ep.2
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検査の結果、一馬芳雄の体内から毒が検出された。
鑑識課からの報告で、事件現場から注射器が見つからなかったこと、以上の2点から一馬芳雄が他殺であることが明らかになった。
ホテルから提出された防犯カメラ映像には、一馬芳雄が宿泊した部屋の前の廊下の映像があった。何者かが彼の部屋に侵入し、犯行に及んだと思われたからだ。
監察医の慶都先生によれば、死亡推定時刻は昨夜の18時~21時。
第1発見者のホテルの従業員が部屋に入ったのが22時すぎ。
一馬芳雄がホテルに戻って、男性と言い争ったのが17時頃。
鑑識課の御手洗彩葉は、パソコンを操作し、画面に映像を映し出した。一馬芳雄がエレベーターで上がり、自分の部屋に戻ったのは17時8分だった。
そこから死亡推定時刻の18時まで倍速で映像を進める。
「いないな」彩葉は小さな声で言った。
結局、22時まで映像を進めたが、一馬芳雄の部屋に入ったのは、第1発見者であるホテルの従業員のみだった。
「御手洗」糟良城警部が鑑識課の部屋に入ってきた。
「警部」彩葉は背筋を伸ばし、身構えた。
「カメラの映像はどうだった?」
彩葉は、見た通りのことを報告した。
「そうか、わかった。ご苦労」
警部はすこし考え込んだ表情のまま、足早に鑑識課から去っていった。
何がわかったのだろうと彩葉は首を傾げた。
「よく分からないなぁ。あの人」
わかったことは、一馬芳雄がホテルの部屋に戻ってから、第1発見者の従業員が彼を見つけるまで誰も部屋に入っていない。
わからないのは、誰がどのタイミングで彼に毒を注射したのかということ。
完全の密室でいったい何があったのか?
彩葉は、頼まれていた一馬芳雄と言い争っていた男性を身元を特定するため、監視カメラの映像を使い、顔認証にかけた。