33 エピローグ
……でね、そのあとラカノンの村に寄ったんだ。
ロサーナさんとオベロンさんは二十年ぶりに会ったっていうのに特に感動もないカンジだったんだよね。いつも会ってるみたいな挨拶してたよ。長いこと会ってないと逆にそうなっちゃうのかな。
あとすごい偶然なんだけど、オベロンさんは先週、天空蔦の種を育てる魔法を習得したんだって。
うーん……タイミングもすごいけど、習得に二十年もかかるなんて天空蔦を育てるってのはメチャクチャ大変なことなんだね……。
ロサーナさんが塔にいる間、なんでオベロンさんとジオールさんは助けに行かなかったんだろうって疑問だったんだけど……みんな二十年もかかるような大仕事をやってたんだから無理もないよね。
で、結局その日はオベロンさん家に泊めてもらっちゃった。
みんなでお風呂に入って、ゴハン食べて……すっごく楽しかったんだけど、ひとつだけショックなことが……。
寝るときにロサーナさんから教えてもらったんだけど……ヴァンターギュってまだ死んでないんだって。
私の魔法で粉々にしてやったのに、時間がたったら元に戻っちゃうんだって。
バラバラにしても死なないなんて……いったいどうやったらやっつけられるんだろう?
翌朝オベロンさん家を出たんだけど、もうロサーナさんとオベロンさんは居なかったんだよね。
娘のチタニアさんが言ってたんだけどムイラの村に行くために朝早くから出発したんだって。きっとジオールさんに会いに行ったんだと思う。
うーん、ふたりともおばあちゃんだと思ってたのに、すごい元気だよね。私より行動力があるかも。
あ、そうそう。朝起きたときに書き置きがあって、中にイイモノが入ってたんだよね。……コレ、なんだかわかる?
天空蔦の種だよ! 二粒あるから一粒あげるよ、って! すごいでしょ!?
これ売れば大金持ちだよ!? 魔法の胸当てどころか魔法の鎧だって、ううん、伝説の武器でも防具でもいっぱい買えちゃうよ!!
イヴちゃんの好物の『エンジェリング』のドーナツ、お腹がパンクするまでおごってあげられるよ!!
でも、ま、売るつもりはないけどね。
いつか巨人に負けないくらい強くなったときに、この種で天空に行くんだ! もちろん、みんなと!
天空の石門はイヴちゃんかベルちゃんに頼んで壊してもらうとして、種を育てる魔法はどうしようかな……クロちゃんかフランちゃんが使えるようになってるといいんだけど。
まぁそれは実際に行く時になったら考えればいいよね。
えーっと、どこまで話したっけ、ツヴィートークに戻るところまでだっけ?
ラカノンからツヴィートークに歩いて帰ってる最中、イヴちゃんは自分がこの島のお姫様だって告白したんだよ。
今回の冒険でなんか所々そういう話が出てたからもうわかってると思うけど、って言ってたけどシロちゃんは直立不動になってびっくりしてたよ。
ミントちゃんは「イヴちゃんおひめさまだったの!? すごーい!! ……でもあんまりおひめさまっぽくないね」とわりと辛辣だったなぁ。
クロちゃんは「知ってた」みたいな顔してたけど。
んで問題なのはシロちゃんで、カチコチになりながらイヴちゃんのことを「イヴォンヌ様」って呼び出したりしたからイヴちゃんから叱られてたよ。
「いつも通り接しないとデコピンするわよ!」って。
まぁ、シロちゃんと初めて会ったときもそんなカンジだかったから、それがリセットされたと思えばいいのかな。たぶん時間がたてばいつものイヴちゃんとシロちゃんになるよね。
……ああっ、なんだかいっぱい喋っちゃった。
紫色のミルヴァ様もいいけど、やっぱりミルヴァ様は白だよね。
クリスタルパレスで閉じ込められたとき、少しだけミルヴァ様のことがキライになりそうになっちゃった。ほんの少し、ちょっぴりだよ。
ただの八つ当たりなんだけど、クリスタルパレスのミルヴァ様がいなかったら私はもっとすんなりみんなの所に戻れたのに……って思っちゃった。
あ……でも、クリスタルパレスに閉じ込めた人たちって、それも計算のうちだったのかな? だったら誘拐犯的にはミルヴァ様ナイス! ってカンジなのか。
