第2話 ナガト
漆黒の闇に飲み込まれたアキトは気を失っていた。
アキトの身体は漆黒の空間をただ彷徨っていた。
どれほどの時が流れたのかも定かではない。
時が流れた?
いや、違う。
時が正しい方向へ流れたのではない————
そして————
漆黒の空間が色を取り戻しはじめた。
◆ ◆ ◆
「ん…」
アキトの意識がゆっくりと覚醒していく。
背中が冷たい。湿った空気から潮の匂いを感じる。
床を手で触った。この固い感触は鉄板だ。
アキトは目をゆっくりと開いた。
そして、立ち上がりまわりを眺めた。
周りには見慣れない古ぼけた計器類がたくさん並んでいた。
鉄枠の窓からはエメラルドグリーンの海原が見えた。
「ここは…どこ?」
アキトは窓から下を眺めた。
そこには、大きな砲塔がふたつ見えた。
あり得ない光景が目の前に広がっていた。
「なんで、どうして?」
アキトの顔から血の気が引いた。
「おかあさんは?」
「おかあさん、おかあさん、おかあさん————」
アキトは涙ぐみ大粒の涙を流して泣き始めた。
カツ、カツ、カツ
その時、足音が聞こえた。
足音は次第に大きくなってきた。
◆ ◆ ◆
「ぅぅぅ、おがぁさん————」
アキトは鉄板に崩れ落ち泣いていた。
足音が止まった。そして、後ろから声が聞こえた。
「きみは誰だい?」
アキトは声に気付き振り返った。
そこには、白い軍服を着た長い黒髪の女性が立っていた。
大和撫子という言葉は彼女のために存在すると言っても決して過言ではない。
アキトは両手で涙を拭い震える声で答えた。
「アキト」
「アキトというのか。私はナガト、日いづる国の戦女神だ」
ナガトはしゃがみ、アキトと目線を合わせた。
「まず、アキトに聞きたい。きみはいつどこから来たのか?」
アキトは藁にでもすがる思いで事情を説明した————
アキトの事情を聞きナガトは驚いた。
ナガトは懐中時計を取り出し時を確認した。
「今は昭和21年————」
「西暦で1946年7月1日0833」
「現在地は南太平洋ビキニ環礁付近」
「日時に間違いはない。ゆえにアキトは未来から来たということになる」
「にわかには信じられぬが、無人の艦内に突如現れたことを考えるならば否定はできない」
「だが、なぜこのようなところにアキトが来たのか…」
「そして、この艦と私は、あと少しで天に帰るところなんだ」
「天に帰るってどういうこと?」
アキトは意味が分からず、ナガトに聞き返した。
ナガトは少し考え言葉を選んだ。
「人の言葉でいうなら死ぬということだ」
「僕、死ぬの?」
ナガトはその問に頷いた。
「残念だがそういうことになる」
「僕、死にたくないよぉ」
アキトは再び目に涙を浮かべた。
ナガトはアキトを優しく抱擁して告げた。
「私にはアキトを未来へ送り帰す力はない。すまない」
「私にできることはアキトをその時まで抱擁してやることしかできない」
ナガトはアキトを強く抱きしめた。
◆ ◆ ◆
数分経過————
ッーーーッ、ブワンッ
空間が歪む————
なにかがアキトとナガトの前に顕現化しようとしていた。
「誰だ!」
ナガトは声を上げた。
目のまえに光の形をした人型の何かが現れた。
「私は時の調律者です」
時の調律者は無機質な声で答えた。
「私のミスでタイムシャドウを取り逃がしアキトさんにご迷惑をおかけしました。深くお詫び申し上げます」
時の調律者はアキトに頭を下げた。
「今は説明している時間がありません」
「私は今からこの艦を転移させます」
「Відтепер розпочинаю ритуал просторово-часового переміщення————」
時の調律者は、円環の杖を天に掲げ、言葉を発し続けた。
「Координати небесної сфери визначено — Телесія. Активація переміщення!」
午前9時————
上空で何かが炸裂した。
青い空が白色と染まりつつあるそのとき戦艦長門は消えた。
長門が消えたあと、エメラルド色の海は地獄と化した。
続く
戦艦長門の状態や最後については史実とは異なります。
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