僕の先輩は意外に優しかったので一緒に頑張りたいと思います。
吹奏楽部に入部してから、毎日の練習は厳しいものだった。中島に対する不安と不満を感じつつも、どうしても目標を達成したい一心で僕は練習を続けていた。しかし、中島は相変わらず厳しく、僕に対して冷たい態度を取る。
「和田、お前、何度言わせるんだ?こんなんじゃ合奏にも参加できないぞ」 「まだそんな音しか出せねぇのか?やる気あんのか?」
そのたびに僕は悔しさを抱えつつ、黙々とトロンボーンを吹いていた。何で中島はこんなにも僕に厳しいんだろう。最初はただの嫌な奴だと思っていたけれど、だんだんとその理由が気になり始めていた。
その日の練習後、部室で片付けをしていると、部長の佐藤先輩が僕に声をかけてきた。
「和田、ちょっと話せる?」
「はい、部長」
佐藤先輩は少し顔をしかめながらも、僕に優しく話しかけてきた。
「和田、もしかして中島に厳しくされてるでしょ?」
「え、あ、はい…。ちょっと怖いんですけど、なんであんなに厳しいんでしょうか?」
佐藤先輩は一瞬、少し考えるように目を伏せてから、静かに語り始めた。
「中島、実はね、やる気のない人には本当に厳しいの。今の2年生は12人だけど、昔15人いたんだ。それで、3人ともやる気なくやめてしまって、中島は吹奏楽大好きだったから、すごく怒っちゃったんだ。それからは、どんなに下手でも、やる気さえあれば一生懸命教えてくれるんだけど、逆にやる気が見えないと、どんなに実力があっても全然手を貸してくれないのよ。」
「え、そうなんですか…」
僕は驚きながらも、少し納得した。確かに中島は、僕が最初に入部した時から、特に厳しく接してきた。それが、もしかしたら「やる気を見せていないから」だったのかもしれない。
「だから、和田が最初にあんな風に言われたのも、君がやる気を見せるかどうかを試してたんだと思う。でも、やる気を見せたら、あの子も変わるから」
「なるほど…。でも、今後はどうしたらいいんでしょうか?」
「これからも、しっかり練習を続けることが大事。もし何か分からないことがあったら、私が手伝うから、遠慮せずに言ってね。でも、中島には負けないように、頑張らないとダメよ」
佐藤さんは優しく微笑みながら言った。その言葉に、少し勇気をもらえた気がした。中島の厳しさには理由があった。それに、もし僕がしっかりやれば、彼も応援してくれるかもしれない。
「わかりました。頑張ります!」
「うん、その意気よ!私はずっと和田の味方だからね」
佐藤さんの温かい言葉に、僕は心が軽くなった。中島のことも、少しだけ理解できた気がした。これからは、彼の厳しさに負けずに、もっと頑張ろうと決心した。
その日の練習で、中島がまた僕に声をかけてきた。
「和田、今日は少しは吹けてるじゃねぇか。まぁ、これからも気を抜くなよ」
僕はその言葉を前向きに受け入れ、笑顔で返した。
「はい、もっと頑張ります!」
中島の言葉には相変わらず厳しさがあったけれど、以前のように不快に感じることはなかった。むしろ、彼の言葉に対して少し安心感すら覚えた。中島が僕に厳しくする理由がわかったからこそ、これからはしっかりと練習を積み重ねることができると思えた。
その晩、部屋に戻った僕は再び「脱出ノート」を開き、今の思いを綴った。
中島の厳しさには理由があった。彼はやる気のある人には応援してくれる。これからは、彼の期待に応えられるように、もっと頑張ろう。目標を達成するために、一歩ずつ前に進んでいくんだ。
僕はそう書き込んだ。中島の態度に振り回されることなく、自分の目標を見失わないようにしよう。今度こそ、ループを抜け出すために、努力し続けるだけだ。