まぁなんにしても、紫色のミルヴァ様より白いミルヴァ様のほうが私は好きだな。
……私はそう言いながら、ミルヴァ様を見上げた。
純白の女神様は、剣を持って勇ましく天へと駆け上ろうとしている。
闘神のような勇ましさと、慈母のようなやさしさを兼ね備えたこの像が私は大好きだった。
子供の頃は毎日のように忍び込んで見に来てたんだけど、ツヴィ女に入ってからはあんまり来ることもなかったので今日は久々に来てみたのだ。
さすがにもう忍びこむなんてことはしなくて、聖堂主様にちゃんとお願いしてから像のある部屋に入れてもらった。
この像のある部屋は聖堂のなかでも特に神聖な場所らしくて、滅多に入室許可が出ないそうなんだけど特例中の特例ということで許可がおりた。
ミルヴァ様とふたりっきりになった私は、子供のときのようにミルヴァ様とおしゃべりをしていた。
いくら話しかけても返事してくれるわけでもなくて、私が一方的にしゃべってるだけなんだけどね。
だけど……なんだかミルヴァ様は黙って聞いてくれてるような気がするんだ。
「さて、と」
私は像の足元に座り込んでノートを取り出す。
表紙は「パーティメンバーの紹介 M-1 リリーム・ルベルム」。自分の所属するパーティメンバーについて分析する宿題だ。
実はさらわれる前から手をつけてたんだけど、二行くらい書いたあと窓の外を見たらすごい天気がよかったからほっぽって木の実取りに出かけちゃったんだよね。
その出先でさらわれちゃって宿題は途中のままで、締め切りも過ぎちゃったんだけど事情が事情ということで特別に遅れて提出していいことになったんだ。
この部屋はとっても静かなうえに誘惑も少ないので、ここで宿題をやっちゃおうという作戦だ。
聖堂主様から見つかったらメチャクチャ怒られると思うけど……いいよね?
自分で自分に言い聞かせた私は、ひんやりした床に座り込んでペンを走らせてみた。
私には4人の仲間がいる。まずはイヴちゃん。
イヴちゃんはウヒャアってなるくらいかわいくて、金糸みたいにキラキラ輝く髪の毛がまるで宝物みたいにキレイな女の子です。
許されるならギューッって抱きしめたいけど、くすぐったがり屋でしかも殴ってくるのでガマンしてます。
ずっと抱きついてたら殴るのに疲れて抱きつかれたままになってくれるかなと思って昔いちどやってみたけど、ずっと殴られ続けました。
力もちなのでゲンコツも痛いです。でもその力は冒険では役に立ちます。
大っきくて重い剣を振り回して、まっさきにモンスターに向かっていきます。
でもあまり攻撃はあたりません。サイコロを2回ふって連続で1が出る確率くらいの命中率です。
もうちょっとがんばって当ててくれるといいと思います。
いっぱいブンブン振り回したあとは甘いものを欲しがります。
この前ドーナツパーティをやったとき、30個も食べてました。
本人はエンジェリングのドーナツを食べたがってたけど、エンジェリングのドーナツは500ゴールドもするのでそれを30個も食べられたら貯金がぜんぶなくなります。
でもいつかりっぱな勇者になってお宝をみつけるようなことがあったら、イヴちゃんの好きなドーナツをいっぱい、一緒に食べたいです。
だからそれまではずっと一緒にいたいし、ドーナツを食べたらもっと仲良くなれる気がするので、そのあともずっと一緒にいたいです。
次の仲間はミントちゃん。
ミントちゃんはキャッってなるくらいかわいくて、ちっこくてふわふわ。ずっとヒザにのせておきたいくらいの女の子です。
でもあんまりじっとしてなくて、好奇心旺盛でいろんなところに行ってるみたいで学校でも街でも人気者です。
あとは手がかりのないところを平気でのぼったり、ちょっとしたスキマからするりと入り込んだりして、その身のこなしはネコみたいです。
扉とかのピッキングも得意なのでコツを教えてもらおうとしたんだけど「よくわかんない」と言われてしまいました。
先生に聞いてみたら、ミントちゃんは考えて開けているのではなくてカンと運で開けてる、って言われました。
