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揺れゆく世界

頭の中で錯綜する情報はそれぞれ結末のない物語のように何かを訴える。それが何なのかは未だ分からない。物語一つ一つは聡明な学者で、ゆく当てもなく霧の中へと消えていく。例えば次にような具合に。

「この世は地獄だよ。わたしたちは前世で悪い行いをしたから、その罰を受けているの。どう足掻いたって仕方がない。だってここは裁きを受ける場所だから。私たちは生前悪い人だったんだから、いまここでどんなに徳を積んでも報われることはないの。いま耐えて人に奉仕すれば、今度は幸福に生きられるかもね。でもそんなこと言ったってそれはわたしじゃないし、自分が報われるわけじゃない。いい行いはわたし自身には返ってこない。結局この世で人に奉仕することは遠い未来の新しい自分の依り代に宝飾品をつけてあげるのと一緒なのかもね。努力が報われる人種は天国の住人で、ここは天国と地獄を兼任しているから、彼らの発言はいよいよ毒よ。けれども彼らはそれに相応しい前世を持っているから、仕方がないのね」

少女は暗がりの中、たばこの赤い光に照らされながら言う。タバコを吸うたび光が灯って彼女のやつれた顔に影が出来、一層みじめに見える。

 「それはつまり、君の境遇が地獄のようだ、ということだろうか?」

 「いいえ」と答えて、彼女は深く息を吸う。

 「比喩ではないの。ここは地獄そのものなの。あるいは地球がそういう場所であるのかもしれない。とにかくここは地獄で、私たちはそういう連鎖の中で生きている。これは紛れもない事実よ」

 ビルの谷間に遠くから赤いヘッドライトの光が差し込む。

 「あなたはきっと解脱できるわ。私は地獄から、あなたがもう苦しまなくていいように祈っているわね。それが私にできる唯一の施しだから」

 「君は一体どこへ行くの?」

 「さぁ。行く当てなんてないわよ。目的なんてあったって行きつく場所は同じだもの」

 彼女はそのまま暗闇の中へ消えていった。残された私は救急隊員にされるがまま、担架に乗せられる。遠のく意識の中、私はしきりに過去を回想し、さいごの一場面に現れた少女のやつれた表情は白い煙とともに消えていった。

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