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二話

 あの後暫くして気を取り直し、笑いを止めた俺は、隕石が降る大地の中心にいた。

 崩壊を免れてまた、隕石による絨毯爆撃からも生き残るこの強運は、今までの人生の不幸さによって生まれていた、大量な幸運の貸し出しによる、一挙な負債返済か何かによって引き起こされたのだろうか?不幸中の幸いという奴にも思えるけど、うまいこと考え直したら、幸運の連続という風にもとらえられなくもない、筈だ。


 空を見上げれば、流星群のように辺りに隕石が降り注いでいた。


 「うあーーーーーーーーーー」


 爆笑して少し気を取り直した俺は思わず、空に広がる隕石の姿に見惚れた。初めて見る、その危うくも美しい流星群は俺を魅了して、暫く放さなかった。先ほどの光景と、引き起こした惨状を考えれば唯々恐ろしいだけの光景に思えるけれど、やはり見た目は美しい。尾を引く火の明りと、空中で分裂するその姿は幻想的であった。いまいち現実を直視できなくさせる、幻想的で恐ろしい景色だ。





 馬鹿みたいに状況を忘れ、暫くの間眺めていた俺だったが、落ち着いた時間は長くは続かなかった。「どごおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん」という近くから聞こえた隕石の衝撃音に、ようやく意識が現実へと戻ってきたのだ。そうして、安全ではない今の状況を思い出した俺は、ようやく動き始めた。


 まずは隕石が落ちてきていない所に移ろう。漠然と考えた俺は、先に辺りの状況を把握するため、以前聞いた砂の崖という所へ走りだした。


 砂の崖とは、前に監視員どもが話していた場所で、何でも島全体の景色が見渡せるらしいのだ、行ったことは無いし、何処にあるだとか詳しいことは言ってなかったけど、それらしきものは見えるのだ。目につく限り一番高い所、前から見えてはいたんだけど、行ったことはない。ここからなら割かし高低差も少ないし、距離も遠くない。


 俺はしばらく走って、そして少しばかり無理やり頂上へと登った。頂上は少しばかり風が強かった。


 風の強さと高さに少しビビりながらも下に広がる景色を見てみると、目下には壮大な光景が広がっていた。

 小川、オアシス、小さな森、荒地、山、などこの島にあるほぼ全ての地形と景色を見渡せたのだ、そこらにも隕石が落ちたのかポツポツと大小様々な穴が多く空いていたけれど、やはり今はまだ、元の風景の原型をとどめられた居るのだろう、美しい圧巻の景色だった。今まで知らなかったこの島の景色と見晴らしは、とても良いものだった。そうして俺は、またもや今の状況を忘れて景色に浸ってしまった。


 そうして隅々まで島の景色を見ていた俺はある事に気付いた。島の南西部に、安全地帯の様な、綺麗に被害を免れた場所を見つけたのだ。依然として隕石は降り注いでたが、しかしやはり、それらも島の南西部だけを綺麗に避けていた。何でもない場所だった筈だが、そこだけは綺麗に被害を免れていた。


 何か魔法で守って居るのだろうか?


 何があるかは分からないけど、取り敢えず今の所1番安全そうに見える。しかし、ここからは遠い。もし今から行くとなると、着くまで体力が持たないなんて事も考えられる。行ったらそれっきりの遠い場所だった。ここはいつ隕石が落ちて来てもおかしく無い。止まるより、動いた方が良いのか?でも、遠いんだよなぁ、体が持つかどうか。


 でもまぁ、行くしか、ないよなぁ。


 そうして俺は泣く泣く再び動き出した。









 眺めて居る時から分かって居た事だったのだか、やはり道のりは長かった。まず、砂の崖と南西部海岸は、島の中では、ほぼ真反対の位置関係にある。その上崖を降りてから行くとなると、道がかなり絞られ、大きく迂回して行くルートしかなくなって、かなりの距離になる。


 やはり不幸にも、俺の逃避行は、恐ろしく険しい道のりになりそうだった。


「どごぉぉぉん!!」


「うわぁぁぁぁあ!!??」


 崖を迂回した後、太陽を頼りに方角を読んで走って居ると、大きな衝撃に吹っ飛ばされた、どうやらかなり近くに隕石が落ちたようで、出元の方を見れば大きなクレーターが出来ていた。


 クレーターの深さは3mほど、もしもっと俺の近くに落ちて居たらと思うと恐ろしい。俺なんかミンチどころかただ消し飛んでしまって居ただろう。何も出来ずに死ぬなんて最悪だ。そうして俺は自分の運の良さに再び感謝した後、ビビりながら再び動き始めた。


「はぁ、はぁ」


 あれから走り続けていた。しかし、息が切れながらも俺の心は何故か高揚していた。漸く自由になる目処が立ちそうだからなのか、それとも禿げが死んだからなのか、それともその両方か、或いは他の何かなのか、自分には分からなかったけど好都合だった。


