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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
空から来た少女
137/315

15

「つんおりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 イヴの爆声が洞窟内に響きわたる。

 思わず耳を塞ぐ一同。リリーは咄嗟にミルヴァの耳を塞いだので、鼓膜を貫かれるような衝撃のソレをまともに聞いてしまった。


 音が響く場所だからなのか、それともイヴ自身の声量があがっているのか、以前よりずっと強烈だなぁ……とクラクラする頭でリリーは思った。


 キンキンとした甲高い耳鳴りに襲われるが怯んでいる場合ではない……戦いはすでに始まっている。リリーは懸命にまわりの状況を掴もうとする。


 10匹以上のモンスターに対しひとりで相手せんばかりの勢いで突っ込んでいくイヴ。

 誰が相手でも一歩も退かない彼女の闘魂にはリリーも尊敬していたが、すぐケガをするので治療が必要になる。


 そうなると治癒魔法の出番なのだが、使い手のシロの様子はどうだろうと見てみると……地面に置いたバスケットを覗き込んで包帯やら軟膏やらをわたわたと取り出しているところだった。


「……そう、だった……!」


 息を呑むリリー。今は聖休日(ホーリーデー)であったことを思い出す。

 ホーリーデーの間は神聖魔法が使えないのはもちろん、死亡しても復活できない。だから本来、モンスターとの戦闘は避けなければいけない。


 ホーリーデーになぜそんな制約を受けるのかというと「たまには冒険せずに休みなさいという女神様からのメッセージである」とリリーは教えられた。

 しかし実情を目の当たりにしてそれが違うというのがわかった。休んでいるのは冒険者ではなく女神のほうだと。


 治癒魔法は女神ミルヴァルメルシルソルドの力を一部を借りる魔法で、行使には女神に対して祈りを捧げる必要がある。しかしホーリーデーの間は力を貸してくれる女神は休んでいるので使えないのだ。 


 その休暇中の女神は今……洞窟に閉じ込められモンスターたちに囲まれているまっ最中だ。


「ここでミルヴァちゃんがやられちゃったら……もしかして……」


 リリーはひとりごち、想像して背筋が寒くなった。


 ミルヴァは力を封じる腕輪をしており神の力を発揮できない。本人も言っていたが今はただの人と同じだそうだ。もしここでモンスターに全滅させられたら……女神「ミルヴァルメルシルソルド」はどうなってしまうのだろうか。


「よぉしイヴ、加勢するぞぉ~!!」


 そんな心配も知らず、ミルヴァは金槌を振り回しながら特攻をはじめた。


「あ、待って! ミルヴァちゃんはシロちゃんとクロちゃんを守ってあげて!」


 リリーが呼び止めるとミルヴァは前につんのめって止まる。

 人間に指示されて嫌がるかと思ったが、振り向いたその顔は喜びに満ち溢れていた。


 ……普段の女神は空の上よりリリーたち一行の冒険を眺めるのが何よりの楽しみだった。

 まだまだ未熟な彼女たちが無謀な冒険に立ち向かうのにハラハラし、力をあわせて困難を乗り越えていく姿を応援しながら見守っているうちに、いつしか自分も輪の中に入り、一緒に笑い合いたいと思うようになっていた。


 間近で感じた戦闘中のリリーの指示、それはまさにミルヴァが夢見ていた光景だった。


「……承知したっ!」


 やる気満々に返事したミルヴァは反転してシロクロコンビの元へと駆けていく。


「ね~ね~、ミントは~?」


「ミントちゃんはイヴちゃんと一緒に戦って。イヴちゃんを手伝ってあげてね」


 緊張感のない声をともにシャツの裾をひっぱってくるミントに対し、リリーは端的な指示を出した。


「オッケー!」


 ミントは諸手を高く挙げる。バンザイした両手のグローブからシャキンと鉄の爪を伸ばし、最前線へ颯爽と駆けていった。


 ミントは物覚えが悪くふたつ以上のことは忘れてしまう。しかしアドリブが利くタイプなので簡単な指示のほうが能力を発揮できる。

 逆にシロクロコンビは細かい指示のほうがよい。シロは優柔不断、クロに至っては言われないと敵の攻撃もよけない。しかし頭が良いので的確に指示を汲み取り、こなしてくれる。

