好きな人
「えーっ!」
周りに座る人達が何事かと視線を向ける。
「ちょっと理絵、びっくりしすぎ。声大きすぎるよ!恥ずかしいなぁ。」
混雑した社員食堂。たくさんの向けられた視線にいたたまれない気持ちを感じながら、あわてて理絵を制止した。
「ごめんごめん。だってびっくりして。それで何て返事したの?」
彼女はカレーを口に頬張りながら、少し興奮ぎみに聞く。
「はい。ぜひって。だって坂本さんは何度か顔合わす人だし断れないよ。」
「そりゃそうよ。何人の女の子が坂本さんからの食事の誘いを待ってると思ってるの。これはすごいことなのよ。」
理絵は同期の中でも一番話しやすくて、入社した時からの友人だ。彼女の明るい性格に何度助けられたことか。部署が離れた今でも時々こうしてお昼を一緒に食べている。
「確かに坂本さんは格好良いよね。」
私がそう言うと、理絵は体をずいと前に乗り出してきた。
「付き合おうって言われたりして!どうする!」
「えぇっ!ご飯食べに行くだけなのに飛躍しすぎ。ないない。」
「何言ってんの。いちご今好きな人いないでしょ。これはチャンスよ!」
好きな人・・その言葉を聞いた途端、何故か影山社長の姿が浮かぶ。途端に昨日助けられた時の事が思い出され、鼓動が早くなる。
「いちご。もしかして誰か好きな人いるの!」
「そんな、好きとかじゃないよ。」
「だってその反応。え~っ。いつの間に。この前まで好きって何だろうとか冷めたこと言ってたのに。だれだれっ。会社の人?」
理絵は目を輝かせ、次々に質問をぶつけてくる。
ふと時計に目をやると、休憩時間終了間際だった。
「やばい。もうこんな時間。ほんとまだ好きとかそんな感じじゃなくて。ちょっと気になるくらいで。また今度話すね。」
私はあわてて食堂を後にした。