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ブライゼル、普通にディスられる


 ブライゼルは仕方無しに、昼食を3人分注文に向かった。毒茸と猪は離席するつもりは更々無いらしく、フレデリカの座るテーブルで会話を始めてしまったのだ。

 ところが、杖を突いて食堂のカウンターへ急ぐブライゼルをフレデリカが追いかけて来た。


「シュエット先輩、お手伝いします」

「⋯⋯ウラガン嬢⋯⋯?」

「松葉杖ですのに、料理を運ぶなんて大変でしょう?」

「そんな⋯⋯まだお食べになっている途中なのに⋯⋯」

「どうか気になさらないで。⋯⋯実を言いますと、あのお2人の隣に1人で居るのは緊張してしまいますの」


 そう言って、フレデリカは恥ずかしそうに笑った。幼い頃から共にいるブライゼルだからこそ、あの2人に免疫があるのだ。初対面の人間があの2人と会話を成り立たせるなんて恐らく不可能であろう。

 その事に思い至らなかった自分を心中ブライゼルは責め、フレデリカに必死で謝った。


(きっと毒茸とか、変な話しかして無いんですよね⋯⋯!すみません、ウラガン嬢⋯⋯本当にすみません⋯⋯!)


 それどころか、フレデリカはブライゼルを気遣ってゆっくり歩いてくれると云う優しさを見せてくれた。間を持たせる為の会話も弾む。


「学校の食堂は通路も広いのですね」

「校内は高位貴族の方や王族の方も利用されますからね、街中の食堂とは雰囲気も違うでしょう?」

「そうですね⋯⋯ふふ、私はこの通り身体が大きいですから、通路が広いと助かります」

「僕も今は杖を突いていますから、通路が広いと有難いですね」


 当初は申し訳無いと謝り倒していた心情も、フレデリカの和やかな雰囲気で心地良いものであった。それに然りげ無くブライゼルが人とぶつからない様に庇ってくれたのも非常に助かった。

 そんなフレデリカのお陰で難なくカウンターに辿り着いたブライゼルは、おばさんに「今日の定食ABCをひとつずつお願いします」と、注文した。食堂で食べる時は、何故か3人で別々のメニューを頼み、おかずをちょっとずつ分け合うのが定番なのだ。

 そんな3人を知るおばさんは、手際よくカウンターの奥からカートを取り出し、微笑ましそうに「受け皿も付けておくからね」と言ってくれる。このカートはブライゼルが運び易い様にとアルベルトが買ったものである。

 おばさん達がカートに料理を詰め込んでくれたので、ブライゼルはお礼を言ってカートを受け取ろうとしたのだが、その前にフレデリカがカートを受け取ってくれた。


「いけませんよ、松葉杖を突きながらだと危ないですから」

「でも」

「もしかしたら転んで料理をひっくり返してしまうかもしれません」

「う⋯⋯」


 ブライゼルは言葉に詰まった。実は以前やらかしているからだ。食器を返還する為にカートを押している時、何も無い所で躓いてカートをひっくり返したのだ。その時は怪我をしていた訳でも無いのに、見事に転んでしまってからは殊更慎重にカートを押す様になったのだ。

 あの時は料理が空だったから良いが(良くない)、また転ぶ様な事があったら⋯⋯ただでさえ、今は怪我をして日頃以上の鈍臭さなのである。

 ブライゼルはフレデリカの厚意に甘え、お願いする事にした。


「⋯⋯すみません、お願いします」

「はい、お任せくださいませ」


 カートを押すフレデリカは、ただ押すだけでは無くやはりブライゼルの歩みを気にしてちらちらと視線を送り、然り気無い会話を展開してくれた。

 鈍臭いブライゼルであるが、その気遣いに気付け無い程鈍い訳ではない。フレデリカの素晴らしさに触れて益々嬉しく思った。

 そうして和やかに進んでいた2人であったが、進行方向目的地のテーブルに、珍客が居る事に気付いた。


「いやぁ、お2人が揃ってこんな食堂でお食事とは⋯⋯!わたくしめにお言付け頂きますれば、サロンの一室や二室幾らでもご用意致しましたのに!」


 ジュリアン・ニューデルである。

 アルベルトもテュエリーザも白けた目を向けているのだが、それに気付いているのかいないのか、揉み手をして媚びを売っていた。

 誰も知らない事だが、ニューデルはアルベルトとテュエリーザに近付こうと、サロンを一室一室覗いて探していたのである。


「済まないが、私達は昼食は食堂を利用したいんだ。サロンは放課後のお茶に使う。それに予約はブライがしてくれる。お前の手を借りる事も無い、下がれ」

「しかしながら殿下!シュエットは足を痛めている様ではありませんか。動くのも難儀するでしょうねぇ」

「む⋯⋯」


 従者として入学した以上、雑用が出来ないブライゼルは居る意味が無い。その為、この配膳も本来ならやらせたくは無くてもやらせなくてはならなかったのである。サロンで食事をしないのも、料理を運ぶ距離を縮めたいからである。ブライゼルの鈍臭さをよく知る2人がなんとか考え出した苦肉の策なのだ。

 しかし、目の前のニューデルは痛い所を突いて来た。「怪我人には荷が重いだろう」と。


「⋯⋯あ、あいつ⋯⋯!」


 ブライゼルには珍しく、純粋に怒りが込み上げた。ニューデルの遣り口があまりに陰湿だからだ。

 そもそもブライゼルの怪我はニューデルの所為だし、その事を理由にテュエリーザとアルベルトを追い詰めているのも許せなかった。

 ブライゼルは松葉杖を必死に動かしてニューデルを止めようとした。ところが、そこでブライゼルを気遣って歩いていたフレデリカが急に歩幅を広くし、ニューデルを押し退けてさっさとテーブル横にカートを横付けしたのだ。


「失礼致します」

「うわっ⋯⋯⁉︎なんだ、おま、え⋯⋯⋯⋯⋯⋯⁉︎」


 当初ニューデルは怒りを顕にフレデリカを睨んで凄んだが、フレデリカの体躯を確認すると言葉は尻窄みになり、目と口をぽかんと開いた間抜け面を晒した。

 そんなニューデルに目も暮れずに、フレデリカはアルベルトとテュエリーザに礼をし、カートから料理をテーブルへ出した。


「お食事をお持ち致しました」

「あ、ああ。有難うフレデリカ」

「勿体無いお言葉で御座います。それにしても、シュエット先輩は流石で御座いました。お2人の好みのお食事をよく分かっていらっしゃるのですから」

「⋯⋯!そう、やっぱり君は分かってくれるんだね。有難う⋯⋯カワラタケみたいだ」


 アルベルトのその言葉を聞いて、ブライゼルもテュエリーザも吃驚した。あのアルベルトが、昨日今日会ったばかりの人間を茸に喩えたからである。


そろそろ⋯⋯待望の瞬間が⋯⋯

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