六話
ラーナさんによる訓練が終わった後、俺たちは朝の食卓を三人で囲んでいた。またもや食事の有難さとおいしさに感動していると、グレンさんが話し出した。
「魔力の訓練はどうだったんだ?ラーナは教えるの上手かったか?」
「はい、とってもわかりやすい授業で、ほんと有難いです」
「そりゃよかった」
するとラーナさんも話に入ってきた。
「そうそうお父さん、二ドル、もう魔力操作が出来るようになったんだよ」
「はははっ、すげーじゃねえか二ドル、ラーナだって何か月もかかったって言ってたのに、それをこの朝の数時間で習得しちまうなんて」
呆れたように言うラーナさんに、二ドルさんは驚きながらも笑って言った。
「はははっ」
俺は笑う事しかできなかった。
「まあ、それはそうとして、食事が終わったら、次は俺の訓練を受けてもらうからな」
「どんな内容になるんでしょうか?」
「主な目的は体力と筋力、そしてある程度の近接戦闘力を手に入れること。だから、筋トレ、ランニング、剣の素振り、そして俺との戦闘訓練が主な内容になる。
最初の内は戦闘訓練は無し、様子を見て入れていくつもりだ、因みに筋トレも、素振りも、ランニングも、様子を見て内容を変えていく」
「分かりました、よろしくお願いします!」
「おう、しっかり取り組んで、なるべく早く戦力になってくれよな」
「ははっ、少し荷が重いかもしれませんが、頑張ります!」
「おう、其の意気だ!」
「いやー、荷が重いなんてことあり得ないと思うんだけどなー」
ラーナさんが最後に何やら言っていたが、声が小さくてあまり聞きとることが出来なかった。励ましの言葉でも言ってくれていたんだろうか?それにしても、今日も今日とてご飯がおいしい!!
「ご飯、美味しいですね!」
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そうして朝食を終えた後、俺とグレンさんは先ほど話した通りの訓練をしていた。今は筋トレのメニューをこなしている途中で、まずは腕立て伏せ10回を10セットをやっている。
これが思った以上にきつい、普段使わない筋肉を使っているからか、なかなか長くはできそうにない、いままで散々鶴嘴を振ってきていなければ二セットの途中くらいでダウンしていただろう。
かなりきつかったんだけども、隣で一緒にやっていたグレンさんとラーナさんは余裕だったようで、先に終えてからは疲れ果てながらもやり遂げようとする俺の様子を見ていた。
すると漸くに俺がやり終えたのを見たグレンさんは、言った。
「お、意外と出来んじゃねえか、明日からは15セットで行こう」
「え、そんな、結構ギリギリでしたよ」
「ギリギリじゃだめだ、限界までやるんだ」
圧倒的根性論、これは返しようがない、しかしどうしたものか、今はもうこれ以上動かせそうにないほど腕が疲れてしまったんだけど。こんなので次の訓練なんて出来るんだろうか?
そうして次の訓練が出来るのか不安に思っていると、俺が終わるまで待ってくれていたラーナさんが近寄ってきた。
「治癒してあげる」
願ってもない言葉だったが、こんな疲れ程度に使っていいものなんだろうか?疑問に思った俺は即座に質問をした。
「いいんでしょうか?こんな疲れ程度に魔法を使ってしまうなんて、もったいないような気が、、、、」
「いいのいいの、気にしないで一応節約しながら治すから」
そういうとラーナさんは治癒魔法の準備を始めたのだろう、目を閉じて何やら呟き始めた。そうして待っていると、段々と痛みが引いていった。しかし、依然として運動をした後の倦怠感は残っていた。これがさっき言っていた節約の影響なのだろうか?それにしても凄いものだ、こんなにも一瞬で治してしまうなんて。
「ありがとうございます、ラーナさん」
「どういたしまして、一応疲れをとることも出来るんだけど、毎回そうしていると結構な魔力を食っちゃうから」
「そうなんですか、ありがとうございます」
「どういたしまして、でも、これからは多分、訓練するごとに治癒することになるから、一日の終わりにまとめてお礼を言ってくれるだけでいいよ」
「毎度かけてくれるんですか!?」
「うん、そのつもりだよ、二ドルにはなるべく早く強くなってもらいたいからね、そのためには治癒をするくらいお手の物だよ」
「そんな、ありがとうございます」
「いいよ、全然、そもそも二ドルをパーティーに入れることを提案したのは私だし、それにこんなに有望な人材を鍛えられるなんて、むしろ私がお礼を言いたいくらいだよ、二ドルは可能性に満ち溢れた存在だからね、君の将来への投資だと思ってくれればいいよ」
