第2話:『マキヴェリの犬と、ハラペコのネロ』
1. 夢の朝食
「……起きた? カイザー」
目が覚めると、そこは見たこともない豪華な寝室だった。 昨夜までの「死体洗い」の悪臭はない。代わりに、香ばしいパンの匂いが鼻をくすぐる。
「カイザー?」 「……俺の名前、カイトだ」 「今日からは『カイザー(皇帝)』よ。ノコギリの王になるんだから」
目の前で銀髪を揺らしながらスープを注ぐのは、王国の特殊制魔部隊を率いる女、マキヴェリ(マキャヴェリ)。彼女の言葉には、抗えない絶対的な強制力が宿っているように感じられた。
テーブルには、たっぷりのバターと真っ赤なベリージャムが塗られた、ふわふわのパン。 カイト――改めカイザーは、それを獣のように貪り食った。
「うめぇ……。なぁ、マキヴェリ。俺、あんたのためなら何でもするよ」 「いい子ね。じゃあ、まずは『同居人』を紹介するわ」
2. 潔癖のノブと、爆弾のネロ
案内されたのは、古びたが立派な寮の一室だった。 扉を開けた瞬間、カイザーの顔面に鋭い刀の鞘が突きつけられる。
「マキヴェリ様、こんな薄汚い『魔人』と組めというのですか」
潔癖症なまでに整った制服を着た男、ノブ。 彼は厄災獣『天下布武』と契約した凄腕の騎士で、マキヴェリに狂信的な忠誠を誓っている。
「……殺すぞ、てめぇ」 「やってみろ。貴様の首を落として、京の通りに晒してやる」
一触即発の二人の間に、窓から「何か」が飛び込んできた。
「ワハハハ! 最高のパンの匂いがするぞ! それは余の分か!?」
ピンク色の髪を振り乱し、角が生えた少女がカイザーの手からパンを奪い取る。 彼女は厄災獣『暴君の炎』を宿す変異者、ネロ。
「返せよ、それは俺の……!」 「黙れ下僕! 世界のすべては余の所有物! 逆らう奴はすべて焼いて、黄金の劇場に入れてやるのだ!」
ネロが指を鳴らすと、彼女の周囲で小さな爆発が起きた。
3. 三馬鹿の初任務
「仲良くできそうね」
マキヴェリは微笑みながら、三人に一枚の地図を投げた。
「隣町の教会に、厄災獣『ナポ』の残滓が現れたわ。死んでもいいけど、仕事は完遂して。……カイザー、期待してるわよ」
彼女に頭を撫でられ、カイザーは心臓が跳ね上がるのを感じた。それが恋なのか、あるいは「●●」への恐怖なのかは分からない。
「行くぞ、田舎侍のノブ! そして……えーと、ノコギリ男!」 「カイザーだっつの!」 「フン、貴様らのような無頼漢、私がまとめて『天下の法』で裁いてくれる」




