第九話 芝公園から埠頭へ
近年、日本へ来る観光客も増えたが彼等はあまり避難誘導に従わず、スマホで孔を撮影していた。
事故が起きない事を祈るばかりである。
失敗した渋谷孔だけでなく他の孔も東京を蹂躙し続けているのだ。
幸い、豊洲孔、臨海副都心孔の地域は島状になっている為、避難は完了している。
今回の失敗は東京孔危機管理本部の者達にとってはショッキングだった。
誰もが沈黙する中、大泉は
大泉「東京孔もんどり作戦は失敗した」
と大声で発言した。
ざわざわ。
状況映像を見ていた誰もが口にしたくない事実だった。
現場作業員が重機と共に孔に飲まれる映像もみんな見ている。
総理もこの映像を見ているだろう。
大泉は気持ちを切り替えるためにもわざと口にしたのだ。
変人と言われる大泉らしい行動だった。
◇◇◇◇◇
千尋は臨海副都心の孔の動きがおかしくなっていることに気がついた。
一通り小さなものは落とされたが、明らかに地面ではなくコンクリートの埠頭の上も動いている。
人工物の橋も孔が小さければ渡った可能性もあるのかと考えられた。
ならば逆に人工物で、、、。
片瀬「大泉大臣。これは人工物でも地面だと判断されてそこへ動く可能性があると思います」
大泉「と言うと?」
片瀬「大型の船舶の甲板に地面となる舞台を設置して誘い込み、海へ出港させれば対処出来るかもしれません」
大泉「室井博士! それは可能ですか?」
室井「理論的には可能でしょう。しかし時間制限の中、大型舞台設置が間に合うかどうか。段差を作らずに滑らかに誘導出来るかどうか? 恐らく芝公園で向きを正確に変えられれば埠頭へ誘導出来ますし、品川の孔も芝公園方向へ向かっているので、案外これは最良の手かもしれません」
大泉「誰か大型舞台設置を簡易に出来る業者をご存じの方はいないか?」
室井「甲板が平らなら両側に少し足せば大丈夫でしょ」
大泉「判った。総理に許可を貰ってくる。都庁と自衛隊は今の話に協力を頼む!」
大泉防衛大臣は東京孔もんどり作戦の失敗報告と新しい作戦の許可を総理へ具申に向かった。
片瀬「教授。問題は反射角ですね」
荒木「都合良く、豊洲と臨海副都心のものは島で何度も反射している。面白い事にこれは入射角とかなり正確に関係性があるようだね。室井博士はどう思われますか?」
室井「はい。そうだと思います。しかし埠頭付近で船舶まで調整が可能なようにしておいた方が良いでしょう」
片瀬「だとすると、やはり生物でなく単なるAIなのかも知れませんね」
これは誰かの差し向けた兵器ではないか? と千尋は考えているのだ。
人知が及ばないので宇宙人かも知れないと漠然と考えていた。
仮に生物だとすればかなり几帳面か単純な性格だろう。
◇◇◇◇◇
大泉は総理に許可を貰ったが、二度と人命を犠牲にした作戦は許可出来ないと釘を刺された。
大泉「もう無茶は無しだ。向きをコントロールする事は可能か?」
都庁関係者「向きを変えられるなら被害を減らす方向に孔の向きを変えて欲しいのですが」
大泉「マキャベリズムは判るが、この場合孔の対処が優先だ」
被害額は膨らんでいるが対処出来なければ天井知らずになるだろう。
今は対処を優先するしかない。
片瀬「一応、方向転換にはルールが存在するようです。芝公園の芝丸山古墳の先で向きを変え埠頭の船着場へ誘導可能で、室井博士のご意見ではそこでも工作班を待機させれば確実に出来るだろうと言うお話です」
大泉「判った。では孔に船旅に出て貰おうか。気落ちしている赤坂の施設課や現場作業員達に至急動いて貰おう。大型船工作も同時進行だ!」
建材、大道具など資材を集め合同対策が始まった。
千尋の息子から電話が入った。
『ママ、まだ来れないの?』
『もう少しだからいい子にして待っててね』
簡単に電話を切るが、まだ孔一つ対処も出来ておらず、正直いつになるのかまるで判らない。
既に都内の電話は混乱しており設備が破壊され通話不能の地域もある。繋がった事は奇跡に近い話だったのだと後で気付く事になる。
大きさと位置を計算して少し余裕のある舞台が用意される。
接岸させなだらかな斜面で孔を誘い込むのだ。
芝公園では反射角を決め掘削が始まった。
田岡を失った現場監督は自ら、逃げた作業員に残された重機を運転した。
あの場で逃げ出した作業員Aを責める事はしたくない。こんな状況なら誰でも逃げたくなるのは判る。
田岡を無理やりにでも止めるべきだったと現場監督は後悔した。
担当者へと、防衛大臣から直接電話が入り、人命を大切にせよ と総理から釘を刺されたと言われ、田岡のお悔やみを言われた。
くそっ! 弔い合戦だ。
俺達は孔なんかに負けねーぞ。
◇◇◇◇◇
片瀬「荒木教授、室井博士。豊洲と臨海副都心の孔の大きさは他に比べて小さくないですか?」
室井「そうですね。しかし双方共に島の中にはもう蹂躙出来る場所がなくて残るのはあの大きな施設だけだからこのままだと孔が広がらなければ大きな施設はこれ以上は孔に落ちないのかもしれませんね」
荒木「孔は何かを落とす事によって成長しているのかな?」
片瀬「仮にそうだとしたらもうこれ以上は成長しない事になりますが、この後どうなりますかね?」
室井「まだ動いてはいるようですが、、、」
片瀬「豊洲の方はガス科学館付近で少し細くなってますが動ける面積はほぼ同じですね」
オペレーター「豊洲孔と臨海副都心孔の色が変化しています!」
映像を確認すると漆黒からややグレイに変化し、その後光を放ったかと思うと蒸発するように消滅した。
オペレーター「き、消えました!」
大泉「消えた!? どう言う事だ?」
室井「恐らく、孔に落とせるものがなくなり、消滅したのかと考えられます」
片瀬「やはり船上に閉じ込める作戦は有効ですね。何も孔に落ちなければ蒸発する様に消えると思います」
室井「恐らくその通りだろうね。船舶上で海上待機すれば時間経過で消滅するだろう」
大泉「被害は膨大だがこれで二つは無くなった訳か。よしこの作戦で渋谷孔と品川孔を対処するぞ」




