【短編小説】オノシノコロガシ
まともな仕事なんてのが存在しているのか分からないが、需要に対して供給して対価を得るならそれは労働だろう。
別に誰かを扶養するかどうかなてのは問題じゃない。自分のメシさえ食えればいい。
おれは袋に詰め込んだ黒ギャルJKをダストシュートに放り込んだ。この穴がどこに繋がってるかは知らない。
それは俺の問題じゃないからな。
そのダストシュート脇にある管理人室と書かれた札の下がった小窓を叩く。すると中から皺だらけの茶色い手が封筒を投げて寄越した。
「おい、これだけかよ」
年々薄くなっていく封筒。需要に対して間に合ってない供給のはずだ。
「ピンハネも大概にしろよ、こっちは苦労してんだ」
皺だらけの茶色い手が中指を立てて
「うるさいね、いま明細を出すから待ってな」
と言って窓の向こうの暗闇に引っ込んだ。
求める側のシミったれた吝嗇ぶりには腹が立つ。安く買おうとしやがって。
電子タバコにカートリッジを差し込む。
炒り豆かションベンみてぇな臭いの煙を吐き出すと、再び皺だらけの茶色い手がペラペラの紙を出した。
「明細だよ、確認しな。あとここは禁煙だ」
「これは飴だよ、煙なんか出てねぇだろ」
そう返して中身を確認する。
黒さ、若さ、メイク、制服。ここら辺は及第点だろう。
「おい婆さん、なんだこのサリー減点ってのは」
「足首が太いからね、それで減点だよ。それと禁煙だって言ってんだろ、さっさと消しな」
俺は捉えた黒ギャルJKの足を思い出してみた。確かにルーズソックスを履いていて、足首は確認していない。
「冗談じゃねぇ、いちいち確認してられっかよ」
「うるさいね、先方の要望なんだから仕方ないだろう。それと煙草」
皺だらけの茶色い手がいつのまにか空き缶を持っている。
俺は仕方なしにカートリッジを空き缶に押し込む。
「てめぇも吸ってんじゃねぇか」
「廊下じゃないからね、ここは」
どいつもこいつも自分勝手だ。天然物の黒ギャルJKが欲しい奴も、この遣手ババアも、たぶん俺も。
マンションを出ると見覚えのある顔。
「毎度」
貼り付けた愛想笑い。俺は封筒を開けて何枚か渡す。男はわざとゆっくり枚数を数える。煽ってるつもりか?
「おおきに」
通信講座訛りの関西弁。親の顔より見た金貸し。こいつもクソだったな、忘れていた。
「ほな、また来ますわ」
いつかてめぇのお袋とファックしてやる。
先生はママと政府は火星人と遣手ババアは金貸しと繋がってる。
俺は?
俺は黒ギャルJKを見つけた。
足音を立てないようにそっと近づく。黒ギャルJKが振り向くその瞬間に背後から麻袋を被せた。
黒ギャルJKは朝袋のしばらく暴れていたが、遮光麻袋の中で深淵と目が合ったのかすぐに静かになった。
今日は調子がいい。
この勢いであと2、3人は捕獲したい。
足がサリーだとか下着が縞パンだとかは後で確認すりゃあいい。
しかしあまり調子に乗ると黒ギャルJKはすぐに逃げてしまう。
逃げる程度ならまだ良い。
以前に捕獲しようした黒ギャルJKは、ラクガキだらけのスクールバッグからラインストーンでキラキラにデコった小刀を取り出して、プリだらけの鞘を投げ捨てると目にも止まらぬ速さで自分の腹に突き立てて爆発した。
俺の周囲には長い付け爪だとか付け睫毛、派手な色の下着の破片だとか細いチェーンのアクセサリーが飛び散った。
これでまた一人、この夜から黒ギャルJKが減った。
その日のうちに黒ギャルJKを三人捕獲してババアに売り飛ばした。二束三文。苦労に合わない。
転職するか?
次は売り飛ばされた黒ギャルJKを運搬するスマグラーか。
「黒ギャルなんてまだ存在してるのか?」
オノシノコロガシがアイスコーヒーに5個目のシロップを開けながら訊く。遣手ババアの窓口で知り合ったクソ野郎だ。仕事は確か風邪薬中毒の家で女子小、中学生を捕まえる仕事だ。
「絶滅危惧種だよ、だから価値があるんだ」
お前みたいな数打ってナンボの仕事とは違う。
俺は紙コップに張り付いた氷を回しながら薄暗い通りを眺めている。
アイスコーヒーの残りが溶けた氷と混ざって黒ギャルJKの様な色になった。
「お前のは爆発しないからいいよな」
俺が嗤うとオノシノコロガシが顔を上げた。
「お前じゃないよ」
オノシノコロガシは再び自分のカップを眺めながらシロップを垂らしていた。砂糖で頭までイカれてやがる。
それとも捕獲したガキとヤってチンコから脳みそまで腐っちまったか?
「俺はオノシノコロガシだから」
それがどう言う意味なのかは知らないし知りたくもない。
「そうだったな」
それがアイデンティティならそう言うもんなんだろう。
俺はもう俺の名前だって覚えて無い。




