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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
空から来た少女
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20 倉庫

 扉を閉じたインプたちもテーブルにつき、飲み食いを始めたところでリリーたちは石扉に戻る。

 いったん外に出ようと皆で力をあわせて扉を押してみたが、びくともしなかった。


 石扉と宴会するインプたちに挟まれ、リリーたちは身動きが取れない状態になってしまった。


「……ど、どうしよう……」


 不安になるあまり我慢できなくなったリリーが蚊の鳴くような声をあげた。


「インプたちをブッ飛ばすしかないわね」

「うむ、いま奴らは夕餉(ゆうげ)の最中で油断しておる。好機じゃ!」


 鼻息を荒くするイヴとミルヴァ。


「このままこちらでじっとしているというのはいかがでしょうか……?」

「当初の作戦に準ずるなら、潜伏すべき」


 後衛ふたりは消極的な提案。


「ねぇねぇねぇ、あれは~?」


 ひとりだけあさっての方向を向いていたミントは何かを発見したようだった。


 ミントの視線は壁際にある台車つきのハシゴに注がれていた。

 ハシゴは天井まで伸びており、交差する鉄梁へと続いている。


「天井を伝っていけば……この部屋の奥に行けるかも」


 天井に張りめぐらされた鉄骨を目で追いつぶやく。


 リリーの目にはどんよりしたネズミ色の鉄骨は曇り空のように映り、一筋に伸びるハシゴはまるで雲の間から差し込む光のように見えていた。


 窮地のなかに救いを見出し、心の中を覆っていた不安のモヤが晴れていく気がした。


「奥に何もなかったらどうすんのよ」


「その時はまた戻ってくればいいじゃない」


「あの、落ちたりしませんでしょうか……?」


「リスクはあるかもしれない。けどインプたちがここに集まっているということは他が手薄になってるはず。いろいろ調べるなら今がチャンスなんだ」


 仲間たちの意見はあったが話しているうちにリリーの決心は揺らぎないものに変わっていく。


 イヴとミルヴァが提案した、お酒を飲んで酔っているインプたちを襲撃する作戦。

 シロとクロが提案した、インプたちがいなくなるまでこの場で息を潜める作戦。


 リリーが選んだのはそのどれでもない、ミントが見つけたハシゴを伝ってインプたちの上を通り抜ける作戦だった。

 理由は簡単、一瞬ではあるがハシゴが輝いて見えたからだ。


 リリーの持つ第六感が反応した瞬間だった。

 この感覚があったときは自分の思うままに行動するほうが良い結果を生むとリリーは自覚していた。


「よし決めた。みんな、あのハシゴを登って天井を伝っていこう」


 リリーが力強く決断したので、皆はそれ以上は何も言わず承諾した。


 ミントを先頭にハシゴに取り付く。

 採掘場で使われてるだけあってハシゴは頑丈で、6人が同時に乗っても軋みひとつなかった。


 ハシゴをのぼり、鉄骨の上に立つリリーたち。

 鉄骨は30センチくらいの幅で、地面から5メートルくらいの高さに位置していた。


 自分で力強く推進しておきながら思ったより高くて狭かったのでリリーは少し後悔する。


「ひぁ」


 背後からシャックリみたいな音がした。

 ふらついたシロが悲鳴を出しそうになったが、こらえて変な声になったようだ。


「シロちゃん大丈夫? 下を見ないようにね」


「は……はひっ」


 生まれたばかりの子鹿のように震えるシロをフォローしながら、リリーたちは静かに鉄骨渡りをはじめる。


 鎖に繋がれ自由がきかないうえに、道幅の制限も加わって歩きにくいことこの上ない。

 自然に亀のようなゆったりとした歩みになり、なかなか進まない。


 格子状に張られた鉄骨、所々に積み上げられた木箱が飛び出している。

 眼下にはインプたちの群。キーキーと機嫌の良さそうな歓声をあげ飲めや歌えの大騒ぎをしている。


 その数50匹以上……さながら地獄の底で繰り広げられる悪魔の饗宴のようであった。


 落ちたら最後、食べられちゃうかもしれない。

 焦って進んで見つかったら元も子もない。牛歩ではあるが慎重さを優先して進んでいこう……とリリーは心に誓った。


 しばらくして半分くらいまでは来たところでリリーは再び地上の様子を伺ってみた。


 下は長テーブルのちょうど真ん中で、リリーの足許にはメインディッシュであろう豚の丸焼きが置かれていた。


 モンスターも人間と同じようなものを食べるんだ……いいなぁ、と羨むリリー。


 かつてリリーたちが戦ったモンスター、ゴブリンやコボルトは果物を食べていた。

 インプは悪魔らしく肉を好むのか、テーブルの上は肉ばかりだった。


 しかしお世辞にも美味しそうな見た目ではなく、ただ焼いただけの肉を雑に盛り付けただけの料理ともいえない代物だ。


 それでも夕食がまだのリリーにとってはたちこめる肉のニオイに食欲を刺激され、お腹が鳴らないよう堪えるのに苦労した。

 生唾を飲み込みながらインプたちの食事を眺めていると、メインディッシュの手前に座っていたインプが豚の丸焼きに豪快にフォークを突き立て、崩し切り塊となった豚肉を大口をあけてかぶりついた。


 インプたちはレストランにある子供用の椅子のような少し高い椅子に座って食事を楽しんでいる。ミントも姫亭では子供用の椅子を使うか、誰かのヒザの上に座る。

 しかし豚の丸焼きに手をつけたインプの座っている椅子は他のインプよりも座高が高く、それがどうやら特別な立場を表しているようだった。


 まわりのインプが豚の丸焼きを食べたそうにしていたが許しが出るまで食べてはいけないようで、高椅子インプの顔をチラチラと伺っている。


 なかなか許しを出さず自分ひとりで豚の丸焼きを頬張り続けるリーダー格のインプを「意地悪だなぁ、みんなで食べたほうがおいしいのに」と苦々しく見下ろすリリー。


 おあずけをくらっていた隣のインプはヨダレを垂らしながらガマンしていたが、何かを思いついたようだ。

 腰に下げていたブリキの箱から何か光るものを取り出したかと思うと、それを大仰なうやうやしさでリーダーに差し出す。


「……!!!」


 リリーは驚きのあまり大声をあげそうになった。。


 リーダーがご機嫌な様子で受け取ったのは……リリーがママからもらった大切な装備である『勇者のティアラ』だったのだ。

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