ep.8
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実家の長屋門を通ると、家政婦と糟良城警部が談笑していた。警部の方が先に気がつき、会釈してきた。航も会釈を返す。
「航さん、おかえりなさいませ」家政婦が航に近づいてきて言った。
「ハツさん、ただいま」航が言った。
「先程、刑事の方がお見えになって話し込んでしまいました」ハツさんはお茶目な笑顔を見せた後に警部の方へ振り返った。
「おもてなしもしませんで、すみません」
「お構い無く」糟良城が笑顔で応えた。
「それでは、失礼します」家政婦のハツさんは屋敷の方へ消えていった。
糟良城警部は、ハツさんがいなくなったことを確認し、航のほうへ体を向けた。
「事件の方、なにか進展はありましたか?」航が聞いた。
「ハツさん、ここに家政婦として勤めてどれくらい?」糟良城から笑顔が消えていた。
「来年で10年位だったと思いますけど」
庭の木が風で揺れる音がした。これまで警部から感じていた、温和な雰囲気が綺麗さっぱり消えていた。
「ここへ来る前、人と会ってきた。芝幸典。知ってるな」
「知りません」
糟良城は眉間に皺を寄せた。
「部下に調べさせた。芝幸典の親族について。さっき電話があった。お宅で家政婦として働いているそうだ。ハツさん──芝初枝さん」
「どうして、そんなこと調べるんです?」
「10年前、君が出来なかったことやるんだ。そうすればこれ以上、誰も罪を重ねることなく事件を解決することが出来る。いいか?君のお父さんを殺した犯人は……」