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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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4.宮殿

 宇宙船ではお姫様としての生活が続いた。侍女達が何から何までやってくれる。それにそんな生活にも少し慣れた。コツは何もしないことだ。全部侍女がやってくれる。そのうち、ご飯も食べさせてもらうことになりそうだった。

 しかし、セダイヤワが近づくにつれて不安が広がってきた。父は会わなけらばならない。父は会ってくれるだろうか。それに兄弟が自分のほかに7人いるという。兄弟達と会えるのだろうか。

 母に聞いてもまったく予測がつかないらしい。

「最悪の事を考えていた方がいいわ」

 母は悲しそうに言う。

「皇帝とどんなことがあったの?」

「ひどいこと。だから私は耐えきれずに逃げ出したの。捕まったら何されるか分からない」

 そんな事情なのに私を連れてきてくれたのだ。

「殺されるの?」

 母はわらった。

「あなたを連れてきたから、大丈夫よ」

 本当に大丈夫なのだろうか。母の身に何かあったら耐えられない。

「大丈夫よね?」

「殺されることはないと思うけど、何かの処罰は受けるわね」

「処罰?」

「そう、牢屋に入るとかね」

 母はそれを覚悟の上で、私を助けようとしてくれているのだ。

「お母さん、そんな事なら、ルビルに残った方がよかったのに」

「ルビルは今頃戦場よ。戦場がどんなものかあなた知らないでしょう。生き残るためにはこの方法しかなかったの」

「でも、お母さん、牢屋なんて、いや」

「我慢しなさい。生きていればそのうち会えるわ」

メレッサは母の首に抱きついた。

「これが戦争なの。あなたを助けるにはこれしか方法がなかったの。わかって」

 不安が広がってきた。母が牢屋に入れられる、あの辛かったメイドの生活が夢のように思えるくらいひどい所に違いない。母はそんな所で耐えなければならないのだ。それも自分を助けるために、分かっていてここに連れてきてくれた。母に感謝しても感謝してもしたりない。

 メレッサは、しばらく母に抱きついていた。明日、セダイヤワに着く。母に抱きつけるのも今日までかもしれない。

「皇帝の事を少し教えて、会う前に知っておきたいの」

 母は遠くを見るように考えている。悪い思い出しかないのだろう。

「冷酷な人だから注意して。逆らうようなことを言ちゃだめ」

「わかった」

「何かを聞かれるまで、話してもだめ。彼が話すのを聞いていて、聞かれたら返事するの」

「わかった」

「つらいことがあっても、我慢してじっと耐えるの、決して決して彼に何かを要求してはだめよ。たとえ誰かが殺されるとわかってもね」

 母は涙声になった。それ以上先が言えなかった。殺されるって母のことだろうか。

次の日、宇宙船はセダイヤワに到着した。


 眼下に、ドラールの宮殿が見えてきた。広大な庭園があって、その中にたくさんの建物が建っている。庭園は森や湖があって川も流れている。度肝を抜くような広大さだ。高度が下がるにつれて建物の一つ一つが巨大な建物だと分かってきた。それぞれが宮殿みたいな豪華な建物だ。

 宇宙船はその庭園のやや端の方にある、他の建物に比べるとやや小柄な建物に向かって降りていく。その建物は小柄といっても宮殿のような建物で他の建物に比べると小さいのであって充分に大きな建物だった。

 建物の周囲には広大な庭があるが、宇宙船はその建物の前の庭に降りた。降りたと言っても地上から1mくらいの所に浮いていて庭を痛めないようにしている。

 ミル艦長に案内されて宇宙船を降りた。玄関には大勢の人が整列して立っている。

 先頭に立って歩いていくと、みんな頭を下げてくれる。

「この人たちは?」

 ミルシーに聞いてみた。

「下男や下女たちです」

 すごい、100人くらいいる。まさか、この人たちが私の世話をするためにいるんだろうか。

「何をする人ですか?」

 ミルシーが驚いてメレッサを見る。

「もちろん、このお屋敷で働くためです」

 なるほど、屋敷全体での使用人なのだ。少し安心した。

 建物の中に入り、廊下を進んで広い部屋に案内された。

「申し訳ありません。ここが姫君様のお部屋です」

 ミルシーが申し訳なさそうに言う。

 この部屋が私の部屋。天井が高く、広い窓がある。綺麗なカーテンがかかっていて、信じられないような立派な部屋だった。しかし、ミルシーの態度が気になった。なにか勘違いがあるのかもしれない。

「ミルシー、どうしたの。ここは私の部屋なんでしょ?」

「いえ、この建物全体が姫君様の屋敷になります」

 建物全体が私の家! 驚きだ。この部屋だけでなくて他の部屋も使えるのだ。では、さっきにの人たちは、やはり私の世話をするためにいるのだ。100人も。

 でも、ミルシーは気の毒そうに頭を下げている。

「なにか、問題でもあるの?」

「この建物はずいぶんと貧弱でございます」

「これで、貧弱?」

 ルビルで住んでいた家を見せてやりたかった。

「ご兄弟の屋敷はもっと大きくて立派なものでございます。ここはかなり見劣りが致します」

 なるほど、兄弟と比較すると貧弱だと言うのか。でも、それは最初から分かっていたことだ。ちょど、この家が兄弟との立場の違いを表しているのだろう、自分は兄弟より一段格下なのだ。

「大丈夫よ。すごい部屋」

「今、係の者に事情を問いただしております。急な話で屋敷の空きがなかったと申しておりますが、このような粗末な屋敷ではメレッサ姫に対する重大な侮辱だと、きつく抗議しております」

「そんな抗議をする必要はないわ。この家がちょうど合っていると思う」

 むしろ、この程度の格差でよかった。もっとひどい可能性だってあったのだ。

 それより、いつ父に会えるのか知りたかった。

「父に会えるのはいつになりそうなの?」

「今、面会を申し入れています。多分、そのうちに呼び出しがあると思います」

 父とはすぐに会える。でもあまり期待しない方がいい、冷たくあしらわれるだけかもしれない。いや、会ってくれないかもしれないと思っていたのだ。会ってくれるならそれだけでいい。

 屋敷の中を少し歩いてみた。広い部屋がたくさんあって、その一部屋一部屋がどれもすごい。豪華な家具がおいてあり、大きな絵画が掛けてある。宇宙船の部屋が豪華だと思っていたが、あの部屋が粗末だと感じてしまう。

 窓からは庭が見えていて、植え込みが綺麗に手入れされているし、気持ち良さそうな吾妻屋がある。

 豪華な椅子があったので座っていたら、下女がお茶とお菓子を持ってきてくれた。メレッサが母とどこかに座ったら、必ずお茶を出してくれる。このような待遇に少しは慣れたが、世話をする人達が大変だろうなと思うと、落ち着かなかった。


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