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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
空から来た少女
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19

 女の子たちにのしかかられるインプ。

 ひとりひとりは軽いが6人ともなると苦しいようで「フギャッ」と鳴いてのびてしまった。


 リリーたちはこのスキにとインプの腰に巻かれていた鎖を奪って身体を縛り上げ、牢屋の中に放り込んだ。


「へへんっ、脱出大成功っ!」


「作戦を聞いたときは半信半疑だったけど、こうもうまくいくとはねぇ。インプってリリーと同じくらいのアタマしてんのかしら」


 これでもかと胸を張って成果をアピールするリリーに対して水を差すイヴ。

 内心では感心しているのだが素直に人を褒められない性格なのでついからかってしまうのだ。


「あーたのしかった! たのしかったねぇシロちゃん」


「はい。とても緊張いたしましたけど、楽しかったです。インプさんも手品がおわかりになるんですね」

 

「うむ、モンスター相手に手品で牢屋を破るとは……余も数多の冒険者を空から眺めてきたが、はじめての事じゃ! ……ああっ! これこれ、これじゃ! これこそまさに余が感じたかったリリーたちとの冒険じゃ!」


「うふふ、リリーさんはすごいですよね。私もいつもドキドキしてます」


 シロはすがりつく子供ふたりに微笑み返す。


 自分のせいで作戦が失敗したらどうしようと神経が張り詰めカチコチだったシロ。

 ミントとミルヴァの太陽のような笑顔を受け氷のようだった緊張が解け、明るさを取り戻す。


 脱出できた解放感からリリーたちは囚われの身であることも忘れ、盛り上がった。


 ……しばらくの後、無言を貫いていたクロがチョイチョイとリリーに触れる。


「なに? クロちゃん」


 尋ねると、クロはリリーの肩越しに背後を見ていた。

 後ろに何かあるのかとリリーが振り返ると、少し離れた所に立っていたインプと目が合う。


「あ……!」


 人間と鉢合わせてどうしていいかわからずインプは固まっていたが、リリーが声をあげると驚いて逃げ出した。

 おそらく見張りの交代かなにかでやってきたインプだろう。逃げられると大変なことになる。


 慌てる一同。「ま、まって!!」と真っ先に駆け出すリリー。

 追いかけようとするが鎖で繋がっていることを忘れていた。途中で鎖がピーンと張りつめて引き戻され、勢いあまって転んでしまった。


「借りるわよっ!!」


 イヴはうつ伏せに倒れるリリーの背中から盾を取り上げる。

 そのまま流れるような動作でインプめがけて盾を投げ放った。

 

