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ブライゼル、格好いい令嬢は可愛いと知る

ぽこぽこ更新。


 次の日の昼休憩時、アルベルトとテュエリーザの伴として食堂に行ったブライゼルは、一眼見たら忘れられないあの令嬢の姿を見た。

 1年生女子でありながらアルベルトと同じくらいの長身、騎士を目指す男子生徒よりも猛々しい筋肉、そして何よりその堂々とした態度。

 その女子生徒の姿を目に留めて、ブライゼルは急いで主人とその婚約者に声を掛けた。


「あ、アルベルト様、テュエリーザ様」

「どうしたの?ブライ」

「あちらの女子生徒、あの方です!」

「⋯⋯もしや、怪我した君を助けてくれた?どの子だ?」

「本当に?絶対にお礼を言わないと」


 昨日、あのままアルベルトと合流したブライゼルだったが、足を引き摺るブライゼルを見たアルベルトは激怒した。無様に怪我をしたブライゼルにでは無く、怪我を知らずにいた自分自身にである。

 なんせアルベルトにとって、ブライゼルは「小さくて脆い」ものらしいのだから、それはもう酷い怒り様だった。「そう云う感情は、婚約者のテュエリーザ殿下に」とブライゼルが忠告すると、「僕の天使は誰よりも美しく強いから、簡単に怪我なんてするものか」と、返されてしまった。

 そんな訳で、今のブライゼルはセレスタイン家印の痛み止めを処方され、足をぐるぐるに固定して松葉杖を突いていた。少々大袈裟では?と、ブライは思ったが、アルベルトもテュエリーザも当たり前の様にこの処置を施したのだった。


「それで、誰だい?その心優しい乙女は」

「あの方ですよ。栗色の髪で、後ろでひとつに結んでいる方です」

「⋯⋯え?何処?」


 ブライゼルが頻りにあの女子生徒を指し示しても、2人は困惑した様にその女子生徒を認識出来ない様だった。

 流石に仕方が無いと思ったブライゼルは、松葉杖を突いて窓際の席に1人座って食事をする女子生徒に近付いた。女子生徒の周りには誰も座って居らず、そこだけ空間が切り取られた様だった。


「あの、お食事中にすみません」

「⋯⋯はい?なんでしょうか⋯⋯⋯⋯あっ」

「昨日はありがとうございました。改めてお礼をしたいと思いまして」


 ブライゼルの姿を目に留めた女子生徒は、驚いた様にナプキンで口を拭った。食べていたのはケチャップのかかったオムライス。格好良いのに可愛いものを食べているなんて、なんて可愛らしいのか。ブライゼルは微笑ましかった。

 そんなブライゼルを、後ろからつつく人が居た。あるじのアルベルトとテュエリーザだ。

 テュエリーザはブライゼルの耳元に口を寄せ、ひっそりとブライゼルに気になった事を尋ねた。


「あ、あー、済まないが、ブライ。私にはその、⋯⋯⋯⋯女子生徒に見えないのだが?」

「ええ⁉︎何を仰るのですか殿下!流石に王族であっても失礼ですよ!」

「⋯⋯いや、嗚呼⋯⋯そう、そうだな。そうなんだが⋯⋯」


 テュエリーザに対して、アルベルトはまじまじとその女子生徒を観察し、頷いたかと思うとテュエリーザに耳打ちした。


「確かに女子生徒だよ。筋肉でよく分からなくなっているが、骨格は女性のものだ」

「アルベルト様もなんですか。一人の女性にお二人とも失礼ですよ」

「うんうん、すまなかったねブライ。お嬢さんも。僕達は大切な友人を助けてくれた人にお礼を言いたかっただけなんだ」


 椅子に座っていた女生徒はいつの間にか立ち上がりカーテシーをしていた。テュエリーザが王族であると知ったからである。

 テュエリーザも目の前の人物が立ち上がりカーテシーをしたのを見て、女性であると納得をした。貴族女性ならば幼少期から叩き込まれる姿勢である。それにしても、テュエリーザが惚れ惚れする完璧なカーテシーだった。


「顔を上げて楽にしてくれるか。私はテュエリーザ・ミネ・ユニヴェール。こちらは私の婚約者、アルベルト・フォン・セレスタイン。君の名前を教えてくれるか」


 テュエリーザが「楽に」と言ったが、女生徒はカーテシーをした状態のまま名乗った。


「フレデリカ・ウラガンと申します」

「⋯⋯⋯⋯何?確かその名前は⋯⋯」


 セレスタイン公爵からくれぐれも頼むと言われた、魔力無しの令嬢の名前である。真っ先に反応したのはテュエリーザで、目をまん丸にしてブライゼルを見た。

 ブライゼルは急いでアルベルトに耳打ちした。アルベルトも面倒を見なくてはいけない娘がいた事は覚えていたので、「ああ、うん」と、鷹揚に頷いた。


「先程天使が紹介したと思うけど、僕がアルベルト・フォン・セレスタインだ。昨日君が助けたブライゼルは僕の従者だ。まず、感謝をさせてほしい」

「勿体無いお言葉でございます」


 アルベルトに対しても完璧なカーテシーを崩さない。ウラガン家はセレスタイン家の寄子で傍系ではあるが、その血脈は離れて久しい。フレデリカにとってはアルベルトも王家同様尊き血であるのだろう。

 その姿勢にテュエリーザは益々感心した。魔無しだ等と言われても、腐る事無く研鑽した証であるからだ。


「礼儀正しく、他者に手を差し伸べる優しさを持つご令嬢だね。もし席が空いているなら、同席させて貰っても良いかな?」

「あっ、殿下!」


 テュエリーザは令嬢の返答を待つ事なく、さっさと令嬢の隣席へと座ってしまった。椅子を引かせてくれないのも、この猪姫ならではである。流石のフレデリカ嬢も困惑した様にテュエリーザの顔色を窺っている。


「良いから、皆座り給えよ。フレデリカ、私は是非君と仲良くなりたいのだ」

「⋯⋯お、畏れ多い事で御座います」

「エルがそう言うなら、僕も仲良くして貰いたいな。僕の天使は人を見る目が素晴らしいからね」


 そう言ってアルベルトも、さっさとテュエリーザの向かいに腰掛けた。やはり婚約者同様椅子を引かせてくれないのだ。ブライゼルは溜め息を吐いた。


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