表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/6

三話 ラーナ・クリュ

「ぴぴびゅーーー!!」


「おー、どうしたの?ピリカルちゃん…………、ん?こっち?なに、なに、人?」


「おーい、生きてるー?」


 微かな意識の中、波打つ音と、知らない女が呼びかけてくる声が聞こえた。

 堪え難い空腹感と、水不足が作り出した幻想なのだろうか。

 やっとの事で目をちょびっと開いた俺に見えたのは女の足元だけだった。

 幻なのだとしたら、もっとサービスしてくれてもいいのではないだろうか?


「あ、あ」


「───────」


 意識がもうろうとする中、「せめて顔見せて」と言おうとした俺は、言葉にならぬ音を発した後、返事すらもきけぬまま、再び意識を失った。


















 ああ、気持ちがいい、暖かくてやわらかい感触、それに弾力のある感じ、これだ、これ、俺が求めていたのはこういうのなんだよ。


 心地のいい目覚めに満足しながら目を開くと、そこには見知らぬ景色が広がっていた。知らない天井、知らないかべ、知らない景色、知らない床。何もかもが全くの見覚えのないものだった。それにしても、寝心地が良い、藁を敷いてシーツを被せたベットかな?こんなものあったっけなぁ?寝ぼけた頭だから混乱しているのかと思っていると。近くから、動物の可愛らしい鳴き声が聞こえた。


「ぴぴゅ」


 何かの鳴き声が聞こえた方向を見ると、見覚えのない生き物が俺の横に寝ころんでいた。20cmほどの大きさで人型、二足歩行、白い毛におおわれていて、かなり小さいが、手もしっかりあった。アンバランスなその姿かたちは不思議と愛着を感じさせるものであった。


「ぴぴびゅーーー!!」


 俺が目覚めたのを見て驚いたのか、それとも俺と目が合ったからななのか、その小さな生き物は盛んに鳴き声を上げた。


「ぴぴぴーーーーーー!!!」


 鳴き始めた謎の生き物を見た俺は「可愛いけど、、なんだこれ」などと思いながら、今の状況を理解しようとし始めた。

 鳴いている謎の生き物に、よくわからない場所、それに謎に好待遇で看病してくれていたであろうこの現状、意識が飛ぶ前に見た隕石、そして何故かこの謎生物が俺になついてる状況。


 急に入ってきた多すぎる情報に俺の脳みそは大いに混乱した。


「んん~~~~??」


 四苦八苦しながらも情報を飲み込もうとしていると、誰かの声が聞こえた。


「ん??この鳴き声はあのピリカルの物か?もしかして、あの餓鬼が漸く目を覚ましたのか?」


 男の野太い声であった。

 どうやらこの生き物、ピリカルとかいうのかもしれない。

 仮称ピリカルはドアの隙間から部屋をでて、走っていった。中々すばしっこいようで、見た目にそぐわず軽快で鮮やかな動きだった。


 そうしてすぐ、またも盛んに鳴きながら、今度は野太い声の主であろう男を引っ張って戻ってきた。


 扉を開いて姿を現したのは、気が良くて強そうな、大きめのスキンヘッド男だった。あの声にしっくり来る男そのもので、髭を蓄えて居たのだがよく似合っていた。

 男はこちらを見ると、驚いたような表情になって言った。


「おお、やっと起きたか、餓鬼」


「…………………………………」


「起きたばかりで混乱してるのか、まあ暫く時間をやるから、記憶を整理出来るまで待ってやる」


 男は俺をなだめるように、落ち着いてそう言った。


 そうしてしばらく。


「まず、俺のことを助けてくれて、ありがとうございます。ですが、その、ここはどこなんでしょうか?それに、どうして俺を助けてくれたんでしょうか?それと、あなたのお名前は?」


 記憶の整理はできても、気持ちの整理はできていなかった俺は、混乱からか、早口で捲し立てるように聞いてしまった。だがそんな俺を見た男は、落ち着かせるように、ゆっくりと話し出した。



「まず、俺の名前はグレン・クリュ、この家の持ち主で、お前を浜で拾ってきて助けた女の父親だ」


 少し間を置いて、落ち着いた口調で男は続けた。


「そしてここは、カイナ村、辺境のハズレにある漁師師村だ、まあ、海村カイナなんて呼ばれてる、くらいには漁業が盛んな村だ」


 海村カイナか、響きがなんとなく格好いいな。男は続けた。


「何でお前を助けたかってのは、まあ、ピリカルがおめえさんに懐いてたからだ。ここら辺じゃ、ピリカルに懐かれるのは選ばれた者だけだって言う言い伝えがあってな、そう言う奴は人格もある程度保証されてるし、世界の役に立つと言われてる、だから助けたって感じだ」


 聞いた俺は、隣で一緒に話を聞いているピリカルに感謝を覚えた。が、どうして俺みたいな元奴隷になついたんだか。


「そうですか、助けていただいて、ありがとうございます。ですが、、、それ以外になにか理由とかないんでしょうか?例えば、労働者として働いてもらう為とか、何か対価とか」


「ああ、それは勿論あるが、まあそれはついでだな、だけどまあ、助けた分は後でしっかりと働いて返してもらうからな。それでお前、奴隷のくせに妙に礼儀が正しいな、おめえ、貴族かそれとも商家の出身の奴隷落ちか何かか?」