 「シャアーッ!」っとインプに迫る空飛ぶリスの顔面。

 インプにとってはいきなり謎の生物が飛びかかってきたので「ギィーッ!?!?」と仰天する。


 荒ぶるげっ歯類に食らいつかれ、インプはたまらず倒れた。

 「いまよ!」とイヴの号令のもと再び飛びかかるメンバーたち。


 イヴの機転と名投により、なんとか2匹目のインプも捕らえることに成功。

 最初のインプと同じく鎖で縛り上げ、牢屋に放り込んだ。


 皆はもう雑談せず、テーブルに置かれたウエストポーチと救急箱を取り戻す。

 リリーはウエストポーチを腰のベルトに戻しながら用心深くあたりを見回していたが、モンスターの気配は感じとれなかった。


 牢屋の外の通路は左右二手に分かれていた。

 石壁には 「←見張り詰所」 「倉庫→」 と案内が彫り込まれている。


 壁にあいた穴から光が差し込んでいるため見通しは悪くなく、左右どちらの通路の先も緩やかな曲がり角になっていた。


「よし、この調子でインプどもを全滅させるわよ」


 武器なしでもインプを始末できたのでイヴは調子に乗っていた。

 迷うことなく左に歩きだすイヴ。「見張り詰所」に乗り込んでインプどもを殲滅するつもりだった。


「みんな、次は装備を取り戻そう」


 イヴとほぼ同じタイミングで逆方向に歩くリリー。

 「倉庫」に行けば奪われた装備があるかもと考えてのことだ。たとえアテが外れたとしても武器でも入手できれば戦闘が有利になるし、手枷もなんとかできるかもしれない。


「お怪我のお手当を……きゃ」


 シロは救急箱から軟膏と包帯を取り出そうとしていたが、拘束されているうえに両側から引っ張られてしまい、ままならなかった。


 ガシャンとぶちまけられてしまったバスケットを見てリリーは我に返る。

 ……作戦のときはあんなに息ピッタリだったのに自由になったとたんこれじゃダメじゃないか、こんなんじゃまた罠に引っかかっちゃう……と自省する。


「みんな、とりあえず、キズの手当をしよう」


 リリーの提案に反対する者はいなかった。


 皆は床に落ちた医療品を拾い集めたあと、岩陰でシロから手当を受けた。

 いつもなら魔法で一瞬なのだが、いまは使えないので薬を使った治療だ。


 薬による手当というのは時間がかかるし治りも遅い。

 しかしリリーは魔法よりも薬の手当のほうが好きだった。シロのやさしい手で顔にペタペタと薬を塗られると、なんだか気持ちいいからだ。


 両手を拘束されているシロの手つきはぎこちなかった。いつもより時間がかかったがそのぶん余計に触ってもらえたのでリリーの顔は自然とほころんだ。


 薬には松脂が配合されているので塗った上からガーゼを押し当てればそのまま張り付く。これでキズの手当は完了。


 くすぐったがりのイヴは手当を拒否したが、シロが半泣きになって心配するので仕方なく大きいキズだけ手当てした。


 皆の顔がガーゼまみれになったあと、リリーたちは作戦を話し合う。


 ……自分たちはいま手錠で両手を拘束されている。

 しかも手錠どうしは鎖でつながっているため離れることもできない。


 ミントを筆頭としてリリー、クロ、シロ、イヴ、ミルヴァの順に数珠つなぎにさせられている。


 武器もなく素手で、しかも縛られているというかつてないほどの危機的状況。

 インプを捌くことはできたが、そう何度もうまくいくとは思えない。それに相手にするにしてもいちどに1匹が限界だろう。


 なのでまずすべき事としては「敵の殲滅」でも「洞窟からの脱出」でもなく、「拘束の解除」そして「装備の奪還」が最優先。

 このふたつのが達成されるまでは隠密行動を心がけて戦闘はなるべく避けることにしよう。


 ……以上の話し合いを経て、まずは「倉庫」のほうに行ってみようという結論になった。

 イヴとミルヴァは「見張り詰所」でインプたちと戦いたいようだったがなんとかなだめた。


 ミントを先頭に一列になり、音を立てないように忍び足で行動開始。

 通路は一直線。デコボコした壁の死角を利用しながら用心深く歩いていく。


 しばらく進んでいくと、道が分かれていた。

 片方はいままで歩いてきたのと似たような通路がずっと続いており、もう片方の先には大きな石の両扉が見えた。

 開け放たれた扉の向こうは木箱が積まれていて奥の様子はわからない。だがおそらくあの向こうが倉庫なのだろうとリリーは予想する。


 リリーが無言で石扉のほうを指さすと、皆も口を閉じたまま頷き返す。

 一同はコソコソと扉をくぐり倉庫内に足を踏み入れた。


 木箱の陰から奥を覗いてみると……大きな石のテーブルがあり、その上には石の器に盛られた料理があった。

 これから祝宴でも開かれるかのように山となった料理たちは出来たてのような湯気をもうもうとあげている。


 倉庫というより食堂のような光景に、リリーたちはキョトンとなってしまった。

 入ってきた扉のほうからギィギィとインプ集団の鳴き声が近づいてきたので慌てて木箱の陰に隠れる。


 列をなして部屋に入ってくる大勢のインプたち。テーブルの前に並ぶ石の椅子に次々と着席しはじめた。おそらく食事の時間なのだろう。

 リリーは息を潜めその様子を伺っていた。インプ集団が全員着席したあとコッソリ石扉まで戻って分かれ道のほうに逃げようと考えていた。


 しかし部屋に入った最後尾のインプたちが、力をあわせて石扉を閉じようとする。

 飛び出していって阻止しようかと迷うリリー。そうこうしている目の前で、扉は重苦しい音をたてて固く閉ざされてしまった。

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