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独裁者の姫君  作者: 夢想花
25/35

25.脱出

「敵との距離23光分」

 レーダーを見ている兵士が定期的に距離を報告していた。徐々に距離が近づいてくる。

 メレッサはブリッジに立って流れていく星をじっと見ていた。

 敵をうまく騙せるか、メレッサは緊張で体が震えた。

 ブリッジは今、後ろを向いていて、窓から真後ろが見えていた。あの星の流れて行く先に敵の宇宙戦艦がいる。

「敵との距離16光分」

 ずいぶんと近づいてきた。手に汗が滲んでいる、ねばねばする手をスカートで拭いた。

「敵との距離14光分」

 兵士が報告する。

 突然、まばゆい光の筋が後方から伸びて来て前方に飛んでいった。

「撃ってきました」

 誰かが叫ぶ。

 敵はどんどん撃ってくる。光りの筋が次々と追い越して行く。

 でもこちらは撃たない。なぜ、こちらは撃たないのか?

「こっちも撃ちなさいよ」

 メレッサは心配になって言った。

「撃て!」

 メレッサの命令を受けて艦長が命じた。

 船の後方に設置されていた陽子砲が火花を放った。まばゆいばかりの光の筋が後方に向かって伸びていく。

 隣の船も撃っている。

「敵との距離12光分」

 報告の声が聞こえる。

「遠慮するな、どんどん撃て」

 艦長が怒鳴っている。

 陽子砲は立て続けに発射される、幾重もの光の筋が伸びていく。

 光の筋がこっちに向かって伸びてきて、この船のすぐ上を飛んで行った。

 一発がシールドに当たった。ものすごい爆発を起こし、船が激しく揺れた。しかし、シールドが守っているので船体には損傷はない。

「距離10光分」

 報告の声がする。

 近くなったせいか、シールドに命中する弾が増えてきた。

 敵はどんどん近づいているのに、おとりが逃げていない。もうおとりを逃さないと、敵に1艘だけ逃げたと見えなくなる。

「ねえ、おとりを逃さなきゃ」

 メレッサはたまらずに言った。

「よし、減速」

 メレッサの命令を待っていた艦長がどなった。

 窓からは、1艘の船がすうと動き出してこの船から離れていくのが見えた。この船が減速しているから、相手の船が動いているように見える。あの船がおとりとして逃げるのだ。もう1艘は窓から見える位置が同じに見えた。この船と同じ減速をしているのだ。

「急速に接近中、敵と8光分」

「どんどん撃て」

 艦長が怒鳴った。

 陽子砲は焼けきれんばかりに撃っている。敵の弾がシールドに当たると激しく船が揺れた。

「あと6光分」

「全速前進、敵との距離を維持する」

 艦長の声。

 まばゆい光の帯はどんどん伸びていく。後方からも光の筋が伸びてくる。

 シールドに当たる弾が多くなってきた。船が激しく揺れる。

「あと4光分」

 声がうわずっている。

「シールドが限界です」

 誰かが叫んだ。

「蛇行しろ」

 艦長がどなる。

 船が激しく向きを変えるのがわかった。心なしか外れる弾が多くなった。

「あと2光分です」

「ミサイル発射」

 無数の火の玉が船から飛び出して後ろに向かって飛んでいく。


 ものすごい衝撃があって、メレッサは吹っ飛ばされて転がった。煙が吹き出ている。敵の弾がシールドを破って船に当たったのだ。

「どこに当たったの」

 メレッサはよろよろと起き上がるとコリンスの所へ行った。

「避難された方がいい」

 コリンスが言う。メレッサもそう思った。

 見ると陽子砲は横に向かって発射されていた。

「向きが間違っている」

 メレッサは言ったが。

「いえ、敵艦が横にいます」

 敵の船はこの船を追い越しつつあった。陽子砲が横に発射され、敵が横からどんどん撃ってくる。

 また、衝撃があって吹っ飛ばされた。思い切り腰を打ってしまった。見ると窓の外の星が回っている。

「コントロールできません」

 誰かが叫んでいる。耳がおかしくなってきた、気圧が下がっている。船体に穴が開いてそこから空気が漏れているのだ。

「姫君、こっち」

 コリンスに引っ張られて、ブリッジを出た。煙が充満していて何も見えない。

 また、衝撃があって壁にぶつかって通路の端まで転がっていった。体中打ち傷だらけだ。

「コリンス、どこ?」

 必死でコリンスを探した。

「ここです」

 転がっているコリンスを見つけると、メレッサはコリンスにしがみついた。もう生きた心地がしない。

 激しい爆発音がして何かが引きちぎれるような音がした。油が燃える匂いがしてくる。それでも陽子砲の発射音が聞こえていた。メレッサはコリンスの夢中でしがみついていた。


 突然、静になった。陽子砲を発射する音も、シールドで爆発する音もしない。強い匂いの煙が漂ってくるだけだった。

「姫君」

 コリンスが小さな声で叱るように言う。メレッサはコリンスの首にしがみついたままだった。

「ああ」

 慌ててメレッサは手を離した。

 二人はよろよろと立ち上がった。コリンスがブリッジに入っていく。

 メレッサも入ると窓からは星が回っているのが見えた。宇宙船がコマのように回っているのだ。

「どうやら、敵はおとりを追って行ってしまったみたいです」

 よろよろしながら艦長がやってきた。

「姫君、作戦成功です。すぐに逃げます」

 艦長は操舵手になにやら怒鳴っている。

「コリンス、敵は?」

「うまくいったようです。この船は破壊したと思って行ってしまったみたいです」

 メレッサはほっとして足から力が抜けてしまった。よかった。これで逃げられる。


 宇宙船は大きく迂回してダダイヤに到着した。

 メレッサはあちこちに包帯を巻いた姿でダダイヤの星を見ていた。やっと助かったという実感が湧いてきた。

 おとりになった船は、メレッサが逃げる時間を稼ぐため、停船命令を無視して逃げつづけ結局全員戦死したと、後で知った。私のような者のためになぜそこまでしてくれるのか、戦えなくなったらそこで降伏すればよかったのに。何気なくおとりを命令したのが悔やまれた。おとりは敵を引きつけるのが任務だ。あの艦長はあの時、死ぬ覚悟だったのだ。



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