 辛い筈の今の状態でも辛くないし、動き続けられる、いつまで持つかはわからないけど成る可く長く続く事を祈るばかりだ。


 その後の道のりも長かった、川を渡って、荒野を抜けて、本当に多くの道を通る。そうして何度か小さな休憩挟んで、俺は走り続けた、南西へ、南西へと、ただ愚直に走り続けた。そうして走り続けていたら、もう限界が近いのか、目の前視界はどんどん白くなってなっていった。


 俺には何も考えられなかった。でも、ただ本能にしたがって走り続けた。目はどんどんと見えなくなって行って、視界はどんどん悪くなった。足元が、前が、上が、どんどんと見えなくなっていった。そうして遂には全く見えなくなった。足元にある小石にさえ躓きそうになった。どんどんと覚束ない足取りになって行った。でも考える事も出来なくて、それでも俺は走り続けた。


 そうして暫く、小石に躓いて、よろよろとなった所、砂に足を取られ、遂に俺は倒れた。死に物狂いのマラソンももう終わりだ。地面へと倒れ伏し、体が、顔が砂に汚れた。意識が朦朧として、しかし俺は動こうとした、体は、足は表情は、全てがぴくりとも動かせなかった。ただただ胸が痛く、呼吸があらかった。 息を吸うたびに胸が痛み、鼓動が鳴るたびに胸が痛んだ。痛くて痛くて痛くて、それだけしか無かった。痛い、痛い、痛い。遂には頭も痛くなり、身体の至る所から痛みを感じる様になった所で、俺の意識はなくなった。


 倒れ伏す俺の表情は苦痛に酷く歪んでいた。










 「うっ」


 意識を取り戻した俺は、砂の地面にキスをしていることに気付いた。不快に感じて動こうとしたが、どうにも体は言うことを聞かず、全く動かなかった。


眠い。


「さぁぁぁ」


 寝ぼけていた俺は目を閉じて、再び眠りにつこうとした。が、波の音が聞こえて「はっ!?」となり、再び意識を覚醒させた。そうして、今の状況と、そこに至った経緯とを思い出した俺は、ようやく危機感を取り戻せた。が、やはり体は言うことを聞かない、全くと言っていいほど動かない。う!ご!け!動けーーーーーー!!!!いくら気合を入れようにも動かない。指先と瞼と目くらいしか動かせない。


 「金縛りみたいだなこれ」と暢気な感想も浮かべる。


 暫く四苦八苦した俺は、限界を悟った。これはもしかしなくても、根性では無理なやつなのだろう。諦めて、時に身を任せようか。


「はぁーあ」


 だんだん眠くなって来たような気がする。動けないしもう寝よっかな。そうして不貞腐れた俺は、再び目を閉じた。


「ぐぅぅっぅぅ~~~~~~」


 寝ようとしてすぐに、俺の腹は轟音を鳴らし、飯が足りないことを訴えた。


 くそ、思い出しちまった。


 あんまり意識しないようにしては居たけど、腹が減ってしょうがないのだ、その上、喉もカラカラ。水は腰にあるから良いけど、飯なんてない、持ってない。その上持ってたって食べられる様な状態じゃない。どうしようもない事だから、さっきまでは考えないようにしていたのに。なのに俺の腹ときたら勝手なもんだ、良い音を鳴らしてくれたせいで余計に腹が減って来てしまった。いや、参った、参った。


 俺は砂浜で、一人倒れながら、腹が減った、水が飲みたい、体痛い、とただひたすらに考えていた。


 そうこうしてぶつぶつ考え続けたり、何度か動こうと試行錯誤して一時間ほど、俺は地面へのキスを止めて、ようやくに仰向けの体勢になっていた。口の周りにある砂はぬぐえずにいるけれど、ずっとキスしたままの状態よりは色々とましだ。空は相変わらず青くて、日差しは痛いほどにまぶしかった、このままじゃあ俺の顔面が日焼けすることは確定だな。時刻は3時頃、日差しも依然として厳しいものではあるけれど。そろそろ、もう少しましな日差しになる時間帯が来ることだけが救いだ。


 空は青いし綺麗だけど、太陽の強い日差しは、俺の目をひどく強く焼いた。目を閉じたり、眉間にしわをよせて見てみたけれど、大して効果は無かった。空を眺めていると、やはりというか、残念というべきか、頻繁に隕石の姿を見受けた。この島に落ちているのだろう、たまに地面から音が聞こえてきた。


 今更になるけど、ここはやっぱり南西部の海岸という事で良いんだろうか?太陽を見た感じだと南西部当たりだとは思うんだけど。起きてから今までの所では、近くに隕石が落ちて来た様な気配は感じて居ないし、やはりそうなのだろう。




