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「わたしからも一ついいかね」


 これまで事態を静観していたマーガレット様のお父上、レックス公爵の声が静かに響いた。


「ええ勿論です」


 魔導師様が答えると、レックス公爵は陛下をじっと見据える。


「これは陛下に問いたいのですがね。娘たちの婚約や今後についてはどうお考えで?」


 核心をつくその質問に私の心臓はピシャリと跳ねた。……そうだった。私たちの今後はどうなるのだろう。今の話が本当なら、彼らは魅了魔法によって操られていただけで……アンジェラ(マチルダ)様の事を好きだったわけではない……という事なのよね? だったら婚約は継続されるのかしら。でも、()()()姿を半年間も見せ続けられたんだもの。簡単には受け入れられないわ。


「……私たちも色々と考えてはいるのだが、魔法という前代未聞の要素が絡んだ事態だ。ニール王国との話し合いの兼ね合いもある。しかし、私は善良な若者の未来をこれ以上振り回すような真似はしたくない」


 陛下は申し訳なさそうな顔をしながらも、ハッキリとした口調で言った。


「婚約の破棄、継続については落ち着いてから本人、あるいは家同士で話し合ってくれ。私は両家で決めた事に口出しはしない。勿論罰を与える事もない」

「分かりました。ありがとう存じます」

「いや……これまで魔法についての知識と対策を怠ってきた王家の失態だ」


 後悔を滲ませた声が落ちる。陛下の隣に居た魔導師様は、今の話を聞いて「僕からも少しだけ」と口を開いた。


「彼らの名誉のためにこれだけは言っておこう。魅了にかかっている間、彼らの目にはマチルダの事が自分の最愛の女性の姿に見えていたそうだ」

「……え?」

「つまり、彼らにはマチルダが君たち婚約者の姿に見えていた可能性が高い」

「っ!?」


 彼女のことが私たちの姿に? だから半年間彼女の方を優先していたと?


「で、ですが! わたくしはビリー様に彼女をいじめたという理由で婚約破棄を告げられましたわ! 彼女がわたくしの姿に見えていたのなら、おかしいじゃありませんか!」


 それを聞いたソフィア様が叫ぶように言った。


「マチルダは彼らの記憶を自分の都合の良いように書き換えていたんだ。途中で相手が何かがおかしい、変だと思って抗っても、一度魅了にかけてしまえばどうとでも操れるから」

「そ……んな」

「……はぁ。これが彼女の使う魅了魔法の厄介なところでもあるんだよなぁ……たくさんの矛盾点も、洗脳で操って上手くおさめてしまう。まったく。才能の無駄遣いだよ勿体ない」


 魔導師様は深いため息をついた。


「もちろん、魅了にかかっていた間本物の婚約者(君たち)にした言動は消えない。例えそれが本心でなかったとしてもね。傷付いたのは君達だ。だから、破棄でも継続でも君達の思うようにすればいい。ただ、今僕が話した事も頭の片隅に置いておいてほしいなと思ってね。じゃないと、さすがに男性陣が浮かばれない」


 肩をすくめると、魔導師様は付け加えるように話し始める。


「そうそう。魅了が解けたとなると、偽物(マチルダ)に対して抱いていた感情は全て消え去り、本来の自分の感情が戻ってくる。本物(婚約者)のことを愛しているという感情がね」


 私たちは息を呑んだ。さっきから驚きの連続だ。


「そ、それじゃあ、ビリー様も……?」


 ソフィア様の声が震えている。


「ええ。魅了が解けた彼は貴方に婚約破棄を宣言した事をひどく後悔し、憔悴しています。他の男性たちも同じ状態だ。いやはや。魅了の後遺症は回復魔法で癒せても、心の傷は癒せないからもどかしいですねぇ」


 悲しそうに言った魔導師様の顔が、何故か印象に残った。



 *



 それからいくつか話をして、謁見は終了となった。


 帰りの馬車の中は重苦しい沈黙に包まれている。どうしましょう。入ってきた情報量が多すぎて私の脳では処理しきれないわ。


 大体、魔法が使われているなんて夢にも思いませんでしたもの。てっきり心変わりをして私に冷たくなったのかと。……でも、確かに。思い返してみれば、最初は言動が色々とおかしかった。アンジェラ様──いいえ、マチルダ様と約束があると言いながら私の元から離れようとしなかったり、お詫びの手紙やプレゼントが贈られてきたりしていたけど……もしかしてあれは魅了に抗っていたのかしら。それでまた洗脳されて彼女に夢中になっていったの?


 テオ様も色々と混乱していたのだろうか。というか、魔導師様は彼らの目には愛する人の姿が見えていたというけれど、テオ様の目に私の姿が見えていたという確証はない。私の心はぐちゃぐちゃだった。


 ああ……今日は本当に疲れたわ。とりあえず何も考えずに早く寝たい。


 馬車は、ゆっくりと屋敷に向かって進んで行った。

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