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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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13.側室


 母は時々夜中にいなくなることがあった。不思議に思っていたのだが、ある日、母が出かける所を見てしまった。

 綺麗なドレスを着て宝石をつけ侍女二人を連れて、すばやく飛行車に乗り込む所を偶然、階段の上から見てしまった。理由はすぐにわかった、父に呼ばれて父の所へ行くのだ。

 ショックだった。母はあれほど誇り高い人なのに、いやだろうなと思うとたまらなかった。それに、その事を私が知ったら気にすると思って、私には秘密にしているのだ。

 その夜は眠れなかった。母が今どんな気持ちなんだろうと思うと、母に申し訳ない気持ちでいっぱいになった。母は私がここでお姫様の暮らしができるように、自分は我慢しているのだ。

 次の日の朝、母はいつものように食堂に来た。いつものように二人で食卓に座って食事を始めた。

 何か言った方がいいのか、知らないふりをしていた方がいいのかわからなかった。

「どうしたの? 何かへんよ」

 母が聞く、困っている気持ちが顔に出ているみたいだ。

「いえ、別に、なんでもないよ」

 無理に笑顔を作った。

「絶対に変よ、何か隠しているでしょう」

 父を相手の時は、あんなにうまく演技できたのに、母を相手にすると全然気持ちを隠せない。

「何も隠してないよ」

「隠してるでしょ。言いなさい」

 母は隠し事をしていると厳しかった。隠すのは無理かもしれない。

「昨日、母さんが出掛ける所を見ちゃった。ごめんなさい」

 母は驚いている。気まずい空気が流れた。

「そうなの……」

 母は髪をかきあげて、どうしたものかと悩んでいる。

「ごめんね、秘密にしていて。でも、あなたが考えているほどの事じゃないから、気にしなくていいのよ」

「かあさんが辛い思いをしているのに、のうのうと暮らしていて、申し訳ないと思っています」

 メレッサは下を向いたまま言った。申し訳ない気持ちでいっぱいだった。

 母はさらに困ったように、髪をかきあげた。

「気にする必要はないのよ。秘密にしたのがまずかったわね。でも、何の用で行くのかを考えたら言える訳ないでしょ」

「つらくないの?」

「そりゃね。でも、条件をいろいろ突きつけたから。まあ、こんなもんかなってとこかな」

「条件?」

 条件を突きつけられるのなら、やっぱり、父が一番好きなのは母なのだ。

「どんな条件なの?」

「側室を近づけるな、とか、そんなの」

 ジョル兄さんが言っていた、母が寵愛獲得競争に参戦したら一波乱あると言っていたことを思い出した。露骨に参戦だ。

「父はそれを承諾したの?」

 母は首を振った。

「無理な話よ」

 母はにこやかにしているが、内心はこんな話はいやだろう。でも、せっかくの機会だ知りたいことがあった。

「なぜ、逃げたの?」

 逃げることが母にとっては、あまりに当然の事かもしれないが、でも何があったのか知りたかった。

 母は少し驚いている。非難されたように感じているみたいだ。

「若かったのかな。皇帝のおもちゃになんか絶対にならないと思っていたの」

 母は少し考えていたが、ゆっくりと話始めた。

「私を見張っている兵隊がいたんだけど、ある時、その人達がとんでもないミスをしたの。皇帝に見つかったら殺されるようなミスをね。私の所に泣きついてきたわ。宇宙船で逃げたいんだけど、飛行許可がないまま飛び立てばすぐに見つかって撃墜される。でも、私が申請すれば飛行許可が下りる。私はチャンスだと思ってあなたを連れて逃げることにしたの。宝石を全部積み込んだわ、兵隊達も含めて一生楽に暮らせるはずだった。ところが、ルビルで置き去りにされたの、本当に着の身着のままで、一文もくれなかった。後は、あなたも知っている生活がはじまったの」

「ひどい!!」

 メレッサは激怒した。とんでもない奴等だ。恩を仇で返すなんて。八つ裂きにしても飽き足らない。もし、彼らが裏切らなかったら、私はメイドなんかしなくて、もっといい暮らしができていたかもしれないのだ。

「そいつら、捕まったの?」

「いえ、捕まってないと思うわ」

 今の権力があればそいつらを探せる、絶対に捕まえてやる。

「探して、捕まえよう。鞭打ちで殺してやる」

「メレッサ、なんて事を言うの。そんな恐ろしいこと考えるもんじゃありません」

 メレッサは驚いた、お人好しにも限度がある。

「かあさんは、そいつらが憎くないの?」

 母は困ったようにメレッサを見た。母の正義感はメレッサの理解を越えていた。

「それは逆ね、恨まれていたの。私たちは強大な権力を持っているから、自分ではそれと気がつかなくても人を傷つけているのよ。兵士に恨まれていることに気がつかず、権力がなくなっても今まで通り仕えてくれると思っていた私がバカだったのよ」

 置き去りにされる時その理由を言われたのかもしれないが、でも納得できなかった。

「でも、裏切りは許せないわ」

「もし、あなたがセシルと逃げることになったらどうする?」

 セシル! 相手がセシルなら、宝石を奪って、どこかの星に置き去りにしてやる。でも、セシルはそれだけひどい事を私にしたのだ。

 母にはメレッサの心の中が見えるように話を続けた。

「ね、そうでしょう。恨まれていたのね。セシルのようになっちゃだめよ。あなた、かなり横柄に侍女を使っているわ。彼女達はみんなあなたより年上よ。もっと丁寧に接しなさい」

 母の言う事も分からないではないが。納得できなかった。幼かったとはいえ、私も置き去りにされたのだから、私にも仕返しをする権利がある。メレッサは彼らを絶対に探し出すつもりだった。

 母は話が終わったと思ってミルクを飲んでいる。しかし、あと一つ聞きたかった。

「父に何を要求したの?」

 こんな事を質問して母がいやがるかなとも思ったが、母はにやにやしている。

 母はミルクをおもむろにテーブルに置くと。

「私と正式に結婚すること、側室を退けること、あなたを跡継ぎに指名すること、よ」

 びっくりである。すごい要求だ。

「で、どうなった?」

「あっさり、拒否されたわ。『バカヤロウ』って」

 これは、納得である、この要求はいくら何でも無理だろう。

「ここで、生きていくには皇帝に気に入られるしかない、せいぜい着飾って頑張るわ」

 母はけっこう気楽に話す、しかし、今の言葉は自傷的に聞こえた。内心は苦しいのかもしれない。




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