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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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16.守備隊長

 ミラバ艦長がやってきた。メレッサが呼んだのだ。彼に昇格のことを早く伝えたかった。

 彼はうれしそうににこにこしている。もう知っているはずはないのだが。

「姫君、お喜びください。誤報だとわかりました」

「なにが?」

「レーザー砲のことです。地下には避難民だけでレーザー砲はありませんでした」

 そうか、そっちの問題もあったのだ。

「姫君のご英断でした。もし攻撃していたら避難民を殺すところでした」

 よかった。千人もの人を殺さなくてすんだ。

「本艦の戦闘体制は解除します。ただ、念のためこのままミルビスの陰に留まります」

 その方がいい、巨大宇宙戦艦の陰にいれば地上からの攻撃は届かない。

 艦長はおっとりした目でやさしくメレッサを見ていた。彼は、いつの間にか心を開いてしまうような魅力を持っている。

 昇格のことを聞いた時の艦長の喜ぶ顔が浮かんだ。

「ミラバ艦長」

 メレッサは改まった態度で言った。

「はい」

「あなたは、たくさんの船を指揮してみたいと言っていたわね」

「はい」

「20艘ほどの船の指揮をしてみない?」

「……」

「あなたに、ルビル守備隊長をやって欲しいの」

 艦長は驚いていたが、すぐに困惑の表情になった。

「なぜ、私に?」

 理由を質問されるとは思っていなかった。

「でも、艦隊の指揮をしてみたいと言っていたでしょう」

「ですが、私は出世コースから外れた万年艦長です。セラブ提督が認めないでしょう」

 セラブ提督の承認が必要だと言うのか。自分の権力は制度上だけのもので、実際にはこのようなことを決める力はないと。

「セラブよりあたしの方が上よ」

 かなり、むかついて言った。

「姫君、このような人事を好みで行なってはいけません。守備隊長には私よりもっと適任の艦長がいるはずです」

 艦長は子供を諭すように言う。

 メレッサは怒りがこみ上げてきた。始めて自分の意志で何かを決めようとしているのに、回りから反対される。そして一番喜んでくれるはずの人からも反対される。

「指揮をしてみたいって言ってたじゃない」

 メレッサは怒りをぶちまけた。

「姫君のお心は、ありがたいのですが」

 艦長は丁寧に断る。

 メレッサはどうしょうもない怒りと脱力感に襲われた。自分にはなんの力もない。権限だけでは人は動かないのだ。

 たぶん、ひどい顔をしている。艦長にこんな顔は見せられない。メレッサは艦長に背を向けると数歩離れた。

「姫君、私が受けないとお困りになるのですか?」

 困る、コリンスにどう言えばいい。ふと、さっきコリンスに言った理由を思いついた。

 振り返って艦長を見た。

「私は、このルビル攻撃軍を父からもらったでしょ。でも誰も親しい人がいない。だから私の気持ちが理解できる人に重要なポストにいて欲しいの」

 怖い目で艦長を睨みつけるように見つめた。

 艦長はうなづいている。

「そのような理由なら納得できます。わかりました、お受けします」

 やっと引き受けてくれた。思わず笑みがこぼれた。自分で何かを決めるって大変なことだとはじめて分かった。

「私のことを、そのように思っていてくださるなんて思っても見ませんでした」

 艦長は遠くを見つめるように、窓の外を見ている。

「私は20年前、ミネーラの王女をお守りすることができませんでした……。ミネーラがドラールに攻撃された時、私は王宮を守る守備隊にいたのです。王女のお顔は遠くから何度か拝見したことがあります、美しい方でした。でも……、お守りすることができませんでした」

 つらい思い出なのだろう、彼は悲しそうな顔をしている。

「しかし、今度こそ姫君をお守りします。私の命に代えてもお守りいたします」

 彼のミネーラの思い出が、なぜ今の決意につながるかよく分からなかったが。艦長にそう言ってもらえるとうれしかった。



 ルビルに来て2日たった。

 宇宙船はルビルに向けて降下を開始した。メレッサはブリッジの一番前に立っていた。ここからだとほぼ真下まで見えるのだ。

 前方を無数の宇宙戦艦が広範囲に広がって降りていく。もう先頭は見えないくらい先の方にいる。前方やや下を巨大宇宙戦艦ミルビスが降下している。

 眼下にはルビルの広大な大地が広がっていて、白い雲がいく筋も伸びていた。

 真下に巨大な黒い穴が見えてきた。

「陽子砲の跡です」

 いつ、メレッサの横にきたのかミラバ艦長が彼女の横にいて、説明してくれた。

「ご希望どおり、タラント家の上空に向かっています」

 メレッサはタラントさんの家がどうなったのか知りたかった。しかし、警備上の理由で行くことはできなかったが宇宙船で上空まで行ってくれることになっていた。

 宇宙船は徐々に高度を落としていく。雲の下まで下がってきて、地表がはっきり見える。家々が散らばっていて、道路が這うように走っている。

 ふと気がつくと、周囲の船も同じ方向に向かっている。メレッサのわがままのために艦隊全部がタラント家に向かっているのだ。

「他の船は直接、首都に向かって下さい」

 メレッサは艦長に言った。いくらなんでも、艦隊全部を引き連れて寄り道するのは気が引けた。

「いえ、本艦が旗艦ですので、艦隊が旗艦から離れるのは無理です」

 そうなのか、それでは仕方がない、ちょっと気が引けるが、艦隊全部を引き連れてタラントさんの家に行ってみるのもおもしろいかもしれない。艦隊は大小合わせて800隻くらいある。それが全部タラントさんの家の上に浮かぶのだ。セシルが見たら驚くだろうなと思うと愉快だった。

 どんどん低くなってきて、タラント家がある草原が見えてきた。やがて、個々の家が見分けられるようになってきて、その中の一軒にタラントさんの家があった。無傷のように見える。

 上空にものすごい数のドラール軍の宇宙戦艦が浮かんでいるので、人々がびっくりして家から飛び出してくるのが見えた。驚いて上を見上げている。

「高度を落としましょう」

 宇宙船はぐんぐん降りていく、下の家がつぶれるのではないかと思うほど低い所へ降りてきた。

 タラントさんの家は目の前にあった。タラントさんが庭に出てくるのが見えた。セシルもいる。

 手を振ってみたが、こちらには気がつかないみたいだった。

 メレッサは今は綺麗なドレスを着ているし、髪型も変わっている。メレッサと分からないのかもしれない。

「ありがとう、もういいわ。あんまり驚かすと悪いし」

「了解しました」

 宇宙船はぐぐっと高度を上げ始めた。周囲の宇宙船も一緒に高度を上げる。あっと言う間に雲より高くなってしまった。

 艦隊を引き連れての寄り道はちょっと気が引けた。艦隊の乗組員が何と思っているかを考えると恥ずかしくなる。まあ、いい、あたしが一番偉いんだから、誰からも怒られるわけじゃない。メレッサは気にしないことにした。



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