ep.5
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待ち合わせていた5分前に彼はやって来た。
土田は以前、朝桐勉が勤めていた新聞社の元同僚から話を聞くため、新聞社の向かいにあるファミリーレストランでコーヒーを頼んで待っていた。
彼はテーブルを挟んだ向かいの席に腰を下ろした。スーツ姿の清潔感のある好青年だ。
昨日会った朝桐勉は正反対で、清潔感のない荒れた生活をしていた。記者にも色々な種類の人がいるのだなと土田は思った。
「田村さん、すみません、お忙しいところ」土田が言った。
「いえ、ちょうど昼休みだったんで」田村はハンカチで汗を拭いた。
女性のウェイトレスがやってきたので、田村はアイスコーヒーを頼んだ。
「以前、朝桐勉という男性がそちらの新聞社で働いていたと思うんですが」
「えぇ。働いてました。でも、もう10年も前の話なんで、刑事さんのお力になれるかどうか」田村は困った顔で答えた。
土田はメモを取る姿勢に入ると、田村は笑顔になり、「なんか、変な感じですね。いつもわたしの方がそういう姿勢になるんで」
「ですよね」土田も笑顔で応えた。「朝桐はどういう人物でした?」
「うーん」田村は思い出すように喫茶店の天井を見た。「まじめな奴でしたよ。文章を書かせれば人を引き付けるものがあるって上司も言ってましたし」
「そうですか。朝桐は10年前にそちらを退職されたんですね」
「そうです。辞めたときのことはよく覚えてます。まじめで大人しかった朝桐くんが人が変わったようになって」
「なにがあったかご存じですか?」
「お姉さんを亡くしたんです。たしか……轢き逃げ事件だったかな。すごく動揺している様子でした」
土田はメモ帳にボールペンを走らせた。
アイスコーヒーが届くと、田村は一気飲みした。
「あと1つ、お聞きしたいことが」
「はい。良いですよ」アイスコーヒーをテーブルに置いた。
「新聞記者時代に朝桐勉は一馬芳雄について何か取材されてましたか?」
「一馬芳雄って元政治家の?」
「はい」
「朝桐くんは経済の方を書いてたんで、政治家とは関わりなかったと思いますよ」
「そうですか……お忙しいときに時間割いていただいてありがとうございました」
土田はお礼を言うと、メモ帳を閉じた。
朝桐勉が被害者の一馬芳雄に言った一言「この人殺し」。
一馬芳雄は10年前に起きた轢き逃げ事件に関係している可能性がある。土田は、事件について調べることにした。