「いえ、俺は多分、生まれてこの方奴隷だと思います」


「はぁ、だとしたらどうやってその礼儀を身に着けたんだか、ピリカルの加護の賜物なのかねぇ」


 ピリカルの加護という聞かない言葉に少し引っかかった俺だが、なんとなく気まずい静寂が広がったのを感じて、空気を変えるついでに俺はお礼を言った。


「あの…………、助けてくれてありがとうございます」


 頭を下げて礼を言った俺は、なかなか返事がないことに戸惑って、顔をグレンさんのほうに向けると、何やら困ったような、戸惑ったような表情をした後、俺に言葉を返した。


「あ、あぁ、だが、その、助けたのに命を捧げられたって困るんだが」


「…………………………………??」


 俺が言葉の意味をいまいち理解できず、返事をできずに首をかしげていると、その様子に気付いたのか、グレンさんは納得したように言った。


「あぁ!そうか、流れ着いて来たんだもんな、お前もしかして、この国の人間じゃないのか?だとしたらさっきの行動も納得なんだが」


「あの、俺、何かおかしな事でもしてましたか?」


 グレンさんは納得しながら俺に説明してくれた。グレンさんの説明によれば、この国ではどうも、頭を下げるという行為は命を差し出すという行為と同義なのだそうだ。


「あんまりここが田舎で、めったに他国の人間が来ないから忘れてたよ、すまんな」


「いえいえ、こちらこそすみません」


「はぁ」


 グレンさんはなぜか呆れるようにため息を吐いた後、真剣な表情になって言った。


「それでお前、何者なんだ?どこから来た?」


 聞かれた俺は、これまでの生活と、そこから抜け出すきっかけであり、ここに流れ着いた原因であろう、隕石災厄について語った。あの島の景色、災厄が始まった時の状況、災厄からいかにして逃れたか、役に立ちそうな情報を掻い摘みながら語った。始めは真顔で聞いてい彼は、歪んだり、驚いた顔になったりと、話を聞く中で様々な表情を見せた。何度も死にかけたし、何人もの人が目の前で死んだあの出来事は、無意識の内にじわじわと俺の精神を蝕んでいたようで、語るのには辛いものもあった。


 グレンさんは俺の話を真剣に聞いてくれた、途中で顔をしかめたりとしていたから少し刺激的過ぎたようだが。


「そうか………分かった、悪いことを聞いた、まあ、今は取りあえず寝てろ」


「いえ、こちらこそ気を使わせてしまってすみません」


 聞き終えたグレンさんは少し暗い表情で部屋を出ていった。


 部屋を出ていったグレンさんを見届けた俺は、漸く本当に安心できそうな場所にたどり着けた事を知れた安心感からか、寄り添うように来てくれたピリカルとともに再び眠ってしまった。










────────────










「おーい、ご飯だよ?君の分も一応作ってあるんだけど食べる?」


 俺を呼んでくれている声に再び目が覚めると、夜なのだろう、部屋の中は暗くなっていた。なんだか最近寝てばかりのような気がする。



「ありがとうございます!食べまーす!」


「はーい」


 ピリカルと一緒に部屋を出て、声の聞こえた方向に廊下を歩いて行くと、声の主であろう女の人の後ろ姿が見えた。短い黒髪に、女の人にしては高い身長が特徴的だった。


「おお、どうも、初めまして」


 女の人は笑いかけながらそう言った。その姿は若々しく、ボーイッシュな感じがして、とても爽やかであった。

 顔も整っていて、明るく爽やかな彼女にピッタリのタイプの美人だった。


「あの、もしかして、貴方が俺を見つけて下さった方ですか?」


「うん、そうだよ、そして君を死から救った治癒魔法使いだよー」


 冗談めかすように、衝撃の発言を喰らってしまった。


「魔法を使って助けてくれたんですか?そんな、本当に、ありがとうございます」


 治癒魔法を使えることにも驚いたけど、魔法を使わなきゃ助けられないような状態で見つかったことなんて、それに、治癒魔法をかけてもらうのにかかるお金なんて、相当高かった筈だ。


「でも、あなたが本当に感謝すべきなのはそのピリカルちゃんだよ、その子、水不足とかで死にかけだった貴方を死なせないために、私が治癒するまで、加護で守ってくれていたのよ、その子がいなかったら貴方は私に見つかる前にとっくに死んでたし、もし生きて見つかっても不審者として放置されてたわよ」


 おお怖い、中々に遠慮がないようで、残酷な言葉が俺を削る。でも、魔法を使ってこの人が助けてくれた事には違いが無い、本当に有難い。だけど、ピリカル、本当にありがとう!!お前のおかげで今の俺は生きているんだな。俺はピリカルに感謝した。けど、同時に疑問も生じた。いつ、どこでこのピリカルは俺になついたんだろうか?俺を見つけたときにはすでにいたらしいし、何なら延命措置すらもしていたとか聞くし、本当に謎だ。

 が、今は置いておいて、俺はラーナさんに助けてくれた感謝を再び伝えた。


「そうですか、でも、俺を治癒してくれて、本当にありがとうございました」


「ああ、どういたしまして」


 ラーナさんは笑いながら返してくれた。


「それで、貴方の名前を教えてくれませんか?」


「ああ、私の名前は、ラーナ・クリュだ、よろしく」


 ラーナさんはそう言って爽やかな笑顔とともに俺に握手を求めて来た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