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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
偶像崇拝
110/315

21 イヴ

 しまったぁ~っ!!

 あまりに下らない内容だったから破り捨ててしまった。


 かき集めようとしても後の祭り、風にあおられ紙吹雪のようにどこかへ飛んでいってしまった。

 途中までは読んだんだけど……ついカッとなって全部読む前に引き裂いてしまった。


 下手な字と変な文面は間違いなくリリーのものだ。だからアイツはこの近くにいる。

 『なので助けてください』って書いてあったから、捕まってるのも間違いないだろう。


 手紙を最後まで読めばどこに捕まってるのか書かれてたかもしれないのに……!!

 

 まったく……全部アイツのせいだ。

 助けてほしいんだったらもっとちゃんとした文章を書きなさいっての。


 手紙を運んできた鳥はさっきはあんなに暴れていたのに、今ではエサを与えられてすっかりなついている。

 いや、なついているというより、エサをくれるから留まっているだけのようにも見える。


 この鳥はおそらく、囚われの身のリリーからも同じようにエサをもらってたんだろう。


「……ふむ」


 頭のなかでちょっとしたアイデアがひらめいた。


「ねぇ、誰か糸持ってない?」


 みんなに尋ねると、シロが「お裁縫用のでもよろしいですか?」と携帯用の裁縫道具から白糸を取り出した。

 それを数メートルくらいで切って、端を鳥の足に結びつける。反対側の端をアタシの手に巻きつけた。


 鳥はエサを食べ終わってようやく、自身を拘束する糸が巻きつけられているのに気づいた。遅まきながらも抵抗をはじめる。

 ……なんてどんくさい鳥なんだろう。


「今更気づいても遅いわよ。さ、観念して手紙を書いたバカのところに案内なさい」


 しかし鳥は糸が巻かれたほうの足を水がかかったみたいにプルプル振りながら、イヤイヤと首を左右に振った。

 生意気なリアクションがシャクにさわる。


「さっさとしないとヤキトリにするわよっ!!」


 おもいっきり怒鳴りつけてやると、追い立てられるニワトリみたいに羽根をバサバサやりながらシロにすがった。


「あ、あの……可哀想、では……」


 胸に顔を埋める鳥を落ち着かせるように撫でながら、シロがかばう。


「ちゃんと案内できたら逃がしてやるわよ」


 しがみつく鳥をひったくって地面に立たせると、嫌々ながらもヨチヨチと歩きはじめた。

 時折こちらの機嫌をうかがうようにチラチラこちらを伺っている。


「……なんで歩くのよ、飛びなさいよ」


 突っ込むと「そうだった!」みたいな顔をしたあと、照れた様子で羽根をはためかせ飛び立った。

 足に糸がついているのでその長さ分しかあがれないんだけど、うまく風にのって高度を維持している。


「よし、みんな行くわよ。後をついていけばリリーのいる所に案内してくれるはずよ」


 鳥に先導されながら村を出る。

 村の外は深い森だった。ケモノ道はあるのだが道沿いに飛んでくれるはずもなく、早々にヤブの中に入るのを余儀なくされた。

 こういう草木が生い茂っているところは正直ニガテだ。脇や腰に枝とかがあたって気持ち悪い。


 それに……なんだか急に変なニオイがしだした。

 なんだろうこのニオイ……とあたりを見回してみると、後続のスゥが金属の香炉のようなものをぶら下げていて、そこから紫色の煙がたちのぼっていた。


「なによそれ、くっさいわねぇ」


「モンスターよけのお香っスゥ。このあたりは危険なモンスターでいっぱいっスゥ」


 鼻をつまんでいるので鼻声になっている。

 皆も耐え切れないのか鼻を覆いだした。ミントはしかめっ面、シロは困り顔、クロは無表情で。


 なんていうかムカムカするような甘ったるいニオイでしかも鼻が曲がるかと思うほど強烈。ずっと嗅いでいると吐き気がしてくる。


 あまりに臭いので叩き落としてやろうかと思ったけど効果は絶大で、通りすがったモンスターたちはみな逃げていく。

 そんなものなくても全部アタシがぶった斬ってやるつもりだったけど……なんだか訝しげな顔して距離をとるモンスターを見るのはなんだか気分がよくて、ズンズン進んでいく。


「ところでなんのニオイなの、それ」


「一ヶ月お風呂に入ってない悪魔のニオイっスゥ」


「……そう」


 もしかしてモンスターたちは不潔だと思って寄ってこないんだろうか。アタシだって1ヶ月風呂に入ってないヤツには近寄りたくない。

 てっきりモンスターに恐れられてるんだと思ったのに……避けられてる理由が相当カッコ悪い。  


「ねーねー、やらせてー!」


