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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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7.攻撃停止命令

 食事が終わって自分の屋敷に戻ってきた。

 侍女達がドレスの着替えを手伝ってくれる。本当にみんなよくしてくれる。こんな人を殺すなど、そんな恐ろしい考えがどこから浮かんでくるのだろう。

 父は怖かったが、他の兄弟と公平に扱ってくれたのがうれしかった。

 お姫様はここに着くまでと思っていたのが、これからもお姫様でいられる。この大きな屋敷が自分の屋敷なのだ。屋敷どころか、星を3個もらった。その星がまるごと全部自分の物なのだ。

「どうだった?」

 母が聞く。

「怖い人だったけど、そんなに怖くなかった」

 母はわらった。

「どっち、怖かったの」

 正直よくわからない。怖いのは怖いのだが、でもその中に愛情を感じる。

 ところで大ニュースがある。

「ルビルとルビルを攻撃している軍隊をもらった」

 母には意味がわからないらしい。

「私がルビルへの攻撃止められるのよ」

「なに、バカな事を言っているの」

「お父さんから、軍隊をもらったの、ルビルを攻撃している軍隊が私のものなの」

「皇帝がそんなものをくれるわけないでしょ」

 考えてみればすごい話だ。玩具じゃあるまいし、そんなものをよくくれたものだ。

「ルビルだけじゃない。あと2つ星をもらった」

 メレッサは自慢げに言った。母も喜んでくれると思ったのだが、母の表情が変わった。

「殺りくの限りを尽くして奪い取った星をもらったのね」

 母にぶん殴られたように感じた。そんな風には考えていなかった。

「星なんかもらちゃだめ。返しなさい」

 この星はルビルと同じ様に攻撃して占領した星だ。戦争の時にはすごい犠牲が出たに違いない。そんな星をもらって喜んではいけないのだろうか。しかし、心のどこかで返したくなかった。

 メレッサが黙っていると。

「わかってるの、返すのよ」

 メレッサは憮然として母から目をそらした。父がほかの兄弟と公平になるようにとくれた星だ。これは自分がほかの兄弟と対等であることの証のように感じた。確かにひどい事をして奪い取った星には違いなかい。しかし、それは終わったことで、どうせ同じことなのだ。

「返しなさい。星を持つことの意味が分かっているの?」

 メレッサは黙ってじっとしていた。

「あなたに、ここの悪に染まってほしくないの。あなたのお父さんは鬼のような人よ」

 父のことを鬼と言われて抵抗を感じた。もともと、宇宙は十ヶ国ぐらいに分かれて戦争をしていたのだ。それを父が統一しようとしているだけじゃない。


 侍女がやってきた。

「コリンス参謀がお見えです」

 ちょうよかった。母との話はこれで終わらせたかった。

「誰なの?」

「ルビル攻撃軍の参謀をされているそうです」

 私がもらったはずの軍隊だ。父がさっそく手配してくれたのだ。

「隣の部屋でお待ちです」

 隣の部屋は正面に一段高くなった所があって、そこに立派な椅子が置いてある。その椅子の左右にも少し小さな椅子があった。

 立派な軍服を着た3人の男が立っていたが、メレッサが行くと3人は直立で敬礼をした。

 ミルシーが中央の椅子に座るように手で合図する。姫君なので、そこに座るべきなのだろうが、まだ、慣れない。こんな所に座っていいんだろうかと思いながら座った。

「私は、ルビル攻撃軍の参謀を努めています、コリンスです」

 真ん中にいた男が口を開いた。彼は端整な顔立ちをした背の高い男で身体にぴったりの軍服を着ていた。

 本当にこの軍隊が私の物になったのだ。ありえないようなことだけど、星をまるごと子供に与える父なら軍隊だってくれるかもしれない。でも、実際にその軍隊の人が目の前に現れるとどうしたらいいか分からない。母だけが頼りだった。母も一緒にいてもらった方がいい。

