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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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6.食事会

 メレッサは母と一緒に飛行車で自分の屋敷に向かった。

 落ち着いてくると、メレッサはそれなりに満足していた。感激の対面ではなかったが、会ってくれたし、やさいい言葉もかけてくれた、これ以上は望めないだろう。それに、子供の頃から考えていた父との対面とほとんど同じだった。父と会えることが出来ても父が優しくしてくれるはずがないと考えていた。期待しすぎると辛くなってしまうからだった。

 それに母が無事だったのがうれしかった。

「お母さん、よかったね。これで無罪放免なの?」

「たぶんね、皇帝の機嫌が良くてよかったわ」

「あれで、機嫌がいい方なの」

 父の言葉が気になっていた。メレッサが貧しい暮らしをしていたことを怒っていたように聞こえたからだ。

「おとうさんは、私の事をどう思ったと思う}

「あなたの事を心配していたみたいね。ちょっと意外だった」

 見かけより優しいのかもしれない。私の事がどうでもよければ迎えなんかよこさないだろう。


 自分の部屋に戻ってきた。

 今夜の食事会の連絡はミルシーに届いていて、急いで準備が始まった。

「ご兄弟に負けないように着飾ってください」

 侍女には不思議な対抗意識があるらしい、ほかの兄弟に負けないようにとミルシーは頑張っている。すごいドレスを着て、これまた大粒のダイヤの首飾りやらイヤリングを着けた。

 ミルシーは私が他の兄弟と対等と思っているみたいだ。私が他の兄弟から差別されたらミルシーががっかりするだろうなと思うと、そちらの方が辛かった。

 少し悪趣味なくらいたくさんの宝石を身に着けて、すごいドレスを着てしずしずと歩く。

 準備ができると宮殿の食堂に向かった。

 食堂は豪華な部屋で、正面にテーブルがありその両側にデーブルが並べてあった。大勢の給仕が壁際に立っている。

 メレッサが行くとさっと給仕がやってきて左側の2番目の椅子に案内した。メレッサは16才、兄弟の中で4番目だった。すでに何人か座っていて、メレッサの左にも女の子が座っていた。握りこぶしくらいの大きさのダイヤを首にかけている。

