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ジャンルって何?と魔法少女が考えた結果、殴り合いになった話

作者: 兎山紬
掲載日:2026/04/06

「ねぇ!異世界ファンタジーと現代ファンタジーってどう違うの?」


 放課後の屋上。

 唐突にそんなことを言い出したのは、相棒――いや、腐れ縁の魔法少女だった。


「急にどうしたのよ」


「いや、なんかさ。書こうかなって思って」


「は?」


「自叙伝」


「やめなさい」


 即答だった。


「えー、なんでよ」


「需要がない」


「あるかもしれないじゃん!」


「ない」


 断言した。


「でさでさ、それで思ったの。ジャンルどうしようかなって」


「そこからなのね……」


 私はため息をつく。


「異世界ファンタジーか、現代ファンタジーか」


「……で、その違い分かってるの?」


「なんかこう……」


 指でくるくると空中に円を描きながら、


「異世界ファンタジーは異世界でしょ?」


「そのまんまじゃない」


「現代ファンタジーは現代!」


「そのまんまね」


「じゃあさ、私たちどっち?」


 ピタッと指が止まる。


 ……確かに。


「……現代、ではあるわね」


「でも魔法あるよ?」


「あるわね」


「敵もいるよ?」


「いるわね」


「でも異世界行ってないよ?」


「行ってないわね」


「じゃあ現代ファンタジー?」


「たぶん」


「たぶんって何!?」


「だって微妙でしょ!」


 私も声を荒げる。


「ダンジョンもないし、配信もしてないし、組織もないし」


「あー、確かに」


「ただ変な生き物に勧誘されて、勝手に戦わされてるだけ」


「それ言うと急に治安悪いな」


「現実よ」


「えー、じゃあ異世界ファンタジーにしようかな」


「なんでよ」


「なんかカッコいいじゃん」


「雑すぎる」


 私は頭を抱えた。


「ていうかさ」


 相手は続ける。


「魔法って何?」


「は?」


「魔法と魔術と科学って違うじゃん?」


「急に哲学始めるのやめて」


「いや大事でしょ!ジャンル決めるんだから!」


「そこまで考えるなら最初から書くな」


「ひどい!」


 でも、少し考える。


「……魔法はイメージで現象起こすやつ」


「おお」


「魔術は理論組み立てて再現するやつ」


「おおお」


「科学はその積み重ね」


「おおおお!」


「満足?」


「つまり?」


「何よ」


「私たち魔法少女だから魔法だね!」


「結論雑すぎない!?」


「だってイメージでやってるじゃん」


「それはそうだけど……」


 確かに、考えて使っているわけではない。

 なんとなく「こうなれ」と思えばそうなる。


「ほら、あのアニメの二人組」


「ああ」


「考えるな!想像しろ!のやつ」


「はいはい」


「で、頭いい方は飛べなくて」


「はい」


「アホの方は飛べる」


「言い方」


「つまりそういうことだよ!」


「つまり私はアホだと?」


「うん」


 拳骨。


「痛っ!?」


「言い方って言ったでしょ」


 涙目で頭を押さえている。


「でもさ」


 まだ続ける。


「魔法少女ってさ、考えすぎるとダメだよね」


「……まあ、それはそう」


 少しだけ、真面目に答える。


「迷うと負けるし」


「でしょ?」


「でも」


 私は視線を向ける。


「何も考えないのも危険よ」


「えー?」


「契約内容確認しなかったらどうなると思う?」


「……あ」


「そういうこと」


 少しだけ静かになる。


 風が吹く。


 フェンスがカタカタと鳴る。


「……でさ」


「まだあるの?」


「ジャンルどうする?」


「まだ言ってるの?」


「大事だよ!これ!」


「……現代ファンタジーでいいんじゃない」


「えー」


「何よその不満そうな顔」


「なんか普通」


「普通でいいのよ」


「異世界の方がカッコいいのに」


「行ってないでしょ」


「じゃあ行く?」


「行かない」


「えー」


 またごねる。


 本当に面倒くさい。


「……じゃあもう」


 私は投げやりに言った。


「どっちでもいいでしょ」


「え?」


「異世界でも現代でも、やってること同じじゃない」


「……まあ」


「戦って、勝って、終わらない」


「……あー」


「ジャンルより中身でしょ」


「……なんかそれっぽいこと言うね」


「それっぽいじゃなくて事実よ」


 沈黙。


 数秒。


 そして。


「……でもさ」


「まだあるの?」


「やっぱり気になる」


「もういいって」


「だってさ」


 ニヤッと笑う。


「ジャンル決まらないと売れないかもしれないじゃん」


「その前に書きなさい」


「書いてるよ!」


「どれくらい?」


「これだけ」


 差し出されたノート。


 見る。


 ……。


「絵日記?」


「分かりやすいでしょ!」


「小学生か」


 しかも。


「……これ、私?」


「そうだよ!」


「全然似てない」


「え?」


「もっと可愛いでしょ」


「こんなもんでしょ」


 拳骨。


「痛いって!」


「描き直しなさい」


「えー」


「あと文章も」


「えー」


「全部やり直し」


「ええええ!?」


 その時だった。


 空気が変わる。


「……来たわね」


「え?」


 振り向く。


 そこに。


 黒い影。


 歪んだ存在。


「タイミング最悪なんだけど!?」


「関係ないでしょ」


「今ジャンル決めてたのに!」


「戦闘中にやるな」


 私は一歩前に出る。


「ほら、行くわよ」


「えー、まだ話の途中――」


「来るわよ」


 影が動く。


 空気が震える。


「……はぁ」


 観念したように、相手も前に出る。


「じゃあさ」


「何」


「これ終わったら決着つけようね」


「……何の?」


「ジャンル」


「まだ言うの?」


「大事だから!」


「……いいわよ」


 ため息をつきながら、構える。


「でも先に」


「うん」


「こいつを片付ける」


「了解!」


 光が弾ける。


 変身。


 風が巻き起こる。


「魔法少女、参上!」


「うるさい」


「ノリ悪いなぁ!」


「集中しなさい!」


 敵が迫る。


 地面が砕ける。


「いくよ!」


「ええ!」


 二人同時に駆け出す。


 そして――


「で、結局どっちにするの!?」


「戦ええええ!!」

 

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