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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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27.出撃

 メレッサの艦隊は父が新たにくれた艦船が加わって一万隻もの大艦隊になっていた。

 彼女は自分の艦隊の様子を確認に小型の宇宙艇で自分の艦隊に向かっていた。出陣前に一度、実際に自分の艦隊を見ておきたかった。それを見ても何も変わらないのだが、どこか安心できる。

 セダイヤワの周回軌道には出撃の準備のため、ものすごい数の宇宙船が浮かんでいるのが窓から見えていた。

「これは、第6旅団、ドイルス将軍の艦隊です」

 横でコリンスが説明してくれる。

「あっちに見えるのが、第2旅団、マリムレイ将軍の艦隊です」

 コリンスがいろいろと教えてくれるが、ともかくものすごい数の宇宙船が浮かんでいることしか分からなかった。ここにドラール軍のほぼすべての軍艦が集まっている。ルビルにいた頃は恐怖の対象でしかなかったドラール軍の宇宙船がこんなにも頼もしく感じるなんて。

 メレッサが乗った宇宙艇は、それらの宇宙船の間をすり抜けていく。

「あれが、姫君の第20旅団です」

 コリンスが指差す方を見た。境目がどこなのか分からないが、前方にたくさんの宇宙船が浮かんでいるのが見えた。あれが私の艦隊らしい、私の艦隊もドラール軍の一部なのだ。全銀河系の人々から恐怖の目で見られているドラール軍の宇宙船が目の前にある。しかも、それが自分の艦隊なのだ。

 宇宙艇は艦隊の中に入っていく、前方に巨大な宇宙戦艦が見えてきた。

「あれが、旗艦のスリナビです」

 セラブ提督の旗艦だったミルビスより大きく見えた。

「私は、あれに乗るんですか?」

「そうです。あれなら、少々の砲撃を受けても大丈夫です」

「セラブ提督は?」

 ミルビスはどうなるんだろう。私のスリナビが旗艦になるとミルビスは旗艦ではなくなる。

「もちろん、提督もご一緒にご乗艦になります。作戦については提督が助言してくれます」

 コリンスが説明してくれる。助言が絶対に必要だ。メレッサは戦闘になったらセラブ提督に任せるつもりだった。


 スリナビに乗り込むと艦長らしき人が出迎えてくれて、メレッサを彼女の部屋に案内してくれた。豪華な部屋が10部屋以上あって、室内プールまであった。

「この船は、以前ルシール姫が使われていたんですよ」

 艦長が説明してくれる。

「スケートリンクを作れと言われたんですが、出撃まで時間がなくてその時は無理でした」

 艦長は申し訳なさそうな顔をしている。

 いかにもルシールらしい、戦争に行くのにスケートで遊ぶ気だったのだ。

「どうでしょう、その後改装をしたので今なら作れますが、作りますか?」

 艦長はメレッサが喜ぶだろうと思っているみたいだ。

 ルシールと一緒にされては困る。

「いえ、結構です。それよりブリッジを見せてください」

 戦闘になった時、全艦船にどう指示をするのか知りたかった。前回は3隻だったから簡単だったが1万隻にもなったらどうやって連絡を取るのだろう。

「こちらです」

 艦長が案内してくれる。

 ブリッジは広い部屋で、まわりがほとんど窓になっていて広い範囲が見渡せる。

 中央に立派な椅子があった。

「座ってごらんになりませんか?」

 艦長が椅子を奬める。

 こんな所に座ると、また、自分で指揮を取ると思われる。

「いえ、結構です」

 軽く断ったが、艦長はメレッサが座りやすいように椅子を回してくれる。

「姫君が自ら艦隊の指揮を取られるとのこと、艦隊の乗り組み員一同感激しております」

 艦長はうれしそうにしている。そんな噂がどこから出てきたのだ。

「いえ、私は指揮などとりません」

 ピシッと言った。妙な噂が出回ると困る。

「指揮をとられないのですか?」

 艦長がありえないといった表情で見ている。

「指揮はセラブ提督に任せます」

「そうですか……」

 艦長は本当に残念そうだ。そんなに期待されているのだろうか。

「艦隊とはどうやって連絡を取るんですか?」

 もう、この話は終わりにして、別の質問をした。

 艦長はメレッサの横にくると、椅子に付いているスイッチを入れてくれた。

 目の前に大きな立体画像が現れた。セダイヤワがあってその周囲に小さな点がたくさん写っている。

「この点が宇宙船です。こちらの青い点が姫君の艦隊になります。これを見ながらそのまま指示を声に出せば、姫君指揮下の宇宙船の艦長に声が聞こえるようになっています」

 メレッサが指揮をする前提で説明してくれる。

「わかりました、でも私は指揮はしませんよ」

 妙に期待されると困る。

「姫君は、ご自分の人気をご存知ないのですか? 姫君が指揮をとれば勝ったも同然だと、みんな思っています」

 艦長は説得するかのように話す。

 メレッサも自分の人気は多少知っていた。ただ、メレッサの取り巻きから聞く話はお世辞が入っているでの少し割り引かなくてはならない。

「おだてないでください」

 軽くいなしたが。

「いえ、本当の事です、ドラール皇帝では乗組員の士気が上がりません」

 艦長はうっかり皇帝の悪口を言ってしまって、あわてて口をつぐんだ。その場の誰もが凍りついたようになった。皇帝の娘に悪口を聞かれたのだから、場合によっては皇帝に知られてしまう。

