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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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20.初陣

 ジョル兄さんの宮殿で、兄弟の上4人が集まって一緒に食事をした。兄弟は住む所が違うので、こうでもしないとなかなか兄弟と会う機会ができない。前回と違って父がいないので楽しい食事会になりそうだった。

 丸いテーブルに4人で座った。

 給仕がお酒かジュースを注いでくれる。メレッサはジュースをもらった。

 ジョルがグラスを持ち上げる、何かに乾杯するらしい。

 メレッサもみんなに合わせてグラスを持ち上げた。

「メレッサ。初陣、おめでとう」

 なんと、メレッサに乾杯してくれた。他の2人も祝福してくれる。

「初陣?」

 驚きだった。ルビルを占領した事を初陣と言っているらしい。メレッサは初陣なんて感覚はまったくなかった。

「いえ、わたし、初陣なんて……」

 初陣なんてテレビの時代劇でしか知らなかった。でも、皇帝は武将と同じようなものだから、その子供にとって、始めての戦争体験は初陣になるのかもしれない。

「始めての戦争はどうだった?」

 ジョルが聞く、初陣の自慢話でもしたらといった感じだ。

「いえ、戦争は全部セラブ提督とコルンスに任せていたんで、あたしは何もしていません」

 メレッサはあわてて否定した。これは初陣などと言えるものではない。

「僕だってそうさ、戦争なんて家臣に任さなきゃ出来るわけがない」

 ジョルはなんとかメレッサを引き立ててくれようとしてくれる。

「メレッサが俺より先に初陣かあ」

 フォランが悔しそうに言う、フォランは17歳で兄弟の中で3番目だ。

「フォランはまだ戦争に行ったことがないのよ」

 ルシールが少し嫌味っぽく教えてくれた。

「これは、初陣じゃないです。あたしは本当に何もしてないんだから」

 メレッサは懸命に初陣を否定した。フォランを追い越したと思われたくない。フォランと仲良くしたいのに。

「あんた、遠慮しすぎ。もっと自慢しなさいよ」

 ルシールがメレッサの背中を押す。

「いえ、あたし、戦争の間ずっとここにいたんです」

「戦争に行ってないの?」

 フォランがビックリしている。

「ええ、行ったのはルビルが降伏してからよ」

 メレッサがそう言うとフォランが急に体を乗り出した。

「それじゃ、初陣とは言えないじゃないか」

 フォランがひどい話しだと言わんばかりに言う。彼はメレッサに先を越されたのがよほど悔しいらしい。

「そうなの、だから初陣じゃないの」

 メレッサは初陣説を否定しようと躍起になっていた。

「でも、あんた、占領軍のトップだったんでしょ。全権限を持って戦争したのは兄弟であんたが始めてよ。全軍を指揮していたんだから、どこにいても初陣よ」

 ルシールはメレッサを応援してくれる。ルシールはメレッサが遠慮しすぎるのが気にいらないらしい。

「戦場にいなきゃ初陣じゃない」

 フォランは頑なになっている。

 このままではフォランとの間に亀裂ができてしまう。

「ねえ、初陣じゃないってことにしない。あたしは初陣のつもりはなかったの」

 兄弟の考え方はどこかメレッサとは違っていた。初陣なんて、そんなものに何の価値があるのかわからない。メレッサが妥協案を出すと。とりあえずその場は収まった。

 給仕が料理を運んできて、食事が始まった。

「メレッサは、なんと言うか、下女みたいな事をしていたの?」

 フォランが言いにくそうに聞く。

「下女じゃなくて、メイドね、まあ同じようなものだけど、ご主人さま一家の食事の準備したり片付けをしたり大変だった」

 フォランが言いにくそうにしているのが分からない、メレッサはメイドをしていた事を何とも思っていなかった。

「よくそんな事ができたね。何と言うか、そんな卑しいこと」

 メイドの仕事が卑しいなんてひどい偏見だ。確かにきつい仕事だが、りっぱな仕事じゃないか。

「メイドは卑しい仕事じゃありません。それに生きていくためには働かなければならないんです」

 そう言ったが、兄弟達は生きるために働くということが分からないだろうなと思った。

「ご主人さまの機嫌を損ねると、殺されることとかあるの?」

 フォランは執拗に尋ねる。単にそういう生活に興味があるだけなのか、それともメレッサに対抗意識があるのか。

「機嫌を損ねても、殺されることはないけど。結構、意地悪をされたわね」

「へえ、どんな事?」

 フォランは嬉しそうに聞く、どことなく嫌な感じだ。

「雑巾をぶつけられたり、水をかけられたりしたわ」

 セシルの顔が浮かんだ、ずいぶんとひどい事をされた。

「そんなひどい事されたの?」

 ルシールがびっくりしている。

「それで、ルビルが欲しかったんだ。意地悪した奴は殺した?」

 ルシールの考え方は極端だ。セシルを殺すためにルビルをもらったと思っている。

「いえ、殺したりしないわよ」

「なぜ!!」

 ルシールは理解できないといった顔をしている。

 なぜって言われても、仕返しに殺すのはひどすぎる。

 でも、今なら殺そうと思えば殺せる。警察も裁判も関係なしにセシルを捕まえてきて殺すことができる。セシルを殺したいという誘惑が湧き上がってきた。権力があると恐ろしい事を考えるようになる。メレッサはあわててその気持ちを抑えた。

「意地悪されただけで、殺すのはひどいと思うわ」

「絶対に殺さなきゃ。一番苦しい方法で殺すのよ」

 ルシールは憤慨している。

「ひどい子がいたけど、もういいの」

 メレッサはバカな事を考えそうになっている自分に言い聞かせた。皇帝の家族は完全に法律の外にいて何をやっても罰せられることはない。罰することが出来るのは父だけだが、人を殺したぐらいではあの父は気にもしないだろう。

「あんた、変わってるね、やさし過ぎるよ」

 ルシールは納得できないみたいだ。でも、世間の常識からすれば変わっているのはこの家族の方なのだが。

 給仕達がつぎつぎと料理を運んでくる。

 その日は夜遅くまで、兄弟達と楽しく過ごした。




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