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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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17.任命式

 今日は総督の任命式が執り行われる日だった。総督の任命によってルビルの支配者をルビル全体に宣言するのだ。今日の任命式に合わせて通信設備も復旧する。全土で任命式の様子を見ることができる。

 メレッサは控え室で台詞の練習をしていた。彼女が話す言葉が一言だけあるのだ。

 ミラバ艦長が控え室に入ってきた。

「いかがです?」

 メレッサはガチガチに緊張していた。

「ルビル全土に放映されるんでしょ、もう、頭が真っ白」

 艦長は笑っている。

「偉そうにふんぞり返って座っていればいいんですよ」

 艦長はポケットから書類を取り出した。

「姫君、フォラストさんの居所がわかりました」

 捜索を頼んでいたフォラストだ。

「よかった、無事なの?」

「はい、ご無事だそうです」

 ほっとした、戦争で死んだのではと心配していたのだ。

「どうします?」

 会いたかった。家族は無事だったのか、ぜひ、会って話がしてみたかった。

「ここへ連れてきて」

 任命式のことで頭がいっぱいで、彼が会うのをいやがるかもしれない、という事まで考えなかった。単に、ここへ来てもらって話をしようと思っただけだった。

 時間が来て、式場に向かった。

 広場には数万人の人が集まっていた。正面に舞台が作ってありその中央が高くなっていて、そこに豪華な椅子が置いてある。その椅子に座らなければならないのだ。もちろん舞台の前面は防弾ガラスで守られている。

「姫君、どうぞ」

 コリンスが合図する。

 舞台の袖から中央に向かって歩き始めた。宙を飛ぶカメラが彼女の回りを飛び回り撮影している。ひな壇を登り、中央の椅子に座った。緊張で回りの事がまったく何にもわからない。

 次々に人が舞台に上がってきて、彼女に何かを言っては頭を下げて帰っていく。彼らが誰で何を言っているのか全然聞いていなかった。

 やがて新総督が上がってきた。メレッサに頭を下げている。と、耳元のイヤフォンから「お言葉をお願いします」と、コリンスの声が聞こえた。

「そなたを、ルビルの総督に任命する」

 練習したとおり、できるだけ威厳を持って言った。これで彼女の仕事は終わりだ。

 ほっと一息つけ、やっと回りの様子を見ることができるようになった。舞台の前には椅子が並べられていて、ものすごい数の人がはるか遠くまで整然と並んで座っている。宙に浮くカメラが何台も彼女を撮影している。

 ルビル全土の人が彼女の姿を見ているのだ。友達やタラントさん一家も見ているだろう。どう思っているだろうか、支配者としての彼女を苦々しく見ているのかもしれない。

「姫君、退場をお願いします」

 不意に耳元から声がした。コリンスだ。立ち上がるとゆっくりと舞台の袖に向かって歩く。ずいぶんと遠く感じたが、何とか袖にたどり着いた。

「お疲れさまです」

 コリンスが笑っている。

「緊張したあ」

 メレッサは崩れ落ちるようにコリンスにつかまった。

「ご立派でした」

 コリンスはほめてくれる。

「もう、こんなこといや」

「いえ、姫君ですから、少し慣れていただかねばなりません」

 これがお姫様の仕事なのだ。まあ楽な仕事ではある。

「もう少し頑張ってください。ここを出るまで」

「了解です」

 コリンスと控え室に入った。メレッサは倒れるように椅子に座った。疲れで足ががくがくする。

 コリンスはメレッサの前に立っている。コリンスは今日は一日中立っていたはずだ。

「コリンス、座ったら」

「いえ、大丈夫です」

 コリンスは真面目なので、メレッサの前では決して座らない。疲れているから座ったらいいのに。

「コリンス、命令です。座んなさい」

「いえ、私は慣れていますから」

 椅子にずっと座っていた私がこんなにきついのに、もっと大変な仕事をしていたコリンスはもっと疲れているはずだ。それなのに休もうとしないコリンスに少し腹がたった。

「コリンス、私の命令が聞けないのですか」

 メレッサはきつい口調で言った。何が何でも座らせてやる。

 彼は戸惑っていたが、命令とあれば従うしかないと思っただろう、近くの椅子に浅く腰をおろした。

「あなたが座らないと、私もゆっくり休めないわ」

「すみません」

 彼は居心地が悪そうに座っている。メレッサはコリンスを見ていた。

 彼はすごく真面目で、仕事もできて、しかも整った顔をしている。

 彼は私のことをどう思っているのだろう。お姫様としか思っていないのだろうか。すこし、からかってみたくなった。

「コリンス、あなたって立派ね、惚れ惚れしちゃう」

 コリンスは驚いたようにメレッサをみた。

「そろそろ、提督の演説です。確認してきます」

 彼は、ほとんど休まずに部屋を出て行ってしまった。


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