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五辺を巡るもの

作者: 残響死滅

肉の獣も、壊れた機械も、歪んだ天秤も、幾億の世界も、均衡も——

ただの五角形の辺にすぎない。

中心には、名もなき神がいる。

お前たちはまだ、それに「名前」をつけようとしている。



僕たちは、五対の脚で歩む。

だが、一辺を進むには、二足で足りた。

僕は、歯車とガラクタの山を訪れた。

カラクリに祈る者たちは、己の肉を捨て、

金属で神を補おうとしていた。

彼らは語る——

「神は壊れ、再構築を待っている」と。

だがその者たちは、己の足で歩むことをやめた。


僕は歩みを止めた。

不完全な神の存在、それは誤りではない。

だが、不完全な信仰とガラクタの体では、中心には至れない。



私たちは、五の耳で聞く。

だが、一つを除いて、すべては塞がれていた。

私は、膨れあがる肉の祭壇の話を聞いた。

肉の者たちは骨を裂き、血を燃やし、

神を胎内に育てるという。

彼らは叫ぶ——

「変異こそが啓示、血こそが聖油」と。


私は耳を塞いだ。

肉も獣もまた神である。

耳を傾ける理性もなければ、神の言の葉を聞くことは叶わない。



我らは、五の目で見る。

だが、一つを除いて、盲であった。

我は、数多の世界を見た。

我らが神は、試練そのものであり、救いそのものである。

故にエルマの名は、名ではない。


我は、目を瞑った。

数多の世界をめぐり、数多の救いを見た。

だが、なお中心にたどり着いたものはいなかった。



俺たちは、五対の手を持つ。

だが、一対あれば、祈ることはできた。

俺は祈った。

祈りによって歪められた神学の天秤。

信仰が許せば奇跡に、

信仰が拒めば呪詛となる。

その神は、誰の神なのかと。

その奇跡は、誰の救いなのかと。


俺は祈るのをやめた。

人間の真実など、普遍的なものにすぎない。

だが、歪んだ天秤では中心を測れない。


私たちは、五の声を持つ。

だが、一つを除いて、沈黙していた。

私は語った。

そこには、かつて世界が一度終わったことを知る者たちがいた。

この宇宙は、第二の器。

一は七つの災厄に呑まれ、死した。

彼らの眼は、過去ではなく外側を見ていた。

無窮の虚空、恒星の泡立つ膜、死せる銀河の彼方。


私は語るのを止めた。

保つだけでは足りない。

見るべきは外ではなく、内側なのだ。

それでは中心を語ることは出来ない。


我らは、無意識に五角形を描いていた。

だが、その五角形も、ただの一面に過ぎない。

本質は、五次元の中心にある。

中心には、名もなき神がいる。

存在しているが、名づけた瞬間、崩れる。

近づけば、力を失い、

聞けば、すべてを忘れ、

見れば、暗闇に沈み、

触れれば、自己が溶け、

語れば、世界が消える。

それが「神」だ。

だからこそ、人々は辺に留まる。

「ここが神の真実」

「ここがもっとも中心に近い」

「他の者は異端である」

だが、僕たちは知っている。

神は、“形”を持った瞬間に、神ではなくなる。

神とは——

言葉になる前の感覚、

姿になる前の余白、

教義になる前の沈黙。


“僕”“私”“我”“俺”“私”たちは、五重の夢を見る。

だが、そのすべてが現実である。

そして、さらに夢見る。

いつか——

機械の音が血潮と重なり、

祝福と怨嗟の歪みが、数多の世界を侵食し、

三なる世界が訪れるその日を。

そのとき、祈りは意味を失い、

信仰は消滅し、

ただ、五つの真実だけが残されるだろう。

そして、お前たちは気づく。

五辺はすべて、中心の一辺にすぎなかったと。


私たちは、預言者ではない。

ただの、折り畳まれた影だ。

だが——

折り畳まれた紙の「裏側」にこそ、

真実は、静かに潜んでいる。

そして、

これを読んでいる君たちの中にも。


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