ep.7
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「10年前に起きた轢き逃げ事件ですが、事件発生の1年後、芝幸典という男性が自首して事件は解決しました」土田が言った。
「事件は夜間で、あの橋付近は人通りも少なかった。目撃者がいなくて捜査が難航しました。亡くなったのは朝桐貴子。記者の朝桐勉の姉です」
「弟の勉は、去年、一馬芳雄の家に不法侵入してる。そして今度はホテルで直接会い、言い放った。この人殺し、と」糟良城警部が言った。
「一馬芳雄との接点が見えません。犯人はもう捕まっているわけですし」
「もっと調べろ」糟良城が言った。「俺は人と会ってくる」
「どこ行くんですか?わたしも行きます」
「土田には調べておいてほしいことがあるんだ」
糟良城は机にあったメモ用紙に走り書きすると、土田に渡した。
「えっ、何でこの人?」
「いいから調べてくれ。わかったら連絡しろ」
「了解」土田はメモを見て顔をしかめた。
糟良城が警察署から出て数分後、一課に鑑識課の御手洗彩葉がやって来た。
「おつかれさま」彩葉が土田の方に近づいて来た。
「おつかれ。ん、どうした?」
「警部に頼まれて」彩葉は辺りを見た。
「警部ならちょっと前に出掛けたよ」
「え~」彩葉は困った顔になった。「じゃあ伝えといてくれる?被害者が亡くなる前の足取りを調べろって頼まれたんだけど、一馬芳雄さん、亡くなる前にホテル近くのカフェで人と会ってた」
「それ凄い重要な情報じゃん」土田はこれまでやっていた作業を中断した。
「でも会ってた人、車イスに乗ってる」
「じゃあ犯行は難しいね……」
「うん」
「やっぱり朝桐勉が怪しいのかな」
「うーん、どうだろ」彩葉は言った。「車イスの男の人調べてみたんだけど、これ見て」
彩葉は、土田の机の上にあったパソコンを操作し始めた。映し出した画像は、衝撃的なものだった。
「これ、車イスの人と握手してる人って……」
「そう。被害者の一馬芳雄さん。轢き逃げ事件の被害にあわれた遺族を助ける団体の理事を務めてた。で、横に写ってる車イスに乗った男性が代表の常澄明夫さん」
土田は、これまで離れていた点と点が繋がっていくような感覚になった。
今なら分かる──糟良城警部がこの人物を調べろと言った理由が。