「あたし、ルシール。よろしくね」

 気の強そうな子だ、メレッサは侍女に教えてもらった事を素早く思い出す、ルシールは18才、兄弟の中で2番目の子だった。

「メレッサです。よろしくお願いします」

「俺は、ジョル。よろしくな」

 向かいの席の左端の男の子が声をかけた。ジョルは19才で一番上だ。そうか、この席順は年齢の順になっているんだ。だったらほかの兄弟と対等なのだろうか。

「メレッサです。よろしくお願いします」

「あたしは、ミリー。今まであたしがそこだったんだけど、あんたが割り込んだんで、こっちへ下がっちゃった」

 みんな笑った。冗談みたいだ。

「割り込んでごめんなさい。メレッサです」

 また笑いが起きた。自分にこんなに兄弟がいたなんて、しかもみんなやさしそうだ。

 次々と集まって来て賑やかになってきた。みんなと話をしたが、みんな優しくていい人たちばかりだ、兄弟ってこんなにいいものか。

 しかし、雑談に混じって驚く話が聞こえてきた。

「ジェル兄さん。この前の生意気な下女はどうした?」

 横にいるルシールが聞く。

「ああ、殺したよ。鞭打ちでね」

 平然と言う、思わず持っていたコップを落としそうになった。

 ルシールがメレッサを肘でつついた。

「あんた、下女とか持つのは始めて?」

「はい」

 ルシールは世話好きみたいだ。

「だったら、まず一人殺すの一番トロそうなやつをね。そしたら目の色を変えて仕えてくれるよ」

 メレッサはあいた口がふさがらなかった。人の命を何だと思っているの。

「驚いているみたいね。でも、やってごらん絶対に効果があるって」

「みんな、すごくよくしてくれます」

 ここへ来る時の宇宙船の侍女達のことが頭に浮かんだ。メレッサが眠っている間も起きて待機している侍女がいた。

「ならいいけどね」

 ルシールは冷たく言った。

 右隣は弟だった。

「あたし、メレッサ。あなたは?」

「僕は、ニラス」

「歳は?」

「14」

 彼はほかの兄弟に比べ寂しそうに見えた。彼はまったく雑談に参加しようとしない。

「あたし、今までメイドやっていたの。メイドってわかる?」

 無理に話しかけてみた。

 彼は首を振る。

「そう、ここで言う下女かな。掃除したり、お茶を入れたり、大変だった」

「そんなの、下女にさせればいいじゃん」

 そうか、環境があまりに違うから理解出来ないのだ。

「いえ、そうじゃなくて、私自身が下女なの。だから下女にさせるわけにいかないの」

 彼の顔を見たが、理解していないみたいだった。


 突然、静かになった。あんなに騒がしかったのに、ピタッと話が止まった。

 父が入ってきた。

 みんな父が怖いのだ。みんな姿勢を正し、じっと父を見ている。

 父はなぜか機嫌が悪そうな顔をしている。なにに腹を立てているのだろう。

「ロディー、教練はやったか?」

 いきなり怒鳴りつける。ロディーは7番目で10歳。みんなロディーを見た。

「い、いえ、まだです。すぐやります」

 ロディーは大声で叫んぶ。

 メレッサはすくみ上がってしまった。こんなの怖すぎる。家族での食事がこれじゃあ、たまったもんじゃない。

 父はガタンと音を立てて椅子に座った。みんなを睨みつける、父がこっちを見た、目を合わさないようにそれとなく目をそらす。

「メレッサ…」

「はい」

 メレッサは飛び上がってしまった。

 父は、勘違するなとでも言うようにじろっとメレッサを見た。

「メレッサが、やっと見つかって、今日からここで暮らすことになった」

 父が言う。なんだ、あたしを呼んだんじゃなかったのか。

「メレッサが見つからないので、ずいぶんと心配したんだが、やっと見つかった。これで一安心だ」

 父がメレッサを見た。

「メレッサ」

「はい」

 今度は間違いなく呼ばれた。

「お前には、苦労をかけたな。この埋め合わせはするからな」

 意外に優しい言葉だ。父は本当は優しいのかも。

 食事が始まった、が、誰も一言も話さない。

「ジョル。アミタテはどうしてる」

 いきなり、怖い声で聞く。

「今、資料を取り寄せています、調査が済んだら報告します」

 ジョルは落ち着いて答えた。さすが長男だ。あの父に普通に話せるとは。

「ルシール。なんだ、そのダイヤは。みっともない、はずせ」

 ルシールがつけている大きすぎるダイヤの事を言っているのだ。確かに大きすぎてみっともない。

「はーい」

 ルシールが嫌そうにしていると。

「ルシール」

 父が怖い声で一喝した。

「はい」

 ルシールはダイヤを握ると紐を引きちぎり、それを後ろへほおり投げた。ルシールは父に反抗的みたいだ。

 父はさらにみんなを見回す。次は誰が犠牲になるのか、みんな戦々恐々だ。

「メレッサ!」

「はい」

 メレッサはビクッとして答えた。

「もっと胸をはれ」

「はい」

 メレッサは肩を引いた。緊張で生きた心地がしない。

「お前も宝石のつけすぎだ。少し外せ」

「はい」

 父に逆らうなんて考えられない、父に言われたのに嫌そうにしていたルシールが豪傑に見えた。ネックレスを一つ外そうとしていると。

「今日はいい、次から気をつけろ」

「はい」

 ルシール、メレッサときたので、席の順番なら次はニラスだ。父はニラスを見る。

「ニラス」

 隣でニラスがビクッとしたのがわかった。

「おまえ14になったんだな。よし、星をやろう。どこがいい」

 父は急に穏やかな声になった。ニラスは怒られるわけではないみたいだ。星をやるって、なんだろう。

「ジェレンデをお願いします」

 ニラスが答えた。ジェレンデは聞いたことがあった。ルビルの前にドラールに占領された星だ。まさか、星をまるごともらうのか。

「よし、ジェレンデはお前のものだ」

 父が言う。

「ニラス、よかったな」

 ジョルがニラスを力づけた。場の空気が少し和らいだ。

 ルシールがメレッサを肘で突っついた。

「あんたの年なら、3つもらえるよ」

「星をもらってるの?」

 メレッサは小さな声で聞いてみた。

「そう、みんなもらってるよ」

 星をもらう、途方もない話だ。でも、もし、もらえるならルビルが欲しいかった。ルビルをもらえばルビルの戦争を止めさせることができるかもしれない。しかし、自分はみんなより格下だから星などもらえるわけがない。

「メレッサ。お前は16だな」

 突然、父がメレッサを呼んだ。

「星を3つやる。どこが欲しい?」

 自分にもくれるらしい。胸がどきどきしてきた。ほかの兄弟と同じに扱ってくれるのがうれしかった。

「ルビル」

 と言ってみた。

「ルビルはまだ占領が終わっていない」

「戦争を終わらせたいんです」

 必死で言った。興奮して手が震えた。

「今、戦争中だ、どうする気だ」

「ルビルでの犠牲を少しでも減らしたいんです」

「占領を任せて欲しいということか?」

 そんな大それた考えじゃなかった。

「占領は大変だ、お前には荷が重い」

「何とか犠牲を減らせませんか?」

 ルビルが自分のものになれば、どうにかなるような気がした。

 父は考えている。

「わかった。ルビル攻撃軍をお前にやろう。占領をやってみろ、お前に任せる。占領できたらルビルはお前のものだ」

 占領なんかするつもりはない。早く攻撃を止めさせないとみんながどんどん死んでいる。

「占領は大変だぞ、情けをかけてはいかん、どんどん殺すんだ。100万人くらい殺せば抵抗しなくなる」

 100万人! メレッサは思わず首をふった。

「まあ、心配するな、お前が失敗したら俺が占領してやる。ルビルはお前のものだ」

 ルビルの占領をまかせてもらえそうだ。ルビルを攻撃している軍隊が私のものになる。私が攻撃の中止を命令すれば攻撃が止まるのだ。すぐにでも中止しなくては、後のことはそれから考えればいい。

「ほかにはどこが欲しい?」

 父が聞く。

 どこと聞かれたもまったくわからない。黙っていたら。

「わかった。ルビルのほかに、タン、ミダカをやろう」

 そう言われても、どこか分からない、名前すら覚えられなかった。

「よかったじゃない」

 ルシールが喜んでくれる。

 ルビルをもらえたら、あとの星はどうでもよかった。ルビルでの戦争を止められる。自分の権限で攻撃を止めることができる。


 夕食はそのまま進んだ。誰もほとんど話をしない。時々、気まぐれに父が怒鳴る。

「メレッサ。胸をはれ!」

 怒鳴られた。食事をしているからどうしても下向きになるだけなのだが……。怒鳴られても、最初の時ほど驚かなくなった。兄弟たちも、年下の子は父に怯えているが、年上の子は適当にやり過ごしているだけだ。みんな怒鳴る父を嫌っているようだった。

 しかし、メレッサは父が自分の事を怒鳴ってくれるのがうれしいとさえ感じ始めていた。今までは怒鳴ってくれる人すらいなかったのだ。



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