ラーナさんは笑いながら優しくいってくれた。
そうしてその後も、素振りをしては治してもらい、ランニングをしては治して治してもらい、と、とんでもない好待遇で訓練を続けて行った俺は、早くも、若干の体の調子の良さを感じ始めていた。訓練の内容は確かにきつかったけど、こんなにも早く結果が出るのならばと思えば確かに楽なものではあった。
そうして数時間、漸くに肉体面の訓練を終えた俺は、昼ご飯を食べた後、再びラーナさんに魔法についてのあれこれを教えてもらった。
まず第一に、魔法というのはそれの及ぼす影響力によって発動に必要な魔力の量が変動するらしい、影響力についてその明確な定義は分かってはいないものの、大体がそんなイメージ、ということが俗説らしい。
そして第二に、魔力というのは人それぞれで持ちうる上限決まっているという、つまり魔力容量の成長限界というものが決まっているらしい。この魔力容量の成長限界は、何が決定づけているかが不明らしく、魔法使いの中でも長年議論がされているそうだ、
そして第三に、魔法使いの魔力の性質というのは子供に遺伝されやすいという、つまり火を操る魔法使いの息子は火に関する魔力性質になりやすいといった感じだ。そういうわけだから、優秀な魔法使いは子沢山なことが多いという。また、貴族の家系も優秀な魔力性質を持つという。
そして第四に、世間一般では五つの大きな魔力性質の分類が崇高とされているらしい、順に、生物、火、木、水、大地のような感じだという、理由として、この五つは原初の魔法であったため、また、貴族が持ち合わせていることが多い性質だからだというらしい。が、本当のところは戦争に役立てやすいとかいうかなり血なまぐさいものであろう。どれも簡単に戦争に転用できそうなものばかりだからな。
そして第五に、”魔法使い”はとにかく数が少ないらしい、まあとりあえず魔法を使える者、つまり実用に足らない威力の物しか発揮できないというくくりであれば30人に一人くらいの割合でいるらしい。が、魔法使い、つまり実用にたる威力の魔法が短時間で複数回に渡って発動できるもの、という基準になると極端に数が減ってしまうのだという。
そして最後に、絶対に胸のそれを他者に見せてはいけないと言っていた。俺限定の話ではあるが、一番覚えておかなければならない、と念を押された。魔法には関係は無い気がするけど、まあ、まとめて言ってきただけだろう。
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そんな感じで俺は、毎日毎日、二人とともに、二か月ほどの間訓練を続けた。雨の日も、風が強い日も、毎日毎日、俺らは決して訓練を欠かさなかった。ラーナさんの御陰で、増していく訓練の強度に俺は急速に適応していった。グレンさんは毎度毎度俺の体の限界を見極めてメニューを決めてくれた。まさに俺はおんぶにだっこ状態であった。
しかし、御陰で俺は日に日に強くなった、筋肉が付き、体力が付き、魔力も増えて、魔力操作も上手くなった、どれもこれも2人のおかげでは在るものの、俺は確かに強くなっていた。いつも隣でお手本を見せてくれるグレンさんには遠く及ばないものの、素振りもかなりうまくなった。グレンさんには肉体面でお墨付きをもらえた、そういう事で、もうそろそろで模擬線の相手をしてくれるという。まさに肉体面に関しては全く問題がない、それどころか絶好調ではある。
だがしかし、俺は焦っていた、肉体面は優秀に育っている者の、魔法面では成長がほとんど見られないのだ、というかなんなら一番重要であろう所の進展がゼロなのだ。
一番重要なところが全く使えない状態、そう、俺は現状、魔法が使えない。魔力はある、魔力操作も使える、だけど、魔法は全く使えない。
まあ、ラーナさん曰く、これはしょうがないことで、想定以内の事象らしい。しかし、想定以内とは聞いても、これだけの時間、何も進展がないとなるとやはり少し焦ってしまう。
だって何しろ、俺の中で一番の価値あるところ、と期待されていた部分が本当に役立てられるかの実感が微塵もないのだ。使えなかった理由を聞いてみたりはした、けど、どうにも口を閉じて頑固に教えてくれない、というかそもそも、魔法の実用に関することを微塵も教えてくれない。
自分でたどり着けという事なんだろうけど、結局全く理由が分からない、何が原因で使えないのだろうか?
