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独裁者の姫君  作者: 夢想花
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11.母の宮殿

 メレッサが自分の部屋でテレビを見ていると、ミルシーが喜んで駆け込んできた。

「姫君さま。宮殿に移れることになりました」

「宮殿に!」

 メレッサは思わず立ち上がった。とうとう、宮殿に住むことができる。ジョル兄さんの宮殿のような所に住めるのだ。

 しかし、こんなにも短期間でこんなにも贅沢になってしまった自分が恐ろしくもあった。タラントさんの家でメイドをしていたのはわずか一週間前のことだ。狭い部屋に母と二人で住んでいたのに、でも何の不満もなかった。それが、この御殿のような屋敷にさえ不満を感じてしまうなんて、どこか間違っている。

 侍女や下女達も喜んでいる。ここでは狭くで彼女達の部屋が充分にないのだ。宮殿に移れば一人一部屋になる。

 母がやってきた。

「どこに、引っ越すの?」

「紫の宮殿です」

 ミルシーが言った。

「ああ……」

 母は心当たりがあるみたいだった。でも、もう、母がここの事に詳しくても驚かないことにしていた。ここにいたんだから詳しいのは当たり前だ。


 慌しく引越しの準備が始まった。侍女や下女が準備をしてくれる。メレッサと母は紫の宮殿を見に行くことにした。

 飛行車から見えてきた宮殿はそれは素晴らしいものだった。綺麗な湖のほとりに小高い丘があってその上に宮殿が建っている。宮殿の前は広大な庭園で後ろは湖になっている。宮殿の白い色が森の緑に映えていて、うっとりしてしまう。ジョル兄さんの宮殿よりもはるかに素晴らしい。

「ここは、皇帝がルニーさまのために建てられた宮殿ですね」

 ミルシーがうれしそうに言う。

「お母さんのために!」

 メレッサは思わず母をみた。

 母はてれくさそうにしている。

「あなたは、2歳までここにいたのよ」

 メレッサは驚きを通り越してなんと反応していいかわからなかった。ここに私が住んでいたなんて。このすごい宮殿に住んでいたことがあるなんて、何を信じていいかわかない気持ちだった。

「ここを、皇帝からもらったの?」

 母は、さらに照れくさそうに話す。

 ありえない。母は皇帝からこんなすごい宮殿をプレゼントされていたのだ。皇帝から品物扱いされていたみたいな事を言っていたのに。

「ここは、ルニーさまが、失踪されてもずっと空けてあったのですが、3年前から皇帝の弟君が住むようになったのです。弟君はルニーさまが来ると聞いてすぐに退去の準備をされていたそうです」

 ミルシーが説明する。つまり、ここは母のための宮殿なのだ。なんで、こんなすごい宮殿を捨てて逃げ出したのか分からない、こんな所に住めるなら側室だろうと愛人だろうとかまわないような気がした。

「なぜ、ここをもらったか。知りたいでしょう?」

 母の考えはよくわからない、もらうのは当たり前で、なぜ捨てたかが知りたいのだが。

「私がバカだったの、皇帝からは何一つもらわないつもりだったんだけど、ここを見たら欲しくなったの」

 母は恥ずかしそうな顔でメレッサを見ている。

「私をバカにしたかったら、バカにしていいよ」

 母は自傷的にそう言った。母は信じられないほど誇り高い人なんだ。それに母が私も当然そう考えるだろうと思っていることに戸惑いを感じた。私だったらここをもらうのは当然で、もっといい物をよこせと要求する。


 飛行車を降りて宮殿の中に入った。細かい彫刻があって素晴らしい廊下が続く。

 母が近くにあった部屋に入った。

「ここに住んでいたのよ」

 そこは高い窓がある素晴らしい部屋だった。窓からの景色はすばらしい、窓の下が森になっていてその向こうに湖が見渡せる。

 ふと、幼い頃の記憶が蘇ってきた。この景色に見覚えがある、母に抱かれて見た景色だ。どこだろうと思っていたのだが、ここだったのか。

 母は宮殿の中を回って、絵画や彫刻を説明してくれた。これは母の好みで集めたらしい、母がこれらの芸術を理解できるのが驚きだった。メレッサにはまったく良さがわからない。

「これはセランよ、すばらしいでしょう」

 母は大きな絵の前でうっとりしている。メレッサには子供が描いた絵にしか見えなかった。

 母は物腰が優雅で宮殿の作法にも精通している。品があって、ドレスを上手に着こなす。いきなりお姫様になった私とはまったく違った。



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