 不意に袖を引っ張られる。凧を飛ばしてるみたいで楽しそうに見えたのだろう。ミントが糸を持ちたいと言いだしたので渡してやった。


「たーこーたーこあーがーれー! たーこーたーこーあーがーれー!」


 やっぱり凧に見立てていたようだ。歌に合わせで糸をグイグイと動かしている。

 何度か同じフレーズを繰り返したあと「つぎなんだっけ?」と聞かれたので「知らないわよ」と返す。


「風よく受けて、雲まであがれ、天まであがれ、です。ああっ、そんなに引っ張られては可哀想です」


 引っ張られすぎて墜落しそうな鳥を見かねて慌てて止めるシロ。手を添え凧あげならぬ鳥あげを指導している。


「こっちだと……『クリスタルパレス』に向かってるの」


 地図を片手に行き先を推測するノワセット。


「ほうほう、なんだか凄そうな名前っスゥ」


 揃ってつま先立ちをして先を見ようとしている。ノワセットもスーも背が高いのだが、伸び上がっているので長身さがさらに際立っている。


 このふたりに関してはハスレイまで案内してもらったら追い返すつもりだったけど忘れてた。いつの間にか普通についてきてる……まぁ結果として役に立ってるからいいけど。


 ノワセットはまだいいが、スーのほうは要注意。今は大人しいけど油断は禁物。

 コイツはニオイのためならなんでもやるトラブルメーカーなのを忘れてはならない。


 アタシは暴走を用心しながら最後尾から皆についていく。

 隣にはクロ。フードを深くかぶり、誰の会話に加わることなく無言で歩いている。


 しばらく進んだあと岩山が立ちふさがったので迂回して進んでいると、ふと横道を見つけた。岩山を登れそうな坂道だが、日が当たらないのか苔むしている。

 ヤブに覆われていたので油断していると見逃してしまいそうな道。


 アタシはふらりとその道を登ってみた。みんなは気づかずに先に進んでいるが、あとから追いかければいいだろう。


 滑るのに注意しながら坂をあがっていくと、木々が途切れて視界がひらけた。

 丘のような小さな岩山で、少し歩くと頂上についた。一枚の板塀みたいになっていて、奥にそびえる塔につづいている。


 塔を見上げたアタシはその美しさのあまり、息を呑んだ。


 あれが……『クリスタルパレス』。

 うっそうとした森の中にそびえ立つ、円柱形のエメラルドブルーの塔。

 まるで巨大な宝石を削りだして作ったようで、長い時代を経てやや風化しているものの独特の存在感がある。

 老齢ながらも気品と風格、そして威厳を失わない女王のようなたたずまいだ。


 ここに……本当にリリーがいるんだろうか。


 さらに岩棚を進んでいくと、塔の壁につきあたった。

 壁はクリスタルでできていて、換気用なのか所々にブロック大の穴が開いている。

 リリーだったら「ここから中に入れないかな?」とか言いそうだ。見るからに頭くらいしか入らなさそうなので試したりはしない。


 道は外壁に沿うように上へ上へと続いているので、さらに先に進んでいけば中への入り口があるかもしれない。


 外壁に手をつきながら歩みを進める。

 クリスタルでできた壁は透明度が高く、中の様子が伺える。

 冒険者やモンスターに荒らされたのか見る影もないが、外観と同じく贅を尽くした作りだったんだろう。

 残っているのはボロボロのカーペットくらいのものだが、相当高級なやつだ。

 その他にはちらほらと影が闊歩しているのが見える。おそらくモンスターだろう。


 道は塔の中腹あたりで途切れた。道中入り口らしきものは見つからなかった。

 ここから塔の中には入れないようだ。……ムダ足だったか。

 また長い時間かけて降りて、下から入り口を探さなきゃいけない。


 塔は他にも8つもあって、ひとつ調べるのにこんなに時間かけたくないってのに……!


「ああっ、もうっ!!」


 イラついたアタシは天を仰ぐ。

 息をめいっぱい吸い込み、そして放った。


「リリーっ!! いるの!? いないの!? ドジでバカなアンタのためにわざわざ迎えに来てやったんだから!! 隠れてないで出てきなさーいっ!!! あんな変な手紙出して、承知しないんだからっ!! でも今なら許してあげる、怒らないから出てきなさーいっ!!!」


ありったけの怒声があたりに響きわたる。声にびっくりしたのか鳥たちが一斉に飛び立った。

 しかしリリーからの返事ははい。


「まったくもう……どこにいるのよ、アイツ……」


 ギャーギャーと騒ぎだす鳥たちに、心がざわつく。イラついてつい壁を殴ってしまった。


「えっ………!?」


 拳の向こう。緑玉色の隔たりの先に見えたものに、アタシは自分の目を疑った。

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