 艦長は真っ青になってメレッサを見ている。

「大丈夫です、話したりしません」

 メレッサは答えた。それに、きわどい話が出たついでに、以前から気になっていた事があった。

「一般の帝国の市民はドラール軍とミラルス軍のどちらを応援しているんですか?」

 普通の市民の本当の気持ちが知りたかった。

「もちろん、ドラール軍です」

 艦長が当然と言うように答えた。もちろんこんな質問をしても、この答えしか返ってこない事はわかっていた。

「本当の事を教えてください。そうは思えないんです」

 ルビルにいた時の皇帝に対する庶民の感情を考えると、父を応援するものがいるとは思えなかった。

 メレッサがきつい目で艦長を睨むと、艦長は落ち着きをなくして困ったように周囲を見ている。

「たぶん… わずかではありますが、ミラルスを応援する者もいるかと思います」

「わずかですか?」

 そう聞くと、さらに艦長は落ち着きをなくした。

「いえ、かなりの者がそうだと思います」

 父は人気がないのだ。力づくでの統治が嫌われている。これだけの大艦隊で攻め込んでもミラルスに勝てないのも、そこに原因があるのかもしれない。

 下見が終わって帰る時、艦長はスケートリンクを作ってくれると言いだした。スケートなどした事がないし寒いのは嫌いだと言っても艦長は引かない。メレッサに弱みを握られたと思っているらしい。



 いよいよ、出撃の日が朝になった。

 母は固くメレッサを抱きしめてくれた。

「くれぐれも気をつけてね」

 母は心配そうだ、悲しそうな目でメレッサを見つめる。

「わかった、大丈夫」

 これから、自分が戦争に行くなんて嘘みたいだった。

「敵がきたら、さっさと逃げるのよ」

 冗談のようにも聞こえたが笑えなかった。

「わかった、すぐ逃げる」

 旗艦に乗るのだし逃げるわけにはいかないだろう。でも、ルシールは逃げると言っていた。ルシールの考えが正しいのかもしれない。

「手柄なんか立てなくていいのよ。一番後ろにいなさい」

 私は左翼なので後ろには行けない。でも、自分の艦隊の中では一番後ろの安全な所にはいることになっている。

「心配しなくても大丈夫よ。旗艦は安全な所にいるの」

 コリンスが宇宙艇の前で待っている。そろそろ行かなければならない。

「では、行ってきます」

 最後に母がしっかりと抱きしめてくれた。

 宇宙艇に乗り込むと、宇宙艇は静に上昇しはじめた。下で母が手を振っている、メレッサも窓の所で必死に手を振った。


 宇宙艇はメレッサの艦隊にはいかず、まずは父の船に向かった。父の船で作戦会議があるのだ。

 父の旗艦はずいぶんと小さな船だった。こんな船で大丈夫なのだろうか。

「皇帝の昔から愛用の船です、『メデューサ』といいます」

 コリンスが説明してくれる。

 父の旗艦に乗り込むと、セラブ提督とコリンスは会議室に入ったが、メレッサは係の人の案内で控え室に入った。皇族なので待遇が違うらしい。

 控え室には、ジョル、ルシール、フォランが来ていた。兄弟の中で戦争に行くのはこの4人なのだ。

「よお、はりきってるわね」

 ルシールが明るく迎えてくれた。

「姉さん、怖くない」

 メレッサはかなり緊張していた。これから戦争に行くと思うとどうしても怖くなる。

「たいしたことないって、どこで戦争やってるのって思っているうちに終わちゃうから」

 ルシールは元気づけてくれる。

「それは、おまえが一番後ろにいるからだよ。前の方は結構大変なんだから」

 ジョルが言うとルシールはふくれている。

「大丈夫、父さんの指示どおりに動いていればいい、それに部下がちゃんとやってくれるよ」

 ジョルが教えてくれる。

「あたし全部、セラブ提督に任すつもり」

「それがいい」

 ジョルが笑う。

「メレッサ」

 ルシールが厳しい口調で言う。

「ヤバくなったら逃げなさいよ。面子なんかどうでもいいって。あとで父さんに怒られればすむことよ」

 ルシール独特の考え方だ。でもこの考えが正しいのかもしれない、この戦争になんの価値があると言うのだ。

「わかってる、その時は逃げるわ」

 でも、逃げる勇気があるだろうか、逃げるのが一番勇気がいるのかもしれない。

「俺は逃げないよ。逃げるなんて弱虫のすることさ」

 フォランが言う。彼はいつも何故か不満そうだ。

「あんたも、ぎゃあぎゃあ言ってないで逃げなさいって」

 ルシールが叱るように言う、ルシールはフォランに手を焼いているみたいだ。

「姉さんは卑怯だ。同じ兄弟なら同じように戦うべきだよ」

 フォランもルシールに食ってかかる。

「フォラン、いいじゃないか、ルシールは女なんだ、男みたいにはいかないよ」

 ジョルがなだめると。

「でも、メレッサは女でも立派に戦ってる」

 ジョルはそう言われてメレッサをまじまじと見た。

「まあ、メレッサは男まさりだから……」

「兄さん!」

 メレッサは叫んだが大笑いになってしまった。


 世話役の人が会議室へ行くように伝えにきた。


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