ある女
その女はいつの間にかそこにいた
まるで大勢の人間のうちの
ただのひとりであるかのような顔をして
確かにそうやってみればまるで人間だ
だが心の目で見れば異質である
小うるさいマウント勢も
絡みつく承認欲求勢も
なんと親しく感じるものか
その女ただひとりが外れている
話したことはないので声は知らない
ただ話しかけても応答は的を得ないだろう
すでにあらかた仕上がっている
調和の世界に投げ入れられた下界の異物
手と足があり顔もある
髪は鬘のように一本一本が競い合い
おかしな具合ではあっても
最近見かけない幅のストライプの
白っぽい長袖Tシャツ
中学生の頃に履いた記憶がある
黒いジャージのズボン
血が通っているようには見えない
青白く骨ばった身のない手足
確かに見た目も何か不自然だが
ほかの人なら人間の誤差の範囲に見える
そんな気がする
だが実際には誰も話しかけない
誰とも話していない
ただ足音のばたばたや
荷物の散らかし
すべての動作における
洗練の対極にあるがさつさが
愛されていない小さな子どもを思わせる
凡そどう見ても見逃しようもないが
事実見逃し続けていた
何者なのか皆目見当もつかない
非常識な人にも見える
暗い人にも見える
だがあれはそんなものではない
身なりに気を使ってないとか
不潔だとか気持ち悪いとかでもない
あの人と同類とは思われたくない
いっぱいいっぱいでありながら
それ故か投げやりでもあり
しかし逸脱はしていない、
ように見える
その実人間にある普遍的な
サイコパスやソシオパスにさえある
普遍的な何かが
この女には欠けている
それがただの愛なのか
別のものなのか
このような存在は人間界にいるはずはなく
認識されることもないため
人間は目の前の別の人間を疑い始める
見慣れた家族や友人や知人が
まるで違うように見えてくる
あの女が何をしたのか
あの女が何かしたのか
まだ手がかりはない
しかしあの骨と皮だけに見える手には
見覚えがある




