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エモニ、醜い嫉妬の成れの果て

まさかの魔女視点。




 結論を言ってしまえば、フレデリカの振り下ろした剣は呆気なくエモニの身体を斬り裂いた。

 しかし、斬り裂いた筈のエモニの肉体は血の一滴も流れる事は無く、エモニは困惑した様に自身の肉体を見遣った。


「⋯⋯何、これは⋯⋯⋯⋯⋯⋯?⋯⋯あっ⁉︎」


 急速に体内の魔力が減少し、力が抜けて行く感覚。エモニは空中に漂っていた自身を安定させる事が出来ず、真っ逆様に地面へと墜落した。

 そのまま無様に荒地へ激突するかと思われたエモニだったが、誰かが重力魔法を展開したらしく、ふんわりと地上に着地する事が出来た。

 だがそれよりも。自分が無事に降りた事よりも、エモニは体内で魔力が作り出せない事に気が付いた。実際には練れるのだが、何時もの様に大量の魔力が感じ取れない。あんなに自在に、思うまま、感じるまま、息をする様に操っていた魔力が。


「え⋯⋯?何よ⋯⋯一体⋯⋯魔力の流れが⋯⋯?」


 魔法を使おうとフレデリカへ向けて腕を振るうも、何時もなら赤々とした焔の大蛇が唸り上げると云うのに、ぱちっと火花が爆ぜただけで終わった。

 信じられない思いで火、水、風、土⋯⋯次々と魔力を練るものの、何の手応えも感じなかった。


「破断の⋯⋯何でしたかしら、魔女協会からお借りしましたの」


 そう言って、フレデリカは握り締めていた剣を撫でた。その剣の刀身は白く美しいが、柄に禍々しい紫色の宝石が嵌められている事に気が付いた。

 エモニはその剣を見た事は無かったのだが、魔女協会が所有する剣には心当たりが有った。


「⋯⋯カルンウェナン(破断の剣)⋯⋯?」

「⋯⋯ああ、確かに⋯⋯その様な名前でした」

「嘘、本当に⋯⋯あ、あ、ああああ⋯⋯」


 信じられないと、エモニは気が狂いそうになるのを必死で堪えた。

 カルンウェナンは魔女協会が秘密裏に所有する、魔法使いを殺す為の武器だ。詳細は知らないが、人間では無く魔法使いにだけ有効な武器との事だった筈だ。

 エモニは、眉唾だと思っていた。だって魔法使いも剣で斬り付けられれば同じ様に死ぬ。対魔法使いの武器があるとするならば、ドワーフが作る魔法武器が1番の兵器だろう。だが、もし今フレデリカが持っている剣がそれならば。

 斬り付けられて、初めて何故魔法使いを殺すと言われているのか理解出来た。カルンウェナンは魔法使いの肉体では無く、魔臓を殺す武器だった。

 魔臓とは魔法使いや妖精達が持つ、身体の何処かに在る魔力器官の事だが、実際にはそれが何かは解明されていない。それは心臓だと言う者も居れば、脳だと主張する者も居たからだ。

 魔女協会に居る今の協会長が、魔臓とは神々と交わした魔法の「契約」みたいなものだと論文を出していた事は記憶に新しい。エモニはその論文を読んで、鼻で笑った事を思い出した。

 魔女協会がその武器を所有した経緯は不明であったが、剣を破壊する訳でも無く、所持し続けていた事は何となく理解が出来た。

 規律を乱す罪人を処刑する為。見せしめの為に。


「どうして⋯⋯!どうしてあんたがその剣持って来てんのよぉおッ‼︎」


 自分が本当に仲間達から疎まれていた事を理解したエモニは、遂に絶望に圧し潰されて叫んでいた。いや、もう既に仲間では無い。魔臓を失ったエモニは、魔女では無い。

 だが、せめてカルンウェナンを振るったのが魔法使いの誰かだったなら、彼女はここまで絶望を覚えなかったに違いない。何故、よりにもよってフレデリカなんぞに。自身が呪った弱い者に屠られねばならないのか。


「⋯⋯ええ、そうですね」


 フレデリカは衝動のまま叫ぶエモニの言いたい事を正しく理解し、彼女を見下ろしながら、カルンウェナンの(きっさき)を向けた。


「簡単です。この剣を振るえるのは()()()()()()()人間だけなのです」

「は⋯⋯?」

「私も詳しくは知りません。今でこそ魔法使い達が所有していますが、この剣は神々がか弱き人の為に与え給うた反攻の武器だそうですよ」


 でも私、私以外で魔力の無い方を見た事なんて無いのですけどね。フレデリカはそう言って穏やかに笑った。

 昨今魔法を使えない人間だとしても、絶対に魔力を持っているものだ。それこそ、フレデリカの様に魔女の呪いに掛かって魔力自体を奪われていなければ。


(⋯⋯なんて皮肉)


 エモニを殺したのは、エモニ自身だ。あんな馬鹿みたいな呪いを掛けなければ。いや、そもそも醜い嫉妬心なんて抑えていれば。

 これからエモニは、只人の様に生きなければならない。この衰えを知らない容色も、醜く老いさらばえるだけだ。


(ワタシは、愛が欲しかっただけなのに)


 しかし魔力も凡庸で、他者に呪いを振り撒いて来たエモニを愛してくれる誰かが居るだろうか?この美貌も何れは失われる。

 自分自身が何も持っていない事に気付き、エモニは乾いた笑いを浮かべるしか出来なくなった。


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