俺は、何とか解決せねばと思い「魔法、魔法、」と、俺は考えながら腕立てをした。
まず初めに、俺はいつもどうやって発動しようとしてる?なんとなく魔法、と考えながら適当にぶつぶつ言っていたはずだ。なんとなくラーナさんを真似してやってみたものの、これが全然上手くいかない。
これの何がいけないんだろう?分からん、よし、しょうがない。
じゃあまず、最初に戻って考えてみよう、魔法ってそもそもなんなんだっけ?確かラーナ師匠は、自分の魔力性質に基づいた分野の内で、理を曲げることだって言ってた。
じゃあ、曲げるためには何が必要なんだ?
まずは魔力だ、これは間違いない、でも今俺が魔法を使えていないことを鑑みるに、多分これだけじゃ足りない。
じゃあ、後何が必要なんだ?
確か、ラーナさんは何やら呟きながらやっていたから、呪文か?そうなのか?
いや、それだったら自力じゃあ分からないんじゃ?後に何が考えられる?
うーん、分かっていることが少なさ過ぎる、そもそも魔法を使えない俺がほぼ一から魔法の発動条件を思いつくなんてありえないだろ。
「うーん」
腕立てをしながら唸ると、隣で共に訓練をするラーナさんが
「どうしたの?」
といった風に声をかけてきた。
「いや、その、どうして俺には魔法が使えないのかなって思って」
因みに口調が砕けたのはラーナさんからの提案がきっかけである、御陰で少しばかり距離が近くなった気がする。完全に二人に養ってもらっている立場であるから、かなり情けない気持ちにはなるがしかし、ラーナさんがより自然体で接してくれることのほうが重要だ、と割り切っている。
「あー、えぇと、それはね、ごめんね、言えないんだ」
ラーナさんは苦笑いしながら、ばつが悪そうに返してきた。しかし、どうしたものか、分からん、全く分からん!!人類最初の人物はどうやって魔法をつかったんだ!!
「ん?」
突如として俺の中に一つの仮説が浮かび上がった、とんでもなく馬鹿らしくて、地道なもの、しかし一番可能性がありそうなものであった。もしこれが正しいならば、ラーナさんが口をつぐんだのも納得だ、しかし、あの時には普通に話してしまっていたことを、何故今更になって言わなくなってしまったのだろうか?もしかして、いつものドジだったのだろうか?俺の仮説が正しかったのなら、かなりきわどいことを言っていたと思うんだけど。しかし、こんな重要そうなことも口を滑らせて言ってしまうんて、やはりラーナ師匠は生粋のドジっ子だ。それともお人よしだ、どっちなのかはわからないけど。
ともあれ、ラーナ師匠はドジっ子なのだ、ボーイッシュで美人な彼女は、ふとした瞬間に口を滑らせたり、何かを失敗したりしてよくドジをやらかしているのだ。この前なんかは何故か俺のパンツを間違えて履いてしまってトイレの中で騒いでいたのだ。
「二ドル!どうして私があなたの下着をはいているの?!」
トイレから出てきた後に俺は何故か問い詰められた、全くに関係がないのだが、これはあれだろうか、ドジをやったことの照れ隠しだろうか?などと思ったのを今でも覚えている。
可愛らしい光景ではあったけど、あそこまで無防備な感じでドジっ子を曝しているのを見ると、少しばかり心配になってしまう。親心ならぬ弟子心でだが。
おっと、大幅に話がずれた。
恐らく、人類最初に魔法を使った者は、中二病か何かを発症して、その拍子に偶然に魔法を発動したのだろう。その証拠に、原初のの魔法はどれも考えやすいものばかりだ。
手品のように手から火を出したり、傷をいやしたり、水を自在に操ったり、大地を操ったり、木を生やしたり、多分どれもこれも中二病罹患者によって偶然に見つかったんだろう。
自分の超常の力を信じて念じたものが、偶然に自分の魔力性質と合致したのだろう。うん、そうだ、かなり無理やりな気がするけど、多分そうだ。
確かいつだったか聞いた話では、神がどうだこうだで、我らに原初の魔法を授けてくれたもうた、とか聞いたような気がする、が、まあ、どうせあんなの作り話だ。都合のいい嘘だ、嘘。神様なんて見たこともないものなんて信じてたまるかって感じだ。神なんて味噌っかすだ、味噌っかす。
まあかなりの無理くり推理ではあるがしかし、今の状況と与えられたヒントを検討すればこれが一番可能性が高いものとみていいだろう。
しかしこれでは、何の解決にもなっていない、、、、
俺に気合で自分の魔力性質を探せ!って、言ってるって分かったって、うーん、ほとんど意味がない。 こりゃ、かなりの無茶ぶりだな。