 ちなみにイヴはあまり指示されるのが好きじゃないうえに何度言っても突撃をやめないので「おまかせ」にしている。


 ……これが、リリーが導き出した戦闘時のパーティメンバーとの接し方だ。

 そして当のリリーは彼女らの臨機応変なサポート、いわゆる遊撃にまわる。


 戦況を把握することを優先し、手薄なところはフォローを行う。時には前衛で攻撃に参加し、時には後衛で魔法使いの盾となる。


 それがリーダーだと授業で習ったし、何よりリリーが大好きな母親がそうだった。


 勇者ママリア・ルベルム。

 盾の扱いを得意とし、巨人の一撃や赤竜の火炎放射をも盾ひとつで防ぎ仲間を守ったという。

 その盾は時には武器となり、投げつけることにより鋭利な刃をもつ空飛ぶ円盤へと変わり敵を切り裂く。


 盾を使わせたら右に出る者はいない。そこからつけられた二つ名が……『シールドマスター・ママリア』。


 いつかはそうなりたいリリーは戦いの前にママのことを思い出し、気合を入れる。


「うおおおおおおおーーーーーーっ!!」


 雄叫びとともに前線に向かう。イヴの背後から襲いかかろうとしたインプがいたのでシールドチャージで体当りする。

 体格差があるせいか大きく吹っ飛ばされたインプは壁に叩きつけられていた。


「やっ!」


 続けざまに抜刀し、近くのインプに振りかざす。ズバッと袈裟斬りを受けてきりもみしながら倒れるインプ。


「はっ!」


 離れたところで火球を投げようとしていたインプを見つけ、すかさず静電気の呪文を唱える。ビクリとなったスキに突進し、串刺しにする。


 あれ? ……なんだか、調子がいい。

 ふとリリーは感じた。


 インプは強さ的にはゴブリンと同じくらい……いや、精霊魔法を使うぶんインプのほうがやや上だと学校で習った。

 以前は5人がかりでゴブリン1匹を倒すのにやっとだったのに、それより強いインプ3匹をひとりであっさり倒してしまった。


 いったいどうしちゃったんだろうとちょっと不安になる。

 目の前では複数のインプの攻撃をヒラリヒラリとかわすミントがいた。


「このっ、このっ、このっ!」


 ミントは素早く反撃に転じ、引っ掻きを繰り出す。インプたちの肌に三本の赤い筋を残していく。


「せいやぁーっ!!」


 インプたちが痛がっているところにイヴの大剣が一閃、強力な一撃に続々と

まっぷたつになるインプたち。


 鉄爪の引っ掻きで動けなくして、大剣のぶん回しでまとめて刈り取る。

 ミントの攻撃は威力はないが当たれば足止めになる。そこで間髪入れずイヴの攻撃が来ればかわされることなく大ダメージが与えられる。


 とはいえこれは誰にでもできる事ではない。イヴはミントが狙おうとしている相手を予測して剣を振り、またミントはイヴの攻撃に巻き込まれないように素早くかわしている。


 イヴとミント、ふたりの活躍につい見とれてしまうリリー。


 これはまさしく……熟練の老夫婦のもちつきのような息ピッタリの……!

 そう思いかけて訂正する。もっとカッコイイ例えはないものかと。


 えーっと、そうだ! これはまさしく……蝶のように舞い、蜂のように刺す、まるでペアダンスを踊っているかのような華麗なる連携攻撃……!


 ふたりはいつのまにあんな芸当ができるようになったんだろう……? とリリーは疑問に思ったが、すぐに答えは出た。


 そうだ……今の私たちはレベル5。初めてゴブリンを倒したときから身体能力も戦闘経験もあがって……そして何よりお互いのことがわかるようになって、ずっとパワーアップしてるんだ……!


 私たち……強くなってる……!!


 不意に挟み撃ちするように飛びかかってくる二匹のインプ。リリーは片方の攻撃を盾で捌き、もう片方の攻撃をカウンター気味に斬り返す。返す刀で残ったインプに剣を突き立てた。


 二匹同時に相手にしても、なんとかなった……。

 敵の攻撃が予想ができ、余裕をもって対応できるようになっている。

 やっぱり自分たちは成長している……! とリリーは確信した。


 インプたちの加勢がゾロゾロとやって来たが、もう怖くはなかった。

 イヴとミントの攻撃で次々と倒れ、そして残ったヤツはリリーの手により殲滅された。


 途中、撃ち漏らしたインプがシロクロコンビに襲いかかった。

 間に立ちふさがったミルヴァが「えい!」と手にした金槌で殴りつける。しかし何も起こらなかった。


「あれ、カミナリが出ぬぞ?」


「……空がない」


 壊れたのかと金槌をシェイクするミルヴァに、洞窟の天井を人差し指で示すクロ。


「あ、そうか、そういうことであったか……ならば!」


 ミルヴァは金槌を反転させ、マスコットのついた柄のほうを上にして持つ。

 頭上に掲げ、紐のついたマスコットをグルグルと回しはじめた。


 木彫りのサンダーバードは風笛なのか、振り回されてキエーと鳴き声のような風切り音を出す。


「……雷雲(ラージャン)召喚(サージャン)!」


 ミルヴァのかけ声を受け、雷鳥の口から煙が吐き出された。それは空中でふわふわと綿菓子のような形になる。


「あれは……雲!?」


 リリーが叫ぶと綿菓子は返答するようにピカピカ明滅した。


「さよう! サンダーバードは雷雲を呼ぶ神獣! この木彫の依代(よりしろ)はその力を宿しておるのだ! そりゃ!」


 ミルヴァは説明しながらインプを再度ポカリとやる。

 次の瞬間、綿菓子が轟く。電撃の槍がインプを貫き黒焦げにした。

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