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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
空から来た少女
150/315

28

 もうもうとあがる毒々しい色の煙にまかれる。

 咳き込み、パニックになる仲間たち。それがかえってリリーを冷静にさせた。


「くっ……! み、みんな! 外! 外に出ようっ!!」


 リーダーの号令一下、手を取り合って宝箱から離れる。

 逆方向に走って壁に激突しそうになったがなんとか廊下に出ることができた。


「けほっ! けふっ! ……み、みなさん……ご無事……ですかっ?」


「うぅ……なんとか生きとるぞ……」


「なによこのケムリ……煙たいだけでなんともないじゃない、脅かすんじゃないわよ」


「ま……待ってイヴちゃん……ねぇ、なんだかムズムズしない?」


「え? 一体何を言って……ううっ!?」


「ああっ、なんだか身体中が……!」


「ひゃあ~!? かゆ~い!?」


「こりゃたまらん!」


 身体の内外からかつてないほどの痒みが沸き起こる。

 リリーたちはたまらず倒れこみ、服の中に毛虫が入ったみたいに身体をよじらせはじめた。


「ぐわあぁ~!? 痒い痒い痒いっ!! あの煙はいったい何だったのよぉーっ!?!?」


「ルシオールという樹木から作った木蝋、その搾りカスを噴霧する罠と思われる。吸気や皮膚に付着すると強い引っ掻き反射を引き起こす」


 床を転がり回る仲間たちを見下ろしながら他人事のように説明するクロ。


「クロ!? アンタはなんで平気なのよ!? 痒くないの!?」


 クロはいつもと変わらぬ棒立ちのまま「痒い」と発声する。


「平気なんだったらアタシの身体を掻きなさいよっ!」


 怒鳴りながらもどかしそうに背中をのけぞらせるイヴ。

 全身痒いのだが両手が縛られているせいで思うように掻けないのだ。


「そ、そうだ! お互いを掻きあえばいいんだ! みんな! まずはイヴちゃんの身体を掻いてあげようっ!!」


 リリーたちは痒いのを懸命にこらえてイヴの元へと向かう。呻き苦しみながら、少しでも痒さを軽減しようと腹ばいになったところを地面にこすりつけ這いずる姿は人間にすがるゾンビさながらであった。


「ギャアー!? やめなさいっ! 掻くんじゃないわよっ!!」


 しかしイヴは身体に触られた瞬間、本物のゾンビに襲われたような絶叫で足蹴にした。

 相手が仲間であれ神であれおかまいなく足の裏で押し返す。


「いったいどっちなんじゃ!? 掻いてほしいのか、ほしくないのかっ!?」


「他人の手はくすぐったいのよっ!!」


「ならスコップでかいてあげる~」


 横から這ってきたミントがにゅっと手を伸ばし、小さなスコップの先っちょで脇腹を撫でた。


「まあ手じゃなければ……って、くすぐったいわっ!!」


 両手を振り回してスコップを跳ねのける。


「じゃ、じゃあこれならどう?」


 リリーは頬にブーツの跡をつけられてもめげず、ショベルを伸ばしてお腹のあたりをさすってみた。


「まあこのくらい大きければ逆に……って、変わらんわっ!!」


 ショベルの柄を掴んで引っ張り、リリーからショベルを奪い取るイヴ。


「あっ!? くぁ~っ! そうそう、ソコ! ソコよぉ~!」


 引っ張った拍子にちょうど痒いところに触れて気持ち良かったのかショベルを身体に押し当てはじめる。もはや恥も外聞もない。

 赤いハードレザードレスに身を包んだツインテールの少女が採掘道具を抱きしめて身悶えする……その姿は親友のリリーの目から見ても異様だった。


「え、えーっと……イヴちゃんはアレで満足してるみたいだから……次はミントちゃん!」


 リリーはターゲットを変え、隣りにいるミントに飛びかかった。

 手首のあたりで縛られた両手を蜘蛛のように動かして、ハンタードレスごしの身体をほどよい強さでワシャワシャする。

 シロ、クロ、ミルヴァも参加し、合計4体の蜘蛛が幼い肢体を這いまわった。


 普段だったらくすぐったがるのだが、今は痒い所に手が届いて気持ちいいのかミントは「ふにゃあ~」と甘える猫のように地面を転がった。

 リリーは学院に住み着いている野良猫が産んだ子猫をじゃらしているような幸せな気分になり、自身を襲う痒みがいくぶん紛れた気がした。


「余も、余も掻いてくれ! 痒くてたまらんっ!」


 とろけるミントを見て我慢できなくなったのか、ミルヴァが立てた親指で自らを指して催促する。


「うん、じゃあ次はミルヴァちゃんを掻いてあげよう!」


 リリーの手が女神に触れると、さあこいとばかりに地面に仰向けになる。

 ミルヴァは青いドレスの上に銀の魔法鎧を身に着けているので掻きにくい。リリーは鎧を緩めて中に手を突っ込んだ。


「おほっ! 苦しゅうない! 苦しゅうないぞ!」


 身体をくねくね動かして、痒いところに手が当たるように調整するミルヴァ。

 それに応えるようにリリーは一心不乱にまさぐる。


 ミルヴァとは昨日の夜から一緒に入浴で背中を流しあったり同じベッドで眠ったりしてスキンシップをした。

 女神の身体に触れるのは初めてではないのだが、触りごこちは普通の女の子と変わりない。


 柔肌は幼い子供そのもの……指を立ててマッサージしながら、リリーは思った。


 ……女の子の身体というのはいくら触っても飽きないなぁ……許されるならずっと触っていたいよ。男の子の身体は触ったことないけど、どうなんだろう? 見た目的にはゴツゴツしてて骨ばってて硬そうであんまり触っても気持ちよくなさそうだな……。

