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独裁者の姫君  作者: 夢想花
31/35

31.艦隊の危機

 スクリーンには中央での戦闘の様子が写っていた。周囲の船が応援に駆けつけているがまだ父の所に到着できていない。敵の大群が父に襲いかかっていて、激しい戦闘が起きていた。

 ルシールの艦隊は相当数が動けなくなっているが、それでも父の所で戦っている。ルシールの船もそこにいた。

「皇帝からの通信が途絶えました!」

 情報担当者が叫んだ。

 父に何かあったのか! スクリーンでも旗艦の色が赤くなった。父の船が攻撃を浮け大破している。

「姫君、指揮権の取得を」

 セラブ提督が叫ぶ。

 全軍の指揮権をメレッサが持たなければならい。まさか、この私が全軍を指揮するのか、実際にこんな事がおきるなんて考えた事もなかった。

 スクリーンでは敵が一斉に逃げ始めた、しかも、メレッサの作戦通りメレッサが待ち伏せしている方へ向かい始めた。

 敵がこっちへくる。しかも、父はもう何もしてくれない。メレッサは頭が真っ白になった。

「姫君!!」

 セラブ提督が怒鳴る。

 メレッサは気を取り直した。指揮権の取得をやらなければならない。

「メレッサです。父からの通信が途絶えたので、私が指揮を引き継ぎます」

 マイクに向かって叫んだ。

 とりあえず指揮権は持った、しかし、もっと大問題がある。敵がこっちへ向かってくるのだ。それを一人で受け止めたら壊滅してしまう。しかも、全艦隊はメレッサが命令しないと動かない。

「私は、敵を脱出コース上で待ち伏せします。全艦隊は敵を追撃して下さい、はさみ撃ちにします」

 興奮して声がふるえていた。

 スクリーン上では、全艦隊が動き出し、敵を追いかけ始めた。

 敵はまっすぐこっちへ向かってくる。敵はメレッサの5倍の兵力があるのだ、これと正面からぶつかることになる。メレッサは急に怖くなった。さっきはよく考えもせず、とんでもなくバカな事を思いついたと後悔したが、もう遅かった。

「第1から第4旅団は、迂回して私と合流しなさい」

 メレッサは命令を出した。自分の所に援軍が欲しかったからだ。とりあえず4旅団も集めれば何とかなるだろうと思ったが、それを聞いてセラブ提督が驚いている。

「戦闘には間に合いません。遊軍になってしまいますぞ」

 セラブ提督に指摘されて始めて間に合わないことに気がついた。援軍が到着するころには勝負はついている。だから、援軍は戦闘に参加できない遊軍になってしまう。でも、それでも援軍が欲しかった。援軍が来てると思うだけで安心できる。あたしが指揮権を持っているのだから、少しはあたしのやりたいようにやっていいだろう。

