ep.4
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父が死亡したと警察から連絡があったのは、連絡が着かなくなってから数日経った後のことだった。捜査責任者だと名乗った男性警部が電話口で色々話していたが、内容が全く入ってこなかった。
2年前に母を亡くして、一馬航は相当参っていた。少しだけ心に余裕ができたと思った矢先の訃報にしばらくその場から立ち上がることができなかった。
航はタクシーを呼んで、警察署に向かった。
署に着くと、すれ違う人たちは、航のことを見ては何も言わず悲しげな表情で会釈してくる。その中に1人、彼のことをまっすぐ見て、安置室まで案内してれた刑事がいた。声ですぐにわかった。電話を掛けてきたあの男性警部だ。
「一馬航さんですね」
「はい」
「警部の糟良城といいます。お父さんが亡くなった事件の担当をしています」
「父は殺されたんですか?」
「えぇ。そうです」
警察からの連絡でなんとなく覚悟していた。父は病気もせず、元気その物で死から1番遠かったのに。警部から改めて聞かされると、父は死んだのだと実感する。
安置室まで案内されると、警部はこちらです、と言ってドアを開けた。航はしばらくその場で立ち尽くした。目の前には父親の死体。安置室に入ってしまえば現実を受け入れるしかない。
「なんで父は殺されたんですか?」
「すみません。捜査中ですので詳しいことは……」
「そうですか」
航は操られた人形のように安置室の中に入った。驚くほど中は冷たかった。母が亡くなった時に涙は出尽くしていて、今は何も出ない。
父の体を見ると、解剖したであろう痕が残っていた。表情はとても穏やかで眠っているように見える。
「父と一緒に帰れますか?」航は糟良城警部に視線を移した。
「葬儀社にご依頼してください。こちらが死体検案書です」
「わかりました」
航は、手渡された死体検案書を見た。
「父は毒で死んだんですね」
「そうです。恐縮ですがお聞きしたいことがあります」
「なんですか?」
糟良城警部は、ポケットからスマートフォンを取り出して操作し、1枚の画像を見せてきた。
「この男について何か知りませんか?」
「見たことあります」
「本当ですか?」
「去年の……いつだったか忘れましたけど、家の敷地に勝手に入ってきたんで警察に通報したんです。不法侵入で逮捕してもらいました。この人が父を殺したんですか?」
「すみません。捜査中ですので詳しいことは言えないんです。大変、心苦しいんですが」
「早く犯人逮捕してください」
「全力を尽くします」
糟良城警部の目はとても力強かった。