 あーあ、暇だー。目と指先しか動かせないなんて最悪だー。


 じわじわと精神をむしばんでくる拘束感に苦痛にしびれを切らした俺は心の中で叫んだ。


 水も飲みたいし、飯も食べたい、動ければ何かしらの対策手段とか、解決方法とかが実践できるのだが、見事に俺は一ミリも動くことが出来ない。つまり今の自分は、なにをするにせいても誰かに助けてもらわねば生きられない、ともすれば赤子よりもか弱い存在なのだ。


 俺はいもしない俺捜索隊に一刻も早く発見してくれるように祈った。


 誰か、誰か助けてくれー。水をくれ、今は水が1番欲しい。水を飲ませてくれ、俺の腰にある水を飲ませてくれるだけでもいいんだ。お願いだ、誰か水を飲ませてくれ。


「ぁ"」


 声も出そうとはしてみるけど、どうにも出ない。掠れたような、喉が死んだような酷い音しか出ない、原因は色々ありそうだけど、なんにしろ悲しい有様だ。誰でも良いから、とにかく助けて欲しい。


 そうしてしばらく、俺は何をする事も出来ずにただ地面に這いつくばって居た、いや、倒れていた。もう二時間近くこの体勢じゃないだろうか?瞼が日を浴びすぎて暑い。でもまあ、日差しはあと1時間くらいの辛抱だ。そこまで耐えれば日は隠れる。そう思えば日差し程度は耐えられる。


「…………………………………」


 ついに日が落ちた、美しい夕焼けをバックに落ちていく沢山の流れ星らが作る景色は、命の危機を前にしてもなお、息をのむほどに美しかった。赤い夕陽に、架かる流星群の光との協奏は幻想的。だったのだけど、同時に、というか永遠となり続けている隕石の衝突音が、見事に終末の景色に塗り替えていた。綺麗だったとは思うんだけど状況と巻き起こす被害を考えるとただただ最悪だ。


 あーあ、なんか腹減った。


 暗い気持ちを切り替えるように愚痴の方向へと意識をシフトチェンジしたのだが、、、これは切り替える方向を間違えた。


「ぐ~~~~」


 ここぞとばかりに訴えてくる腹が憎い。腹が減ってしょうがない。

 しかし意識してしまったものはしょうがない。俺は痛いほど空腹を訴える腹をどうにか紛らわせるための手段を考えた。一ミリも動けないから自己完結するしかないんだけど。


 うーん…………どうしようか、…………………………………よし、つばでも飲んで腹を紛らわそう。


 結局しょうもない案しか考えられなかった俺はそのあと、唾をのんで空腹と水分不足をごまかそうと努力した。しかしやはりというべきか、何も変わらなかった。それどころか、食べられないことを、飲めないことを強く意識するきっかけにすらなってしまった。


 あーあ、どうにかならないものか。


 この苦痛を思うと、いっそ隕石に潰されて一思いに死んだほうがよかったのではないかとすら思えてきてしまう。痛いほどに減る腹と、頭痛を招く水不足。もう気持ちが悪くてしようがない。誰か、いっそのこと俺をひと思いに殺してくれ。


 思いながら、ぼうっと空を見上げるていると、何やらおかしな隕石を見つけた。引く尾は鮮烈な赤い色で、他に比べてかなりゆっくり目に落ちてきている様だった。どんどんと地下ずく其の隕石は、島との距離が近づくにつれて早く動いて見えるようになった。近づく、近づく。


 ふと、「あれがこっちに落ちてきたらすぐに楽になるのに」と思った。

 赤い美しい隕石が俺の命を刈り取ってしまえば、何もかも忘れ去れるのに、とも思った。


 どんどんと隕石はこちらに近づいてきていた。


 隕石を見ながら俺は、「どうせここには落ちない、今まで安全だったんだし、今もそのはずだ」と人ごとのように思っていた。


 でも、…………………………………他人事なんかじゃなかった。


 瞬く間に目の前へと迫ってきた隕石はあっという間に俺を吹き飛ばした。


 落ちる直前、空にはスローモーションの様に飛んでいく鳥も見えた、いろいろなくそみたいな思い出もフラッシュバックしそうだった。さっきまでは死んでも良いかもとかぼうっと考えていたのに、本当に死ぬ間際になった。


 本当に本当に、すべてが一瞬だった、隕石の速さの前にはすべてが遅すぎた。


 下らない、ちょっとした愚痴のような思いが現実になるなんて、なってしまうことなんてないと思っていたのだ。自分の事を、主人公か何かかと思って、本当に死ぬことなんていと思っていたのかもしれない。度重なる奇跡による洞窟脱出、都合よく目の前で死んだ禿、奇跡と気合でたどり着いた南西部の海岸。


 全てに、すべてから、俺はどこか浮かれてしまっていたのだろう、本当に自分が死ぬことなんてないと、奇跡的に助かるかもしれないと。そう考えてしまっていたのだろう。


 そうして、奇跡の連続の後俺は、信じられないほどにあっさり死を迎えた。

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