「姫君! 待ち伏せ攻撃ですから、こちらが劣勢でも短時間なら充分に戦えます。ご心配無用です」

 メレッサの心配が分かったのだろう、セラブ提督が声をかけてくれた。

 敵がぐんぐん近づいてくる。でも、戦闘をどう指揮したらいいか分からない。

「セラブ提督。戦闘の指揮は任せます」

 メレッサは無理はしなかった、戦争は戦争の専門家に任せた方がいい。

「わかりました」

 セラブ提督が自信たっぷりに答えた。

「メレッサ艦隊へ、5分もちこたえろ、5分だ! そうすれば味方の大艦隊が敵の背後に襲いかかる」

 セラブ提督が艦隊に檄を飛ばした。

 敵が目の前に来た。敵はまだ待ち伏せに気がついていない。

「全力後退。敵と速度をあわせる」

 艦隊がさがりはじめた。止まっていたのでは敵と一瞬ですれ違ってしまうからだ。

「撃て!!」

 セラブ提督が怒鳴った。

 まぶしい光の筋が一斉に伸びていく。

「撃って撃って撃ちまくれ!!」

 提督も興奮している。

 全艦隊からすざまじい数の光の筋が伸びていく。

 メレッサは緊張して体がガクガク震えた。

 敵からも光の筋が飛んでくるようになった、シールドに当たってドシンと震える。

 これで、味方が敵の背後を襲ってくれるまで持ちこたえなければならない。しかし、なかなか

味方はやってこなかった。

 敵はメレッサの5倍の兵力があるのだから、敵が体制を立て直して突っ込んできたら、壊滅してしまう。

 敵からの光の筋がものすごい数になった。そこら中を飛んでいく、シールドに当たって激しく揺れる。

 スクリーン上の味方の船が次々に赤い色に変わっていくが、敵を追ってきている味方の大艦隊はまだ距離がある。

 メレッサは生きた心地がしなかった。ルシールの助言が頭をよぎる。あたしが逃げろって命令したらどうなるんだろう。セラブ提督は命令を聞いてくれるだろうか。

 提督の額に汗がにじんでいる。

「提督!」

 メレッサは思わず声をかけた。

「持ちこたえるんです」

 提督は誰に言うともなく言う、今は頑張るしかない。

 激しい音がした。シールドを破って着弾したらしい。

「損害を調べろ!」

 艦長が叫んでいる。

「一歩も引くな!!」

 提督が艦隊に向けて怒鳴る。提督はかなりの犠牲を払ってもここを死守するつもりらしい。

 スクリーン上では赤い点がどんどん増えている。このままでは壊滅してしまう。


 やっと、味方の大艦隊が敵の背後に到着した。大艦隊が敵の背後から攻撃を開始し、敵は大混乱に陥っている。

 飛んで来る光の筋が急に少なくなった。

「助かった…」

 メレッサはほっとしてつぶやいた。体の力が急に抜けてしまう。

「姫君、大勝利ですぞ」

 セラブ提督がうれしそうに言う。

 メレッサもやっと落ち着きを取り戻した。逃げなくてよかった。

 次々と後続の艦隊が敵の背後に突っ込んで行く。スクリーンにはバラバラに逃げ惑う敵の船が写っていた。このままでは壊滅するだろう。

「敵の側面も攻めるべきです。姫君、第8旅団に南側へ回るように指示して下さい」

 提督が助言してくれる、メレッサにはどうしたらいいかまったく分からなかったから、戦争の専門家の意見に従うしかない。

「第8旅団、南へ回り敵の側面を攻撃して下さい」

 メレッサはマイクに向かって指示をした。


「ミラルス王から、通信が入っています」

 情報担当者が言う。降伏の申し出かもしれない。

「私が出ます」

 メレッサは答えた。

 やがて、立体テレビ電話にミラルス王が写った。精悍な感じの男で、やさしそうな目をしてる。

「ミラルスです」

 透き通った声だった。

「メレッサです」

 メレッサはできるだけ威厳をもって答えた。軽く見られてはいけない。

「メレッサ姫。あなたが指揮を取っているのですか?」

 彼は少し驚いたようだった。

「そうです」

 自分がこの大艦隊の中で一番偉いんだと思うと、ちょっと気持ちがいい。

「まだ、お若いのにたいしたものだ」

「用件は何でしょう?」

 冷たく言った。相手に有無を言わぜず降伏させなければならない。

 彼はちょっと考えていたが。

「あなたにだったら、降伏します」

 と言った。ちょっと虚栄心をくすぐられるような言い方だ。でも、父に降伏するのとどう違うのだろう。

「条件は部下の命を助けていただくこと」

 彼は続けた。

「降伏するなら、誰も殺したりしません」

 メレッサは答えた。これが『私に』と条件を付けた理由なのか? 父は降伏した相手の指導層を処刑する。私は絶対にそんなことはしたくない。私に降伏したのなら絶対に処刑はさせない。

「私に降伏するのなら、命は保証します」

 メレッサは自分の決意を言った。

 ミラルス王は穏やかに笑う。

「わかりました。あなたに降伏します」

 彼は高貴な人を見るような眼差しでメレッサを見ている、降伏を受け入れるのは素晴らしく気分のいいものだ。メレッサは思わず笑みがこぼれた。

「では、戦闘を停止して下さい」

 威厳を持って言おうとしたが、うれしくて威厳なんてどこかに吹っ飛んでしまった。

 電話は切れた。

 すぐに攻撃を止めなければならない。

「敵は降伏しました。戦闘を停止して下さい」

 メレッサは全軍に命令した。

 笑っては威厳がなくなると思って必死で笑顔を我慢していた。どこか、父の気持ちがわかるような気がした。

「姫君、おめでとうございます」

 セラブ提督が声をかけてくれた、太ったお腹を突き出して満面に笑みを浮かべている。

「ありがとう」

 メレッサもうれしかった。ミラルス王をこの手で降伏させたのだ。

「姫君、おめでとうございます」

 ブリッジのあちこちから声が上がった。メレッサはそれに手を上げて答えた。



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