会いたい
気がつくとあの夜のことばかり思い返してしまう。
現実だけど夢だったようにも思える時間。
名前、聞いておけば良かった。
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彼は静かに言った。
「名前は?」
「えっ」
「あんたの名前。教えて?」
「あっ、、いちご、佐藤いちご・・です。あのっ!私もあなたの・・・」
えっ。
彼が一瞬真顔になったので、私は思わず言葉がつまった。
だけど彼はすぐにふっと笑い、言った。
「いちごか。おいしそ~な名前。」
そう言って、何故か私をじっと見つめてくる。
自分でも顔がほてるのがわかる。
「あのっ、何ですか・・・?」
「・・・別に。さっきの仕返し。」
あっ、またさっさの意地悪な顔。
「じゃあ、俺帰るから。気をつけて帰りなよ。」
そう言って、彼はさっさとギターを片付け、公園の出口の方に歩いて行き、見えなくなった。
あ~あ、あの時私も名前聞こうとしたのになぁ。
彼とはそれきり一度も会えていない。
仕事帰りに通る公園からギターの音が聞こえてくることはなくなった。
あれからもう1ヶ月。
まだ公園を横切るとき、つい期待してしまう自分に驚いてしまう。
今日はいるかなって。
何であんな身元も知らない彼が気になるのか。
普通は夜一人でギター弾いてる人なんて怖くて関わりたくないよね。
でも、一緒に歌ったあの楽しさが忘れられない。
もう一度会いたい。