ジャンルって何?と魔法少女が考えた結果、殴り合いになった話
「ねぇ!異世界ファンタジーと現代ファンタジーってどう違うの?」
放課後の屋上。
唐突にそんなことを言い出したのは、相棒――いや、腐れ縁の魔法少女だった。
「急にどうしたのよ」
「いや、なんかさ。書こうかなって思って」
「は?」
「自叙伝」
「やめなさい」
即答だった。
「えー、なんでよ」
「需要がない」
「あるかもしれないじゃん!」
「ない」
断言した。
「でさでさ、それで思ったの。ジャンルどうしようかなって」
「そこからなのね……」
私はため息をつく。
「異世界ファンタジーか、現代ファンタジーか」
「……で、その違い分かってるの?」
「なんかこう……」
指でくるくると空中に円を描きながら、
「異世界ファンタジーは異世界でしょ?」
「そのまんまじゃない」
「現代ファンタジーは現代!」
「そのまんまね」
「じゃあさ、私たちどっち?」
ピタッと指が止まる。
……確かに。
「……現代、ではあるわね」
「でも魔法あるよ?」
「あるわね」
「敵もいるよ?」
「いるわね」
「でも異世界行ってないよ?」
「行ってないわね」
「じゃあ現代ファンタジー?」
「たぶん」
「たぶんって何!?」
「だって微妙でしょ!」
私も声を荒げる。
「ダンジョンもないし、配信もしてないし、組織もないし」
「あー、確かに」
「ただ変な生き物に勧誘されて、勝手に戦わされてるだけ」
「それ言うと急に治安悪いな」
「現実よ」
「えー、じゃあ異世界ファンタジーにしようかな」
「なんでよ」
「なんかカッコいいじゃん」
「雑すぎる」
私は頭を抱えた。
「ていうかさ」
相手は続ける。
「魔法って何?」
「は?」
「魔法と魔術と科学って違うじゃん?」
「急に哲学始めるのやめて」
「いや大事でしょ!ジャンル決めるんだから!」
「そこまで考えるなら最初から書くな」
「ひどい!」
でも、少し考える。
「……魔法はイメージで現象起こすやつ」
「おお」
「魔術は理論組み立てて再現するやつ」
「おおお」
「科学はその積み重ね」
「おおおお!」
「満足?」
「つまり?」
「何よ」
「私たち魔法少女だから魔法だね!」
「結論雑すぎない!?」
「だってイメージでやってるじゃん」
「それはそうだけど……」
確かに、考えて使っているわけではない。
なんとなく「こうなれ」と思えばそうなる。
「ほら、あのアニメの二人組」
「ああ」
「考えるな!想像しろ!のやつ」
「はいはい」
「で、頭いい方は飛べなくて」
「はい」
「アホの方は飛べる」
「言い方」
「つまりそういうことだよ!」
「つまり私はアホだと?」
「うん」
拳骨。
「痛っ!?」
「言い方って言ったでしょ」
涙目で頭を押さえている。
「でもさ」
まだ続ける。
「魔法少女ってさ、考えすぎるとダメだよね」
「……まあ、それはそう」
少しだけ、真面目に答える。
「迷うと負けるし」
「でしょ?」
「でも」
私は視線を向ける。
「何も考えないのも危険よ」
「えー?」
「契約内容確認しなかったらどうなると思う?」
「……あ」
「そういうこと」
少しだけ静かになる。
風が吹く。
フェンスがカタカタと鳴る。
「……でさ」
「まだあるの?」
「ジャンルどうする?」
「まだ言ってるの?」
「大事だよ!これ!」
「……現代ファンタジーでいいんじゃない」
「えー」
「何よその不満そうな顔」
「なんか普通」
「普通でいいのよ」
「異世界の方がカッコいいのに」
「行ってないでしょ」
「じゃあ行く?」
「行かない」
「えー」
またごねる。
本当に面倒くさい。
「……じゃあもう」
私は投げやりに言った。
「どっちでもいいでしょ」
「え?」
「異世界でも現代でも、やってること同じじゃない」
「……まあ」
「戦って、勝って、終わらない」
「……あー」
「ジャンルより中身でしょ」
「……なんかそれっぽいこと言うね」
「それっぽいじゃなくて事実よ」
沈黙。
数秒。
そして。
「……でもさ」
「まだあるの?」
「やっぱり気になる」
「もういいって」
「だってさ」
ニヤッと笑う。
「ジャンル決まらないと売れないかもしれないじゃん」
「その前に書きなさい」
「書いてるよ!」
「どれくらい?」
「これだけ」
差し出されたノート。
見る。
……。
「絵日記?」
「分かりやすいでしょ!」
「小学生か」
しかも。
「……これ、私?」
「そうだよ!」
「全然似てない」
「え?」
「もっと可愛いでしょ」
「こんなもんでしょ」
拳骨。
「痛いって!」
「描き直しなさい」
「えー」
「あと文章も」
「えー」
「全部やり直し」
「ええええ!?」
その時だった。
空気が変わる。
「……来たわね」
「え?」
振り向く。
そこに。
黒い影。
歪んだ存在。
「タイミング最悪なんだけど!?」
「関係ないでしょ」
「今ジャンル決めてたのに!」
「戦闘中にやるな」
私は一歩前に出る。
「ほら、行くわよ」
「えー、まだ話の途中――」
「来るわよ」
影が動く。
空気が震える。
「……はぁ」
観念したように、相手も前に出る。
「じゃあさ」
「何」
「これ終わったら決着つけようね」
「……何の?」
「ジャンル」
「まだ言うの?」
「大事だから!」
「……いいわよ」
ため息をつきながら、構える。
「でも先に」
「うん」
「こいつを片付ける」
「了解!」
光が弾ける。
変身。
風が巻き起こる。
「魔法少女、参上!」
「うるさい」
「ノリ悪いなぁ!」
「集中しなさい!」
敵が迫る。
地面が砕ける。
「いくよ!」
「ええ!」
二人同時に駆け出す。
そして――
「で、結局どっちにするの!?」
「戦ええええ!!」




