第1話 タイムシャドウ
「アキト、母さん買ってくるわ!待ってて!!」
これが、秋山ナツミの最後の言葉だった。
4月4日————
少年が一人、夜の公園でブランコに座り泣いていた。
「僕が合格しなければ…」
「僕がゲーム機をおねだりしなければ…母さんは————」
少年は独り後悔の言葉を吐き続けた。
少年の名は秋山アキト。
名門中学入試に合格したその日、アキトは母に甘えゲーム機をおねだりした。
母はその願いを叶えるため夜の町へ出て行き、そして————帰り道、トラックに轢かれた。即死だった。
キーーーコ、キーーーコ、キィィィ————
ブランコの音が止まり、静寂が広がった。
一本の外灯がチカチカと小さな公園を照らしていた。
そのとき————
生暖かい風がアキトを撫でた。
アキトの前に漆黒の影のような不思議な物がどこからともなく現れた。
漆黒の影はゆっくりとアキトに近づいた。
足音は聞こえない。
「だれ?」
アキトは赤くはれた目で漆黒の影を見つめた。
「…」
そして————
漆黒の影はアキトの近くで止まり、言葉を発した。
「怖がらなくてもいいヨ、私はタイムシャドウ。時を戻す力をもっているヨ」
「ぼうや、時を戻せば母さんを助けられるヨ」
タイムシャドウはユラユラと揺れてアキトの言葉を待っていた。
◆ ◆ ◆
「本当に?」
「本当だヨ。ぼうやを合格発表の日まで戻してあげるヨ」
泣いていたアキトの瞳に少し生気が満ちる。
「戻ったら、母さんを助けられる?」
「できるヨ。ぼうやがゲーム機をおねだりしなければいけるヨ」
「じゃあ、タイムシャドウさん、お願い!」
「わかったヨ」
タイムシャドウは大きく揺れた。
「どうすればいいの?」
「ぼうや、簡単だヨ」
「こう見えても私は神様だヨ」
タイムシャドウの影が少し大きくなった。
「私に心から祈りを捧げて、それからネ————」
「過去に戻りたいと強く念じるんだヨ」
「わかった」
アキトは小さく頷いた。
「ぼうやは物分かりがいい、よいこだヨ」
アキトは目を閉じ、タイムシャドウに"過去に戻りたい"と強く願った。
タイムシャドウの口のような物が不気味に開いた。
次の瞬間、アキトは漆黒の闇に飲み込まれた。
キーーーイ、キーーーイ
ブランコはただ揺れていた。
続く
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