止された。


「あの体当たりをそのちっこいので防ぐのは無理よ、アタシがやるわ」


「なにか策があるのか?」


 ミルヴァの問いかけにイヴはフンと鼻をならし不敵に笑った。


「インプを打ったきりで物足りないところだったのよね……カッ飛ばしてやるわ!!」


 ショベルをブンブン振り回したあと打者のような構えをとる。

 リリーたちはイヴに促されるままにトロッコの後部に移動した。


 イヴは先端に立ち、バットのように構えたショベルを小刻みに揺らしてタイミングを取りはじめた。


「ボギュッ!!」


 後ろ足で蹴り上がり、跳躍するグレムリン。

 呪いの仮面のような顔がひときわ激しく燃え上がる。アンバランスなほどスマートな身体がさらに細長くなり軌跡のようになった。


 怨念がとり憑いたような火の玉が、イヴに迫る。


「ギュエガァァァァァァァァァーーーーーーーーッ!!!」


 相手を丸飲みせんばかりの大口と絶叫作業中のインプたちも気づき一斉に橋を見上げた。

 図らずとも多くの観衆が見守るなか、フラミンゴのようにあげていた片足をおろしつつ、イヴは全身全霊をこめたフルスイングを放つ。


「かっとべぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」

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