 しかしミルヴァちゃんの肌って赤ちゃんみたいにすべすべしてて……できれば直接掻いてあげたいけどこのドレスがワンピースだから簡単には脱がせられないんだよね……ああ触りたい触りたい……。


 ふと横を見るとミルヴァのドレスの中に手を突っ込んでいるミントの姿があった。

 ロングスカートがめくれあがり、小枝のような脚とドロワースがモロ出しになっている。

 「あっ、あの、もう少し、脚を閉じられたほうが……」とシロが自分の事のように顔を赤くしながら裾を戻そうとしている。


 女神のおみ足をゴシゴシとさするちいさな手を見てリリーは内心「いいなぁ……」と羨ましくなってしまった。

 見とれているうちにミルヴァが飛び起きた。


「よぉーし、次はシロじゃ!」「おーっ!」


「えっ? わ、私は結構で……あっ」


 断る間もなくちびっこふたりに押し倒されるシロ。

 ミントとミルヴァはその勢いのままローブの裾から潜り込み、モゾモゾしはじめた。


「きゃっ!? い、いけませんっ! そ、そんなところ……ああっ!」


 慌てるシロはいつも以上の内股になり、めくれあがるローブの裾を恥ずかしそうに押さている。


「あ……いいな……」


 思わず口に出してしまうリリー。


 ……いいなぁいいなぁ、私もシロちゃんの脚、触りたいなぁ。

 機会があれば胸とかは触ってるけど脚は触ったことない気がする。

 一緒にお風呂に入るときとか見たことあるけど、シロちゃんってローブの下は白いレースのガーターベルトをしてるんだよね……。

 シロちゃんの自作でそれがまた触り心地がよさそうで……せっかくのチャンスだし私もドサクサに紛れてシロちゃんの脚触っちゃおうかな……。


 リリーが痒みとは別のウズウズを感じていると、横にいるクロからツンと突かれた。


「ん? なにクロちゃん? あ、クロちゃんも掻いてほしい?」


「……」


 クロはリリーの肩越しに視線を向けて何かを言いたそうにしていたが、押し黙ったまま再びリリーを見つめなおし、コックリ頷いた。


「よし、じゃあ次はクロちゃんだ!」


「まいるぞミント!」「おーっ!」


 木のウロからウロへ飛び移るムササビのように白いローブから飛び出て黒いローブへと突っ込むちびっこ。

 羞恥のあまり失神寸前だったところをようやく開放されてシロは「はふぅ」と荒い息を吐いた。かっと赤熱する顔を見られるのも恥ずかしいのか両手で顔を覆っている。


 かたや次の標的となったクロは海に漂う流木のようにされるがままだった。

 ミントとミルヴァはクロの一枚布のローブの中に完全に入り込み、フードのところから顔を出した。

 頬を寄せあってローブの中で蠢きあう三人。


「あーっ! いいないいなー! 私も入るっ!!」


 リリーはとうとう叫んでしまった。

 本来の目的をすっかり忘れており、もう我慢できないとばかりにクロのローブの中に潜り込もうとする。


 しかし寸前でシロに押しとどめられてしまった。


「あ、あのっ、お待ちくださいっ! リリーさんっ、あちらを……!」


 まだ赤みの残る顔のシロが倉庫のある方角を指差していた。


「なに、シロちゃ……いっ、インプ!?」

 

 坂道の上から大勢のインプたちがこちらに走ってくるのが見えた。


「……最初は一体だったが、仲間を呼んだ」


 寝そべったままつぶやくクロ。

 状況を理解していないミントはまだクロの身体を掻き続けているがミルヴァはすでに手を止めていた。


「そなた気づいておったのか!? なら早く教えぬか!」


「とりあえずみんな起きて!」


 リリーはチェーンを引っ張って皆を起こす。

 しかしイヴだけはショベルを杖がわりにして自力で立ち上がった。


「フン、ちょうどいいわ! 脚が痒かったところよ!」


 まだ痒みで身体をモジモジさせているが闘争心は衰えていないようだ。


「こんな状態で戦うの!? 無茶だよっ! 逃げ……い、いや、イイ感じになるまで……えーっと、先へ、先へ進もうっ!!」


「戦いやすい地形に誘い込む作戦じゃな! 乗った!」


「か、かしこまりました!」


「おーっ!」


 もはや迷っている時間はなかった。皆はリリーの提案である逃走を選んだ。

 イヴは最初は反対していたが仲間たちから促され、未練を残しつつも敵に背中を向けた。


「よしっ! 行こう!!」


 かけ声とともに駆け出すリリーたち。


 奈落の底に繋がっているかのような暗黒の坂道に突入する。

 行先がたとえ邪神の本拠地であってももはや手遅れ。後戻りはできない。


 背後からは鉄砲水のように小悪魔が押し寄せてきている。


 行くも地獄、戻るも地獄のなか……リリーたちは前に進むことを選んだ。

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