ex.愛の為に
別に良いんじゃないかと思ってましたが、魔女エモニのその後です。ふわっと終わります。
その女は、後悔も反省もしていない。
何故自分がこんな目に遭っているのか、恨みも無いのだが、理解も出来ない。
(ワタシは、ただ愛して欲しかっただけなのに)
しかし愛を求めた結果、全てを失った。1人で生きる為の術も無ければ、頼れる誰かも。
(わからない⋯⋯ワタシ、何を間違ったの?)
それでも理解出来たのは、その土地に居続ける事は危険だと云う事。這々の体でその土地を逃げ出した女は、浮浪者の様に彷徨った。
あんなに見た目を気にしていたのに、顔も身体も汚らしくなった。ドレスは襤褸布に変わり、歩き難いからヒールの高い靴は自ら脱ぎ捨てた。柔らかい足裏はすぐに傷だらけになり血が滴ったが、あんな不安定な靴を履き続けるよりはマシだ。だが、これでは。
(こんなんじゃ、誰もワタシを愛してくれない)
足を引き摺りながら、女は進む。喉が渇けば泥水を啜り、飢えを覚えれば木の根を齧る。魔物に襲われないのが本当に運が良いのだが、そのあまりの惨めさに、涙が零れるではないか。
喉の渇きも飢餓感も、魔力が有れば全て解決出来たのに。魔力さえ有れば。
(⋯⋯魔力が有っても、愛されない)
愛した男からは憎まれた。同胞からは見放された。それは女自身の行いの所為だったのだが、女はそれを理解出来ない。
そして理解出来ないまま、女は遂に倒れた。
あの土地を飛び出して、どれくらい進んだだろう。もしかしたら、碌に進んでいないかもしれない。
朦朧とした意識のまま、女は諦め悪く踠いた。それはただ愛されたい一心、執念だった。
それでも終わりは呆気ない。女の意識は暗く沈む。
しかし運命とでも云うのか。
女の意識は再び浮上した。
汚らしい幌馬車、その荷台に、汚らしい女は寝かされていた。
女を拾ったのは若く厳しい男で、無口だった。その様が、かつて愛した男に似ている様に感じるのは、何かの皮肉だろうか。
毛皮を売る為遠出をした帰りだと言う男は、東から来た猟師らしい。喋る事が不得意らしく、よく口籠もる。そしてそれを誤魔化す様に眉を掻く癖があった。
(⋯⋯⋯⋯今度こそ、上手くやるわ)
初心な男に、女は擦り寄った。
全ては愛される為に。




