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独裁者の姫君  作者: 夢想花
22/35

22.逮捕投獄

 その日の午後、公式の行事は終わっていて昼からは暇だった。

 メレッサは粗末な服に着替えて総督府の中を一人で歩いていた。どうしてもミダカの人の声を直接聞いてみたかったのだ。総督府の中なら安全だろうと思っていた。

 総督府で仕事をしている人や総督府にやってきた人とすれ違う、誰かと話をしてみたいと思いながら歩いているうちに、ずいぶんと奥まった所へやって来た。中庭のような所で壁際に柱が10本ほど等間隔で並んで立っている。処刑場だとすぐわかった。

「おい、おまえ、ここで何してる」

 一人の兵士がメレッサを見かけ、不審な女と思ったのかこっちへやってくる。メレッサは彼に話を聞いてみようと思った。

「見かけん女だな、どこから来た」

 彼はメレッサの腕をつかんだ。

「ここは、何なんですか?」

 メレッサは聞いてみた。

 通常だったらこんな場所にくるのは危険なことだった、でも、身分を明かせば大丈夫だと思っていた。

 兵士はメレッサの腕をねじ上げた。

「いててっ、私、怪しい者じゃありません」

「こんな所にいて、怪しくないだと」

 兵士はメレッサを壁に押し付けた。

「私、メレッサです。皇帝の娘です」

 メレッサはあわてて身分を明かした。このままだと腕が折れてしまう。

「メレッサだと、ふざけるな。メレッサ姫はな、もっと高貴な顔をしていらっしゃるんだ。おまえみたいなブスじゃない」

 メレッサはメレッサだと信じてもらえなかったことよりブスだと言われた事がショックだった。

「私、本物のメレッサです。総督に聞いてもらえばわかります」

「見え透いた嘘を言うな。ここで何をしていた」

「うそじゃ、ありません。私、メレッサです」

 ねじ上げられた腕が折れそうに痛む。

「おい、どうした?」

 数人の兵隊がやってきた。

「こんな所でこそこそしてやがった」

「困ったな、今、軍曹はいないぞ」

「軍曹が戻るまで、牢に入れとけ」

 事情は分からなかったが牢に入れられるらしい。

「私、メレッサです。本物です」

 必死で訴えたが、

「こいつ、さっきから、これなんだ」

 腕をねじ上げたまま、どこかへ連れて行く。

「ひょっとして、本物だったりして」

「おい、悪い冗談はよせ、こんなブスのわけないだろう」

 さっきからブスブスと言われる。私ってそんなにブスなのか、母はあんなに美人なのに。

「ブスブスって、その娘そんなにブスか。結構高貴な顔してるぜ」

 兵士の一人が言った。メレッサはパッとその兵士の顔をみた。この人取り立ててやる将軍に昇格させてやる。

 牢屋に連れてこられ中に放り込まれ鍵がかけられた。

「私、メレッサです。総督に話してください」

 大声で言ったが、兵士はどこかへ行ってしまった。

 しかたなかった、ねじり上げられ痛む腕を元に戻していると。

「あんた、何したんだね」

 隣の牢から声がした。

「誤解なんです。何もしていません」

「そうか、それでも長引くかもしれん。覚悟していた方がいい」

 暗くてよく分からないが、隣の人は床に横になっているように見えた。

「あなたは、何をしたんですか?」

 彼はちょっと黙っていたが。

「爆弾を作っていたんだ」

 爆弾! そんなことをしたら死刑だ。

 たぶん彼は反政府の活動家なのだろう、ぜひ話がしてみたい。

「私、ルビルから来たんですが、ここの生活はそんなにひどいんですか?」

「ああ、ひどいな」

 彼はボソッと言う。

「領主への税金ですか?」

 密かに原因が税金であることを期待した、それなら解決できる。

「税金もあるが、役人への賄賂がひどい。総督なんか任期中に一財産作って帰っていく」

