王命ってご存じ?
長編と長編の間の短編です!
定番はやっぱり書いてみたい!
今度のヒロインは、普通に強いです。はい。
「シルフィア・ウーレンベック公爵令嬢!貴様との婚約は破棄する!」
陛下の生誕祭の陛下の入場前にこんな阿呆な発言をするのは、このキュウトゥラング国王の43年目の生誕を迎える現国王陛下の正当な第三子にして第二王子のヨリック・アンドリース・キュウトゥラングその人である。
「畏まりました。承ります。
クラーセン公爵家。シルフィア・ウーレンベックがここにいる全ての貴族の前で婚約破棄を了承したことを宣言致します」
よほどの事情が無い限り貴族の大半が出席する夜会で婚約破棄を宣言するのはどう考えても嫌がらせ以外に考えられない。私は、間髪を容れず声を張り上げて了承した。
しかし、それだけでは終われない。否、終わりたくない。
婚約破棄はどちらが原因だろうが、女性の方に瑕疵があるとされる事が多い。それをより多くの貴族に周知したくてこの日のこの時を狙ったのだろう。ふと、会場にある大きな振り子時計に目をやり、陛下の入場まで半刻かと確認する。
先ほど、青い顔をして出ていった給仕では、上司に進言して陛下に伝言が届くまで少しばかり時間がかかるでしょうねと考えた。私は、物事を享受するだけは好まない。礼には礼を。無礼には無礼をきっちり返すことを信条としている。
私は、にっこりと深く微笑むと眉尻を下げこれでもかという程困った顔を作り、頬に手を当てて不思議そうな顔をして殿下に問い返す。
「しかし殿下。何故、この様な阿呆な事をなさったの?」
「なっなっ!阿呆だと!?」
殿下は目に見えて狼狽する。でも、反撃の手を緩める気は毛頭ない。
「えぇ。陛下の43歳の誕生を祝うこの場で、いち個人の婚約破棄を宣言することを阿呆と言わずしてなんと言うのでしょう?
あっ!馬鹿が露見しますよ?でしょうか?
うん。でもすでに皆さまには露見してますのよね。晒してますよが正しいかしら?」
私は、どのような表現が正しいのか思案する。そこで、殿下の立て直しの時間を少しばかり与えてしまったようで殿下も頑張って言葉を返す。
「きっ貴様!本当に!可愛げが無い!私に愛でられたいのなら、愛想よくしていればいいものを!」
「はい?」
つい、令嬢らしからぬ怒気を纏った声が漏れる!すると、殿下は急に勝ち誇ったように落ち着きだした。私が図星を突かれて狼狽したとでも思ったようだ。全然違うのだが。でも、調子づいた、第二王子殿下はノリノリである。
「お前は、私の寵愛を受けることが出来ず。私の寵愛を一心に受けるタチアナに数々の嫌がらせをしたそうだな!」
第二王子は、隣にべったりと張りつき誇らしげな顔をしているご令嬢の肩をつかんだ。しかし、私には大変疑問がある。なので、問うしかない。
「どなたが?」
「お前がだ!」
「何故?」
「醜い嫉妬だろう!」
「誰に?」
「タチアナにだ!決まっておろう!」
「何に対する嫉妬でしょう?」
「私の寵愛を受けていることにだ!貴様は馬鹿なのか!」
おっ?侮辱された仕返しかな?でも馬鹿でなくても分からないことぐらいあると思う。私はしっかり自分の気持ちを殿下に伝える。
「殿下の寵愛をタチアナ嬢が受けておりましても、私は塩粒ほども嫉妬しませんが?」
私は心底不思議。という顔でいると、周りの貴族からクスクスと嘲笑の声が広がる。その隙間から一人の男性が人をかき分けて早足で歩んでくる。私は彼の到着を待つと微笑んで彼に声をかける。
「あら。オンネス伯。貴殿は、爵位を返上する予定なの?」
「いえ。そんな予定はございません」
「そうなの?」
私が突然、関係の無い話をし始めたとでも思ったのだろう。殿下は声を荒らげて問いただす。さっきの、寵愛なんたらは無かったことにするようだ。珍しく英断である。
「貴様!私を無視して我が執務官と話し始めるではない!何たる不敬か!
