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リリーファンタジー  作者: 佐藤謙羊
リリーとゆかいな仲間たち
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 チタニアさんに促されて洗面所で顔を洗い、いくぶんキレイになったあとダイニングへと向かう。そこでは待ちきれない様子のみんなと、ご馳走が出迎えてくれた。


 大皿に盛られた料理は野菜主体で、どれも彩りあざやかだった。私とイヴちゃんはお昼のお弁当を見たときと同じように、おぉ、と声をあげた。


「ひとりでこれを作ったのかい? 大変だったろう」

 チタニアさんも驚いたようだった。


「あっ、いいえ……」

 シロちゃんは、はにかみながらも顔にはやりきった感を漂わせており、

「いっぱいお料理させていただいたので、楽しかったです」

 眼鏡の奥の瞳がキラリと輝いたように見えた。


「やっぱり、シロちゃんは」

 料理が好きなんだね、と言おうとしたら、

「はーやーくー、たーべーよーうーよー」

 ニンジン柄の前かけをした準備万端のミントちゃんが、ダダをこねる子供みたいに会話をさえぎった。


「そうじゃのぉ、早く食べたいのぉ」

 それにオベロンさんが同調して、夕食とあいなった。


 料理はやっぱりとても美味しく、チタニアさんとオベロンさんも驚いていた。この村の野菜の新鮮さとシロちゃんの腕前があわさると、野菜ってこんなにおいしくなるんだ、と思った。


「このトマトとナスのマリネ、すごく上品ねぇ……ナスのマリネって初めて食べたわ」

「こっちのピザみたいなのもイケますよ」

「どれ、あら、ホント、変わった食感ね」

「そちらは、生地にじゃがいもを使わせていただきました」

「おばあちゃん、このやさいなあに?」

「それはのう、ツブリナというんじゃよ」

「ふーん、つぶつぶしてておいしいね!」

「にんじん……」

「あっ、ニンジンでしたら、このあとキャロットケーキもご用意しておりますので、もしよろしければ……」

「ケーキ? そういうのはもっと早く言いなさいよ」


 食卓は実に賑やかだった。それと、ひととおり食べて気づいたのは、柔らかくて食べやすい料理ばかりだということだった。たぶん、オベロンさんのことを気づかってのことだろう。


「こんなに賑やかで美味しい食事はひさしぶりじゃのう」

 そのオベロンさんが顔をくしゃくしゃにしながら何度も言っているのを見て、それだけでもこのアルバイトに来てよかったな、と思った。


 食後のお茶は申し出て、私が淹れた。それを飲みおえるころ、

「じゃあ、そろそろお風呂にしようかね。みんなでいっぺんに入ろうか」

 チタニアさんが言った。


「えっ、この人数で?」

 何人かでハモった。


「ウチのお風呂は広いから、大丈夫だよ。なにせあのミランダ姉さんが入れるんだからね」

 またミランダさんの名前を出すチタニアさん。この家はすべてミランダさんの体格にあわせて設計されているようだった。


 お風呂場に行ってみると、納得した。五メートル四方はある広いお風呂だった。

「こりゃ、沸かすのも時間かかるわ」

 イヴちゃんはやれやれと言った感じで言った。


「でも、気持ちよさも格別だよ。さ、入った入った」

 お風呂場をのぞきこむ私たちを背後から促しながら、さっそく服を脱ぎはじめるチタニアさん。私たちも脱衣所で服を脱ぎはじめると、隅のほうでひとり立ちつくすシロちゃんが視界に入った。何かあったのかと声をかけてみると、


「はい……あの、入浴着を持ってこなかったのです」

「え? シロちゃんいつも入浴着きてお風呂入ってるの?」

「はい……子供のころからそう躾を受けてきましたので……あの、変でしょうか?」

「変じゃないけど、珍しいかな」

「そうなのですか……入浴着を着ずにお風呂に入ったことがないので、その、すこし……恥ずかしい……のです」

 すこし、というわりには顔を真っ赤にしているシロちゃん。

「まあ、女同士なんだから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいんじゃない? みんなそんなにジロジロ見ないと思うよ」


 くすぐり合戦のときに執拗に胸をさわっておいて、説得力ないかなと思ったりもしたけど、彼女は深刻な表情で考えこんでいた。やがて顔をあげると、

「わっ……わかりました! 入浴着なしでお風呂に入らせていただきます!」

 決意に満ちた表情を見せた。

 ……そこまで覚悟しないといけないことなのだろうか。彼女はとても恥ずかしがり屋なところがある。でもまぁ、それも少しづつ慣れていけばいいだろう。


「じゃあ、先に入ってるね」

 見ていると脱ぎはじめそうになかったので、シロちゃんを残して私たちはお風呂に入った。洗い場もいっぱいあったのでみんないっぺんに身体を洗うことができた。私はチタニアさんの、ミントちゃんはオベロンさんの背中を流してあげた。それから湯船につかると、全身の疲れがどっと溢れ、それらが溶けていくように感じた。チタニアさんの言うとおり、気持ちよさも格別だった。はぁ~とゆっくりため息をついて隣を見ると、身体を縮こませて湯船につかるシロちゃんがいた。寒いわけじゃなく、まだ恥ずかしいみたいだった。