考えるのは苦手みたいで、ちょっと複雑な鍵とか罠になると、すぐあきらめちゃいます。
でもその先に宝石とか黄金とかあるよ、と言うとすごくやる気を出します。キラキラしたものが好きみたいです。
でもお金は数えられないみたいであんまり好きじゃないみたいです。
お金持ちになるよりもキラキラしたものをいっぱい見つけたいみたいです。私もキラキラしたものが好きなので、一緒に見つけたいです。
ミントちゃんが大きくなるころには、きっと見つけられてると思います。キラキラしたものを身につけて遊ぼうといったらすごく賛成してくれたので、みんなで金銀財宝を見つけて遊びたいです。
次の仲間はシロちゃん。
シロちゃんはウォッってなるくらいかわいくて、羨ましくなるくらい肌が白くて髪がキレイで、胸もおっきいです。
許されるなら全身を揉みまくりたいです。ご利益がありそうだけど、すごく恥ずかしがり屋なシロちゃんはすごく恥ずかしがるのでガマンしてます。
あと怒ったところを見たことがありません。小さい頃、どうやったら怒こるのかいろいろやってみたけど、なにをやっても笑うか泣くかのどっちかでした。
あと疑うことをしないのでウソをつき放題です。どんなこともすぐ信じてくれます。
でもウソって人を傷つけたくなかったり、怒られたくないときにつくものです。シロちゃんは怒らないのでウソをつく意味があまりないです。
イヴちゃんはよく怒るので、怒られたくなくてたまにウソをつくけど、バレて余計に怒られます。
シロちゃんはいつも天使みたいにやさしいです。イヴちゃんの怒りっぽいところを半分でももらって、イヤなことがあったら怒ってほしいと思いました。
逆にイヴちゃんはシロちゃんのやさしいところを半分もらって、もっと怒らないでほしいと思いました。
あとシロちゃんは目があまりよくありません。さらに言うと運動神経もよくありません。
でもそんなことがどうでもよくなるくらいに治癒魔法がすごいです。うちの学校では治癒魔法を使える生徒があまりいないので、本当はシロちゃんは引っ張りだこみたいです。
シロちゃんは私と一緒にいたいと言ってくれたので、シロちゃんと幼なじみでよかったと思います。
もしシロちゃんが治癒魔法が使えなくなくなっても、私はシロちゃんと一緒に冒険したいです。
だってシロちゃんは聖堂から出たことがなくて、いまでもツヴィートークからほとんど出たことがないと言ってました。
そんなシロちゃんに私はいろんな景色や街並みを見せてあげたいです。
最後にクロちゃん。
クロちゃんはスリスリしたくなるくらいかわいいです。というかスリスリしてます。
スリスリしても表情が変わらないので喜んでるのか嫌がってるのかわかりません。でも嫌がってないと思うのでスリスリし続けます。
たまにクロちゃんのほうからもスリスリしてくれます。そのときはとっても嬉しいです。
グレーのおかっぱ頭に細い身体がお人形さんみたいでかわいいです。いつも抱きしめて寝たいです。
自分では気づいてないのですが、私が寝たあとでクロちゃんがやってきて、一緒に寝ているそうです。
そのときたまに私は隣で寝てるクロちゃんを抱きしめたりしているそうなのですが、全然覚えがありません。
なんだかもったいないというか、くやしいのでいつかクロちゃんを抱きしめていることを感じながら寝たいです。
クロちゃんは頭が良くて、いろんなことを知ってます。冒険でもいろいろ教えてくれます。
攻撃魔法もすごくて、とくに炎の精霊魔法が得意です。
欠点のなさそうなクロちゃんだけど、暗いところだけは苦手みたいです。洞窟とかだけならまだしも、夜もダメみたいでひとりじゃ眠れないみたいです。
あとからイヴちゃんに聞いたんだけど、私がいない間はほとんど寝てなかったみたいです。
だから帰ったときは一緒にいっぱい寝ました。塔の上では屋根のついた豪華なフカフカのベッドだったけど、クロちゃんと寝るほうがずっと気持ちよかったです。
そんなクロちゃんとこれからもずっと一緒に寝たいと思います。クロちゃんもそのつもりみたいです。