オンネス!貴様も関係の無い時に話しかけてくるのではない!」
「あら?オンネス伯が無関係でございますか?本気で仰っていらっしゃる?
えっと、まだお名前を全てお伺いしていないのですが。タチアナ嬢でしたかしら?称号はご存じですか?」
「はぁ?私が愛しのタチアナのことで知らないことがあるわけがないではないか!
彼女は、タチアナ・トルベッケ伯爵令嬢だ!もちろん、私は第二王子だからな!私の伴侶としての身分も申し分ない!」
第二王子が鼻息荒く言い切った。そう、言い切った。
「称号を伺いたいのですが?」
「は?トルベッケだろう?」
「それは、家名です」
「あ?」
第二王子は心底分からないという顔になるので、私は大きな溜息をついて続けた。彼に期待するのはやめよう。
「分かりました。ご存じないのですね。
では、僭越ながら先ほども名乗りましたが私が名乗ります。タチアナ嬢も続けて自己紹介出来ますね?
私は、クラーセン公爵家が長女。シルフィア・ウーレンベックにございます」
私の名乗りに、少し困惑を見せたタチアナが思ったよりもきちんと自己紹介を返す。淑女教育はきちんとされているようだけど、情操教育はうまくいかなかったのかなぁと私は思案する。
「あっありがとうございます。私は、オンネス伯爵家が三女。タチアナ・トルベッケでございます」
「殿下。わかりましたか?家名と称号は違うのです。そして、オンネス伯が関係者ということもご理解頂けましたか?」
第二王子は、ポカンとした顔になりはっとする。そう!今更はっとする。
「オンネスは名前だと思っていたぞ!タチアナは其方の娘だったのだな!」
何を喜色満面で今更、当たり前な事をいっているのだろうかと思う。我が国は、大陸の寒冷地に位置しており資源が不足しがちである。さらに、側室を持たない一夫一妻制は王家にも付随する。だから、王妃様の子であっても派閥を持ちいかに国益をもたらすのか王位争いをさせる。
派閥があるため、王子たちの周りの使用人はもちろん下男、下女まで同派で固める。よって、執務の補助をする執務官の娘が侍女として城に出仕するのはなんら不思議でもないし、むしろ何故自分の周囲の人間の家族を知らないのかというところである。
「まぁそうです。オンネスに爵位を返上するのかと伺ったのは、殿下は王位争いから退いてオンネス伯爵に婿入りするのであれば、現オンネス伯爵であるカスペル・トルベッケからご子息には爵位は継承されないという事を意味するので伺ったまでです」
「はぁ?私は王位争いからは退かぬぞ!なぜ、私が婿に入るのか!タチアナには兄がいるのだぞ!」
そこで、タチアナが自分の立ち位置に気が付いたのだろう顔色が青く変わるがもう遅い。彼女の行く末もあまり明るくはない。
「何故・・・ですか?
殿下より3つ上の第一王子殿下は、農耕研究の盛んで寒冷地での作物の育成に成功したクショフレール侯爵のご長女ウルセツチェ・シュメルホルン様と婚姻されましたし、ご自身はあの閉鎖的な西の隣国聖ルゥフィーナ国に留学されて精霊学を学び農耕研究に多大に貢献されたそうです。
殿下よりお2つ下の第三王子殿下は、幼少期は東のランゲリーヴ王国、現在は南の大国リーヴバレンティ帝国の中央のバレンティ学園に留学をしております。他国の有力貴族と交流して縁を広めております。さらに、外交官を務め食料の輸入に尽力していらっしゃるアウテハーヘ公爵出身でそろそろ外交による功績で伯爵を叙爵されるのではないかというアーレンド・クラーセン様のご息女レベッカ様との婚約が進んでいるとか!
お母様は王妹ですので王子以外で唯一王位継承権を持ち、南の大国リーヴバレンティ帝国の姫をお祖母様に持っており、第二王子殿下が陛下から言い渡されている内政の執務をほとんど熟してきた私と婚約破棄するのですから、王位争いからは離脱は確定でしょう?