 ルビルでも役人の腐敗が問題になっていた。じゃあ、腐敗問題もあるのか。

「あんた、メレッサとか言っていたな、ルビルから来たメレッサなんて、まさか、あのメレッサじゃないだろうな」

 身分を明かすのは気が引けたが、騙してもしょうがない。

「あのメレッサです」

 彼は身を起こした。

「まさか、じゃあ、なんでこんな所に入ってるんだ」

「だから、誤解なんです」

 彼は鉄格子の所へ寄ってきた。こちらを覗いている。

「うそだろう、全然お姫様らしくない」

 信じてもらえない。メレッサは完全に自分の容姿に自信をなくしてしまった。こんなやさしそうな人にまでブスだと思われている。

「ブスなんだけど、本物です」

 メレッサは自嘲的に言った。

「ブスじゃないけど、本物じゃないね。本物ならそれらしい雰囲気を持っているよ」

「本物です」

 どうしてこうも信用されないんだろう。母みたいな高貴な雰囲気がないのだろうか。

「本物なら、俺の処刑を止めてくれないかな。明日銃殺されるんだ」

 彼は皮肉っぽく言った。

「わかりました。あなた、お名前は?」

「ハロルド」

 彼はまったく信用していないらしく、鉄格子から離れるとまた床に横になった。話はそこで途切れてしまった。

 3時間くらい待っていると、さっきに兵隊達が戻ってきた。

「軍曹、こいつです」

 軍曹と呼ばれた男はしゃがみ込んで牢の中を見る。

「私、メレッサです。総督に話して下さい」

「メレッサ姫? でもなぜそのような服装なんです?」

「お忍びで、皆さんと話がしてみたいと思って」

 軍曹は顎に手をやって考えている。

「メレッサ姫ですか?」

 兵隊が心配そうに軍曹に聞いく。

「俺だって会ったことがないからわからんよ。ただ、歓迎の宴に姫君が来ないって騒いでいたな……」

「まさか、本物ってことは……」

「まあ、総督の所へ連れて行ってみよう。そうすりゃわかる」

 兵隊が鍵を取り出すと牢の鍵を開け始めた。

「本物ってことはないですよね。俺… 腕をねじ上げだんだが……」

 兵隊の一人が蒼白な顔で軍曹に聞く。

「まずいな、本物なら、お前は銃殺だな」

 やっと鍵が開いてメレッサは牢から出た。

「心配しなくても大丈夫です、処罰などしません。ただ、少し痛かったけど」

 メレッサは腕を動かしてみた。関節が痛む、明日は腫れるかもしれない。

 ハロルドがビックリして鉄格子を両手でつかんでこっちを見ている。

「軍曹、ハロルドの処刑は中止して下さい。まだ、話を聞きたいことがあります」

 軍曹はあっけにとられている。まだ、本物かどうかわからないのに命令するからだ。

「それは、正式な命令書がないとなんとも……」

「あとで、命令書を書いておきます」

 メレッサは早足で歩き出した。歓迎の宴にもうずいぶんと遅れている。兵隊達もメレッサにおくれまいとついて来る。

 自分の部屋の所まで来ると、デニルと出会った。メレッサがいないのでみんなで探していたらしい。

「姫君、どちらへおられたのですか。それにそのお召し物は……」

「ちょっと冒険をしていたんです、すぐ着替えますから」

 それから兵隊達を見た。

「これでいい?」

「失礼しました」

 軍曹は直立して敬礼をする。兵隊達もあわてて敬礼をした。

 メレッサは自分の部屋に入ろうとしたが、ふと、思いついて、さっきブスじゃないと言った兵隊を見た。

「あなた、名前はなんというの?」

 彼はびっくりしている。

「ジム… ジム・タナートです」

「ジム・タナートさんね。総督、タナートさんに特別ボーナスを出しておいて下さい」

 デニルはポカンとしていたが、すぐに頭を下げた。

「承知しました」



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