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龍を守る女
龍の神石が在す
蒼い森の中
清流の道を
奥へ奥へと
進むうちに
道に迷ったのです
ひとり聖山に入る
などという考えが
天から降りてきたとしても
誰が実行するでしょう
山の精霊たちが
俗世の人間を
手放しで歓迎するとも
思えません
けれども
私にとって
現世は幻
幻世も幻
ならば
龍が棲むという
この山に
白龍のように
雲が棚引く
この山に
入ってみようと
思ったのです…
そう囁きかけてきたのは
小さな龍を纏った
女性の像だった
神石を守るように立ち
生まれては消える
清らかな水泡を
見下ろしている
恐ろしいけれども
もう少し見ていたい夢
なのか
高い梢を見上げると
その向こうに
水色の空が見えた
鱗模様のある雲が
ゆっくりと
流れていた