夏休みの課題で洞窟のなかでクロちゃんに「ずっと側にいる」ってのを覚えているみたいで、「ずっと側にいるって言った」とたまに言われます。
さすがに一日中ずっとはムリだけど、寝るときくらいはずっと一緒にいたいです。むしろクロちゃんだけじゃなくて、みんなも歓迎です。
みんなは私がいなくなったとき、私をさがしてくれました。この広いバスティド島のなかで、ほとんど手がかりもないのにすぐに見つけてくれました。
もし次に誰かがいなくなることがあったら、すぐに探しに行きたいと思います。たぶん、すぐに見つけられる気がします。
根拠はないけど、私がみんなと一緒にいたいと思っていて、みんなも私と一緒にいたいと思ってくれていれば、引きあう気がしています。
私はずっとみんなと一緒にいたいと思っていて、きっとこれからも変わりません。みんなも私と同じ気持だったらいいな、と思います。
……私は、夕焼けを眺めながら人気のない道をひとり歩いていた。
宿題が終わると同時に夕方の鐘が鳴って、それで聖堂主様が部屋に入ってきて「そろそろお帰りなさい」と言われたのでおいとました。
ツヴィ女の寮まで一番の近道である裏道を歩いていると、物陰から何かが飛び出してきた。
それは四人の女の子で、白いローブにフードを深く被っており、顔には金色の派手な仮面をつけていた。
「だ、誰っ!?」
見るからに怪しい人たち……しかも、このまえ私をさらった人たちとは違うようだ。
「アナタが行方知れずになってから……ワタクシは悩み、苦しみ、食事は喉を通らず、夜も眠れぬ思いでしたわ……でもその苦悩の日々のなかで、あるひとつの考えが浮かびましたの。またさらわれてしまう前に、ワタクシがさらってしまえばいい……。そうすれば、他の者からさらわれる事もなくなり、いつまでも共にいられる……いたれりつくせりですわ」
リーダーらしき金髪ツインテ縦ロールの女の子が優雅に歩み出る。
なんだかすごい身分の高そうな話し方だけど、内容は支離滅裂だ。
「な……なにを言ってるの?」
「リリー、要は一緒に来てってこと!」
背の高い女の子が軽やかなステップで前に出る。
私の名前を知っているうえに、なんだか遊びにでも誘うような軽さだ。
続けざまに私と同じくらいの背の女の子が横に居並んで「行こっ」と人なつこく言った。
……なんだか親しみやすそうな女の子たちで一緒に行ってもいいかなぁという気に一瞬なったが、
「一緒に来ないとひどいの」
一番後ろにいたひときわ背の高い女の子がぬぅっと寄ってきた。それで私は正気に戻る。
口調はのんびりしているが、脅しにきてる……やっぱり遊びの誘いなんかじゃない、私を連れ去ろうとしてるんだ!
よく考えたら以前私をさらった女の子も正体はそんなに悪い人たちじゃないカンジだった。だから……油断しちゃダメだ!
「晩ごはんの時間だから、帰ります! さよならっ! ……うおっ!?」
急いで踵をかえして逃げようとしたが、カウンター気味に予想もしなかったものが視界に飛び込んできてギョッとなってしまった。
……仮面をかぶり、色とりどりのローブを着たいくつか女の子グループたちが大勢立っていたのだ。
「抜けがけはいけません!」
「さぁ、ボクたちと一緒に!」
「このチャンスに、リリーをモノにしてみせる!」
「おいリリー、来るなら俺とだろっ!?」
「ダメよ、アタイといいことするのよ」
「生徒との禁断の愛だけど……もう迷わない!」
カラフルな女の子たちは口々になにか言いながら私を取り囲んだ。
一斉に、謎の女の子集団にもみくちゃにされる。わぁ、なんだかみんなふわふわもちもちふかふかで、甘くていいニオイがして……まるでシフォンケーキの中にいるみたい…………って、そんなコト言ってる場合じゃなかった!!
「も……もうっ、さらわれるのは……たくさんだよぉーーーーーっ!!!!!」
嬉しいんだか嬉しくないんだか……自分でもよくわからない悲鳴が、夕暮れの街にこだました。
「偶像崇拝」完結です。
拙い文章を最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。




