はじまりのフレデリカ
本物のフレデリカの話です。
ぽちぽち書いていきます。
ウラガン男爵家に産まれた待望の第一子は、とっても可愛らしい令嬢であった。
だが、その産まれたばかりの赤子をその腕で掻き抱いたウラガン男爵は、涙を流して出産を終えたばかりの妻に謝り続けた。
「すまない、すまない⋯⋯」
「⋯⋯いいえ、貴方の所為では無いのですから」
ウラガン夫人も涙が止まらなかった。喜びの涙では無く、悲しみの涙である。
本当は夫人も叫びたかった。思い切り暴れて夫である男爵を罵倒したかった。それでも、男爵は本当に何も悪い事なんてしていないから。
「貴方はただ、誰かに親切を施しただけなのよ⋯⋯」
***
そう、フレデリカ・ウラガンはウラガン男爵家待望の第一子であったが、とある事情から魔力が皆無であった。
何故魔力が無いのか、それは両親の責任でも、ましてやフレデリカの責任でも無い。事実、両親のウラガン夫妻は娘のフレデリカをそれはそれは可愛がった。教養高くなる様マナーを熱心に教え、知識に困らぬ様に家庭教師を雇い、それでも厳し過ぎて愛情が疑われぬ様家族の時間も大切にした。夫妻の望み通り、フレデリカは賢く教養高く、何よりも優しい娘として育っていった。
しかし、どんなにフレデリカが素晴らしい娘であったとしても、貴族社会では魔力の無い娘など望まれるものではない。
ウラガン夫妻は伝手を頼りに、とある伯爵家の長男とフレデリカの婚約をなんとか漕ぎ着けた。その伯爵家は魔獣や魔物の被害が多く、ウラガン男爵家の精強な軍隊を望んでいたのである。
斯くして婚約者を得る事となったフレデリカだったが、面白く無いのはその婚約者であった。
「なぜこの僕が魔無しと結婚なんてせねばならないんだ!」
ウラガン家のある魔法王国は、書いて字の通り魔力を重視する国である。魔力が欠片も無いフレデリカが死ぬ程嫌だった彼は、影で彼女を虐める様になった。
「魔無し」と言われるだけでも屈辱的だと云うのに、フレデリカの人間性、容姿、果ては両親、幼い弟や領民を悪し様に語って聞かせたのだ。
フレデリカの屈辱と言ったら、言い表せようも無いものであった。
それでもこの婚約は両親がくれたものだからと、フレデリカは耐えた。耐えて耐えて、自身の存在意義を見出せない様になって、夢も希望も無くなった頃である。
天啓を頂いたのだ。
──僕も出来ない事だらけです。
「⋯⋯でも、あなたは私と違います」
──違いませんよ。出来ない事は出来ない。悔しいけれど、それだけはどうしようも無いです。
「⋯⋯そうですよ、どうしようも」
──それなら、別の事で補えば宜しいのです。
「だ、だからそんなの⋯⋯」
──例えば、あの木に生っている木の実、僕は木登りなんて出来ませんから、このままじゃ取れません。
「⋯⋯⋯⋯」
──だから、梯子を持って来ます。棒で叩いても良いですけど、流石に実が潰れてしまっては困りますから。
「⋯⋯つまりは何のお話なのですか?」
──過程を変えても、結果さえ同じなら良いと云う事です。
「結果⋯⋯?」
──僕は貴女が出来ない事を知りませんが、結果的に出来てしまえば良いのです。
まさしく天啓であった。
「結果的に出来てしまえば」なんて、周り道が許されている事だけである。それでも、追い詰められていたフレデリカにとって、これ程までに救われる言葉も無かったのである。
(⋯⋯そう、そうよね!過程がどうあれ魔法みたいな事が出来れば良いのだわ!)
その日から、フレデリカの猛特訓が始まったのである。