後、オンネス伯爵家・・・いえ、トルベッケの人間は我がクラーセン公爵家の寄子。見捨てるような真似は出来ませんので、他の第二王子付きの人間たちもご一緒に面談の上、どちらかの陣営に入れてもらえるように他の殿下たちに交渉致します」
私がこんこんと説明するが理解しているのだろうか。再三、話をしてもこのような余興をするのだから難しいだろう。あら、丁度いい陛下がいらっしゃたわ!ご自身の生誕のお祝いなのにファンファーレ無しで入場した陛下は通る太く低い声で第一王子の名前を呼んだ。
そう、第一王子は先ほどからずっと王族席に座っている。従兄であり幼馴染は、私が解決するのを高みの見物である。本当に厳しい。
「ジーヘル・エデュアルト!後は頼んだ。皆のもの。緊急事態だ。一時歓談を頼む。ヨリック、シルフィア嬢、オンネス父娘ついてまいれ」
「「「「はっ」」」」
「え?」
◇◇◇◇
別室に移ったところで、婚約破棄は覆らない。
シルフィアとヨリック・アンドリースの婚約はそもそも自身にそっくりな第二王子を溺愛した王妃のごり押しから始まった。
クラーセン公爵家は、何度もお断りをしたが最終的には王妃に説得された陛下の王命によって婚約は成されることになった。
しかし、黙って王命にしたがったわけではない。もちろんリーヴバレンティ帝国の姫であったお祖母様も領地から出て来て、王妹であるお母様もご一緒に登城に同行してきちんと条件をつけた。うん。男性陣の存在感が薄いのは仕方ない。代々、王家に忠誠を誓う家系だから王家に強気で行ける女性陣に任せればいいのだ。
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一つ シルフィアは王命に従い、ヨリック・アンドリースと婚約する。成人後、婚姻と成す。
一つ シルフィア及びクラーセン公爵家からの婚約解消・白紙・破棄は認められない。
一つ 王家から婚約解消・白紙・破棄の提案があればそれに従い、これを覆すことは出来ない。
一つ 婚約は消失した場合、王家は再度シルフィアに婚約を強要することは出来ない。
一つ 婚約は消失した場合、シルフィアは自身で身の振り方を決めることが出来る。
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これが、王命による婚約の契約であった。第二王子の独断であれ、夜会で多くの貴族の中で発表された婚約破棄は【提案】にはなるかもしれないが。【提案】に従い【覆すことは出来ない】誰であれ。
これを、大きくなりお祖母様に見せられた時、お祖母様の慧眼と賢さには感嘆の息が漏れた。
よって、私はお祖母様の様な賢女になれるようにリーヴバレンティ帝国に留学することを決めた。シルフィアは自身の身の振り方を決めることが出来るのだ!
今更、状況を理解したヨリックが復縁を求めていても伝えることはただ一つ。
「王命ってご存じ?王命契約は何人たりとも覆すことが出来ないのよ?この国が続く限りね」
そして、私は意気揚々と帝国へと旅立った。
◇◇◇◇
ヨリック・アンドリース第二王子は、陛下の命令で頭が鍛えられないのであれば身体を鍛えろと騎士団に入れられ泣き暮らしているかと思ったが、彼に甘い王妃に騎士団長になって国王になる兄弟を守るのよと唆されて張り切っているそうだ。勝手にすればいい。
ちなみに、タチアナ嬢は爵位を貰えるかわからない王子の婚約者にしっかり納まった。オンネス伯爵は私の執務に付き合い家族との時間を持てなかったことを顧みてタチアナ嬢と関係を断ち切ることが許された。
彼女は、実家を頼れなくなったのでしっかり第二王子を操縦して昇格させてあげて自分の立場を守らなければいけなくなった。頑張れ!
まぁ。国が平和ならいいのではないだろうか。このことで、また第二王子がらみの事件に巻き込まれることになるがそれをシルフィア・ウーレンベックはまだそのことを知らない。
拝読ありがとうございます
程よい長さかな?短い?
生い立ち無しだったのでコンパクトにかけたかな?と思います。
ざまぁはないのですが、多くの人の前でコテンパンにされてるのが1番のざまぁかなぁ。
すごく、国の名前とか出てきました。
まぁ、気が向きましたら前の作品や今後の作品の時などに思い出して頂けたらと思います。笑