「そんなに隠さなくても……あれ、眼鏡かけたまま?」

「はい……私、眼鏡がないとほとんどなにも見えないのです」

 そう言うシロちゃんの眼鏡のレンズは湯気で真っ白になっており、それもほとんど見えてないのではないかと思った。


「あ、ゆ、湯船には絶対に浸けませんのでご安心ください。あっ、あっ、あと入る前に眼鏡はちゃんと洗わせていただきましたから、汚れてはいないと思います」

 慌てて言うシロちゃん。別にそんなことは気にしてなかったのだが。


 お風呂の中で硬くなってちゃ気持ちよくないだろうと思い、

「そんなこと気にしなくていーから、ゆっくりお風呂に入ろう、ねっ!」

 リラックスを促すつもりでお湯をばしゃっとシロちゃんの顔にかけた。


「きゃ! はっ、はいぃ!」

 お湯をまともに浴びた彼女はますます縮こまってしまった。……私的にはおかえしをしてほしかったのだが……と思っていたら、かわりに三方向から大量のお湯が飛んできた。


 前髪が垂れて目が隠れるほどにびしょびしょになった私は「次からはこんなカンジでよろしく」とシロちゃんに言うと、

「か、かしこまりました……」

 コクコクと何度も頷かれてしまった。


 前髪を梳きながら湯船を見わたしてみると、みんな気持ちよさそうにお湯に浸かっている。さりげなく観察してみると、プロポーション的には……シロちゃん、イヴちゃん、私、クロちゃん、ミントちゃん……という感じ。やっぱり、人の身体って気になるよね。


「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーぉ、ろーく、なーな、はーち」

 不意にミントちゃんが歌うように数を数えはじめたので、みんなは自然といっしょに数えた。てっきり百までだと思っていたが、


「ひゃーくいーち、ひゃーくにー、ひゃーくさーん、ひゃーくよーん」

 カウントは百から更に続いた。いつ終わるんだろうと思いつつ、いっしょに数えていると、五百をこえたあたりからだんだん頭がぼんやりしてきた。千に近づいたあたりで、


「いつまでやってんのよ!」

 のぼせ気味のイヴちゃんから突っ込まれて、中断となった。


 思いのほか長風呂となってしまったが、お風呂からあがった私たちはリビングで寛いでいた。私も三つ編みを解いているけど、ツインテールをおろしたイヴちゃん、ポニーテールにしていないミントちゃん、髪をふたつに緩く束ねているシロちゃんはなかなか新鮮だった。クロちゃんは……普段とあまり変わらなかった。


「ミントちゃん、おばあちゃんと一緒に寝るかい?」

 しゃがみこんで猫をかまっていたミントちゃんを覗き込むオベロンさん。顔をあげたミントちゃんは「うん!」と言ってオベロンさんと手をつなぎ、猫を引きずりながら寝室に消えていった。……なんだかもう、すっかり孫みたいだ。


 私たちも寝ることにして、部屋に戻った。明かりを弱めて部屋を少し暗くしてからベッドに横になると、私の左側に寝ころんだクロちゃんが腰に抱きついてくる。


「どうしたのクロちゃん? くっついて寝たいの?」

 黙ったまま頷いたクロちゃんは腰にまわす手に力を入れて、さらに身を寄せてきた。まぁいいか、と思っていると、私から少し離れた右側にイヴちゃんが横になった。くすぐったがりの彼女はくっついて寝るのは嫌らしい。最後にどこで寝ようか迷っているシロちゃんがいたので、私とイヴちゃんの隙間をポンポン叩いて誘致する。


「間に入っても、よろしいですか?」

 イヴちゃんを見つめながら尋ねるシロちゃんだったが、


「いちいち確認とんなくていいから、さっさと寝なさい」

 イヴちゃんはその顔を見ようともせず返答した。


「はい、すみません……それでは、失礼させていただきます」

 シロちゃんは眼鏡をはずして近くの棚の上に置くと、目を細めながらベッドにあがった。


「あれ、寝るときは眼鏡外すんだ」

 それが普通だと思うが、彼女の場合はお風呂でもかけていたので、ちょっと気になってしまった。


 シロちゃんはベッドの上を手探りしながら、

「はい……ひとりで休むときはかけたままなのですが、他の方と一緒に休ませていただくときは当たっては失礼かと思いまして……外して休むようにしております」

 そう答えた彼女は位置を確認し終えたのか、私とイヴちゃんの間に横になった。


 シロちゃん……彼女はいつも人のことを考えて行動する……そのいじらしさにキュンとなった私は手を伸ばして、その細い肩を抱き寄せた。


「キャッ!」

「シロちゃんもくっついて寝よ。……ダメ?」

「あっ、いいえ、ちょっと驚いてしまっただけです。ダメではありません」

「よかった~」

 あきれた様子のイヴちゃんがこっちを見ていたので、シロちゃんの肩ごしに出した手をこいこい、と動かして手招きしてみる。


「なによ」

「手、手」

「手?」

「手つなご?」

「なんでよ」

「せっかくだから」

「なにがせっかくなのよ。広いんだから、そんなことする必要ないでしょ」

「けちー」

「けち言うな! 寝るわよ」


 イヴちゃんはプイと天井を向いて、目を閉じた。

 ……こういう状況なら、普段は言えないような乙女のヒミツを打ち明けあってキャーキャー言い合ってもいいよね、と思ったりもして、なにか話題を切り出そうとしたが、三人はすでに寝息をたてていた。


「寝るのはやっ」

 独り言をつぶやいてみたが、当然返事はなかった。


 目を閉じると、すぐに睡魔が襲ってきた。遠ざかる意識のなかで、誰かが私の手を握ってきたような気がしたけど……そのまま眠ってしまった。

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