「おかあさん、ここに座って」

 メレッサは自分の横にある椅子に手を伸ばした。

 しかし、母はあわてている。

「姫君さま。そこは私がすわれる場所ではありません」

 メレッサは母が自分のことを『姫君さま』と言ったのに驚いた。なにか、どんどん母と距離ができていく。戸惑っていたが、コリンスが口を開いた。

「皇帝から、我が軍は姫君様の下に編入されたと伺いました。しかも、占領作戦の変更もあるとのこと」

 彼は事務的な口調で話し表情を変えない。

「ああ、そうなんです。すぐ攻撃を中止してください」

 どう言ったらいいのか、分からなかった。

 コリンスはしばらく黙っていた、苦笑いしているようにも見えた。

「姫君さま、もう少し全体の方針を説明していただけませんでしょうか」

「ルビルでは、今でも人が殺されているのよ。それをやめて欲しいの」

「ルビルでの占領作戦の事をおっしゃっているのですね」

「そうです、それをすぐにやめて欲しいんです」

「やめるのは無理ですが、犠牲者をもっと減らすことはできます」

 すこし話が通じてきたみたいだ。犠牲者が減らせるなら減らして欲しい。

「それを、やってください」

「それには現在の占領作戦を見直す必要があります。占領計画を作り直すことになります」

 のんびりした話だ。いま人が死んでいるいと言うのに。

「今すぐ、なんとかする方法はないの?」

「姫君の権限で攻撃の一時停止を命じることはできます。しかし、作戦に大きな支障をきたすことになります」

「では、すぐ停止して」

 メレッサはきつい口調で言った。作戦がどうなってもかまわない。

 分かりましたと言うようにコリンスは丁寧に頭を下げた。バカな小娘にとんでもない難題を押し付けられてしまった。と思っているようだった。

 彼は部下に何か指示している。やがて部下が持っていたカバンのようなものから紙が出てきた。

「攻撃一時停止の命令書です。サインをお願いします」

 コリンスの部下がメレッサの前の机に命令書とペンを置いた。

 命令書! 体が震えた。自分にこんな権限があるなんて今でも信じられない。

 命令書にサインをした。部下が命令書をコリンスの所へ持っていった。

 コリンスは頭を下げた。

「では、直ちに手配いたします。それと、新しい占領計画書は徹夜で作成いたしますので、明日の朝にはお持ちできます」

 新しい計画? 犠牲者を少なくできる占領方法のことか、攻撃の停止を今命令したのだから、もう必要ない。メレッサは単純にそう思っていた。

 メレッサの考えを察したのか。

「姫君、占領はやる必要があります。占領の放棄は皇帝が納得されないと思います」

 確かにそうだ。父からは占領をやってみろと言われて軍隊をもらったのだから、占領しないのはまずいかもしれない。それに占領できなかった父がやると言っていた。父がやったら今までと同じ殺りくが起きる。

「その計画だと、犠牲者を減らせるんですか?」

「はい、劇的に減らせると思います」

 コリンスは自信があるみたいだ。彼はにこやかにメレッサをみている。

 できれば戦争を止めて、このまま終わりにしたいが、それだと父が納得しない。しかし、まさか自分が占領をやるなんてそんなこと出来るわけがない。

「明日の朝、お時間を頂けますでしょうか?」

 迷っていると分かったのか、コリンスが声をかけてくれた。そう、ともかく明日の朝コリンスの話を聞いてみよう。

「わかりました」

 小さな声で答えた。コリンスは安心したように微笑む。彼はメレッサのわがままをなんとかうまく収めたいと思っているようだ。

「失礼ながら、意見を申し上げてよろしいでしょうか?」

 コリンスが言う、バカな小娘のすることに言いたい事があるのだろう。内心、私をぶん殴りたいと思っているかもしれない。セシルも何も知らないのに偉そうにしていたから、いつかぶん殴ってやると思っていた。

「なんですか?」

 ぶん殴られるのは困るが、言いたいことがあるならいくら言ってもかまわない。バカにされるのはセシルで慣れている。

「姫君さまのお考えは正しいと思います。現在の占領方法はひどい殺りくです。私もこのような作戦に疑問を持っておりました。メレッサ姫のような方がおいでになるとは信じられません。ぜひ、新しい占領方法でやらせていただきたく思います」

 ひと文句言われるのかと思ったら、予想外の意見だった。ドラール軍の中にもコリンスのような人がいるんだ。

 コリンスの話は終わったらしく、彼はメレッサの指示をじっと待っている。

 メレッサはルビルがどうなったか知りたかった。あれから4日たっている。

「ルビルはどうなっていますか?」

「ルビル防衛軍は一撃で粉砕しました。現在は敗残部隊の掃討をやっております」

 やはりルビル防衛軍は壊滅した。防衛軍に入っていた人たちの顔が浮かんだ。タラント家の長男ジョンも防衛軍に入っていた。どうなっただろう。

「戦死者はどのくらいなんですか?」

「50名弱と聞いております」

 壊滅したのに戦死者が50人? いや、これはドラール軍の戦死者のことだ。どうしてもルビル軍が味方だと考えてしまう。ここではドラール軍が味方なのだ。いや、味方どころか自分の軍隊だ。自分の軍隊を敵だと思ってしまう。

「ルビル側の戦死者の数はわかっていません」

 メレッサの気持ちを察したのか、コリンスが付け加えた。

 どのくらい死んだのだろう。多分ジョンも死んだかもしれない。

 コリンスはじっと立っている。勝手に退室するわけにいかないのだ。

「もう、帰ってもいいですよ」

 メレッサは憂鬱な気持ちで言った。

「計画書は明日の朝お持ちします」

 コリンスは敬礼すると足早に出ていった。



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